カエリの書 其ノ参ノ弐
文字数 1,910文字
レナは、意外な表情だった。
「お祖母ちゃん、嬉しそうね。」
「そうかね……。」
「そうだよ。もしかだけど彼に口説かれたとか。」
「そうだね……。」
レナの悪意がない冗談に老婆は含み笑った。幼女のような天真爛漫な仕草に見惚れた。誰かに似ていると思ったが、記憶の中では探せないままレナの声に我に返った。
「どうしたの。君もボーっとして。」
「ゴメン、御婆様ってとても優しい感じがしたから。」
「お二人、相思相愛って感じ? わたし、お祖母ちゃん似だって。若い頃に瓜二つらしいよ。」
改めてレナをまじまじと眺めた。本質的なの部分で祖母に似ているから意味が分かる気がした。何故なのかカエリの刃物を秘匿するような美しさと比べていた。
『なんだろう。カエリにも近い気がする……。』
そう思うと、少し背筋に寒いものを感じてしまった。
西瓜は、レナの祖母が育てたものだった。瑞々しい甘さに思わず口元が緩んだ。その様子に気付いたレナが優しい眼差しを向け促した。
「褒めてあげてよ。」
「すごく美味しいです。」
率直な感想を言葉にすると祖母は、乙女のような恥じらいを見せた。
「よくできました。ねぇ、わたしも一緒に話を聞いていい?」
レナの言葉に断る理由がなかった。
桜の大木がある館にまつわる話は、予想よりも重苦しいものだった。南北朝の時代に出城があった場所は、戦絡みの悲惨な出来事とよくない伝承が残っていた。
「その御霊をお鎮めするために江戸期までは、小さなお社が祀られていたと聞きます。あの館は、明治の頃に財を成した実業家が西洋人に設計を依頼した建物です。」
巫女を住まわせていた話に困惑した。館の持ち主が短い間隔で変わり、二次大戦後の混乱期に空き家になる理由は、不可解で摩訶不思議だった。その後は、誰も使わずに年数が過ぎていた。人が住まない家屋は傷みが早くなると聞くが、あの館は綺麗に整備され掃除が行き届いているのを想い返した。
老婆が語りおえると、先ずはいくつかの疑問を向けた。
「今は、誰かお住まいでしょうか。」
「長く誰も住んでいない話ですが。……つい最近です、遠縁の一人が戻られたとか。」
「どんな方でしょうか。」
「定年退職なさった男性と聞きましたでしょうか。」
「男の方ですか……、その人に子供さんとかご家族の方がいる話はどうですか。」
「そこまでは存じませんが、確かめておきましょうか。」
祖母の話からどのように世間の話題を仕入れているのか気になった。茶飲み友達がいるのか出入りの人が多いのか催しで外出することもあるのかと色々と考えを巡らせた。
「どうして、あの御屋敷をお尋ねになられましたか。」
祖母の質問に少し迷ったが、偽る必要もないように思えた。夏休み前に館の近くで同じ高校の制服姿の女子に出会い館に招かれた話を包み隠さずに語った。傍らで黙って聞き続けるレナの驚きながらも疑わない表情に救われた。祖母は、暫く沈黙を続けた。困惑している様子は伝えようか判断に迷っていたのだろう。
「不思議なことです。若い頃に、貴男と同じ話を聞いたことがあります。」
そう断って語り始めた内容に愕然となった。祖母の知り合いが体験した話と寸分の違いもなかった。
思いの外、長居した。レナは、黄昏時の道を途中まで送ってくれた。
「占いが得意だと聞いたけど。」
噂が広がっているのに驚かされた。仲間内での相談にデッキを使っているからだろうか。レナが、少し躊躇いながら話を持ち出した。
「モノ捜しって、頼める?」
「遊びだから。」
「それでもいいよ。ダメ?」
レナのちょっと甘える仕草が意外だった。教室では、物静かな生真面目な優等生に見られていたから。軽く揶揄うつもりで尋ね返した。
「探し物が、幸せとか言わないよね。」
「ふふふふっ……、仰いますね。」
レナは、立ち止まり綺麗な笑顔を向けた。円らな綺麗な瞳に吸い込まれそうになった。
「想像していたよりも、柔軟なんだね。」
レナの飾らない表現を受け止めながらに周りからの評価が気に掛った。
「僕は、堅物に見られていたのかな。」
「物事に動じない強い意志を感じるからじゃないかな。」
「褒められてる?」
「そうかもね。」
自然に会話が交わせる安心感は、昔からの知り合いのような気兼ねなさで和み楽しくなった。
『こんな感じ初めてだな……。』
そう思い快諾した。
「今日は、ありがとう。」
「どういたしまして。もし嫌じゃなかったら、お祖母ちゃんの話し相手に来てくれないかな。あんなに嬉しそうなの初めてだよ。」
予想もしていなかったレナの申し出は、祖母との話を名残惜しく思っていたから嬉しかった。
「お祖母ちゃん、嬉しそうね。」
「そうかね……。」
「そうだよ。もしかだけど彼に口説かれたとか。」
「そうだね……。」
レナの悪意がない冗談に老婆は含み笑った。幼女のような天真爛漫な仕草に見惚れた。誰かに似ていると思ったが、記憶の中では探せないままレナの声に我に返った。
「どうしたの。君もボーっとして。」
「ゴメン、御婆様ってとても優しい感じがしたから。」
「お二人、相思相愛って感じ? わたし、お祖母ちゃん似だって。若い頃に瓜二つらしいよ。」
改めてレナをまじまじと眺めた。本質的なの部分で祖母に似ているから意味が分かる気がした。何故なのかカエリの刃物を秘匿するような美しさと比べていた。
『なんだろう。カエリにも近い気がする……。』
そう思うと、少し背筋に寒いものを感じてしまった。
西瓜は、レナの祖母が育てたものだった。瑞々しい甘さに思わず口元が緩んだ。その様子に気付いたレナが優しい眼差しを向け促した。
「褒めてあげてよ。」
「すごく美味しいです。」
率直な感想を言葉にすると祖母は、乙女のような恥じらいを見せた。
「よくできました。ねぇ、わたしも一緒に話を聞いていい?」
レナの言葉に断る理由がなかった。
桜の大木がある館にまつわる話は、予想よりも重苦しいものだった。南北朝の時代に出城があった場所は、戦絡みの悲惨な出来事とよくない伝承が残っていた。
「その御霊をお鎮めするために江戸期までは、小さなお社が祀られていたと聞きます。あの館は、明治の頃に財を成した実業家が西洋人に設計を依頼した建物です。」
巫女を住まわせていた話に困惑した。館の持ち主が短い間隔で変わり、二次大戦後の混乱期に空き家になる理由は、不可解で摩訶不思議だった。その後は、誰も使わずに年数が過ぎていた。人が住まない家屋は傷みが早くなると聞くが、あの館は綺麗に整備され掃除が行き届いているのを想い返した。
老婆が語りおえると、先ずはいくつかの疑問を向けた。
「今は、誰かお住まいでしょうか。」
「長く誰も住んでいない話ですが。……つい最近です、遠縁の一人が戻られたとか。」
「どんな方でしょうか。」
「定年退職なさった男性と聞きましたでしょうか。」
「男の方ですか……、その人に子供さんとかご家族の方がいる話はどうですか。」
「そこまでは存じませんが、確かめておきましょうか。」
祖母の話からどのように世間の話題を仕入れているのか気になった。茶飲み友達がいるのか出入りの人が多いのか催しで外出することもあるのかと色々と考えを巡らせた。
「どうして、あの御屋敷をお尋ねになられましたか。」
祖母の質問に少し迷ったが、偽る必要もないように思えた。夏休み前に館の近くで同じ高校の制服姿の女子に出会い館に招かれた話を包み隠さずに語った。傍らで黙って聞き続けるレナの驚きながらも疑わない表情に救われた。祖母は、暫く沈黙を続けた。困惑している様子は伝えようか判断に迷っていたのだろう。
「不思議なことです。若い頃に、貴男と同じ話を聞いたことがあります。」
そう断って語り始めた内容に愕然となった。祖母の知り合いが体験した話と寸分の違いもなかった。
思いの外、長居した。レナは、黄昏時の道を途中まで送ってくれた。
「占いが得意だと聞いたけど。」
噂が広がっているのに驚かされた。仲間内での相談にデッキを使っているからだろうか。レナが、少し躊躇いながら話を持ち出した。
「モノ捜しって、頼める?」
「遊びだから。」
「それでもいいよ。ダメ?」
レナのちょっと甘える仕草が意外だった。教室では、物静かな生真面目な優等生に見られていたから。軽く揶揄うつもりで尋ね返した。
「探し物が、幸せとか言わないよね。」
「ふふふふっ……、仰いますね。」
レナは、立ち止まり綺麗な笑顔を向けた。円らな綺麗な瞳に吸い込まれそうになった。
「想像していたよりも、柔軟なんだね。」
レナの飾らない表現を受け止めながらに周りからの評価が気に掛った。
「僕は、堅物に見られていたのかな。」
「物事に動じない強い意志を感じるからじゃないかな。」
「褒められてる?」
「そうかもね。」
自然に会話が交わせる安心感は、昔からの知り合いのような気兼ねなさで和み楽しくなった。
『こんな感じ初めてだな……。』
そう思い快諾した。
「今日は、ありがとう。」
「どういたしまして。もし嫌じゃなかったら、お祖母ちゃんの話し相手に来てくれないかな。あんなに嬉しそうなの初めてだよ。」
予想もしていなかったレナの申し出は、祖母との話を名残惜しく思っていたから嬉しかった。