導き 其ノ弐ノ参
文字数 2,107文字
「君の家って、この近く?」
「そうだけど。」
細身のレナは、立ち姿が華麗だった。入学当初から見目形で話題に上がる女子だった。
「あの館のこと、何か知ってる?」
「えっ……、どれのこと。」
レナの戸惑う姿を目にして考えてしまった。指し示す先を彼女は真剣に探していた。
「……桜の木の近く?」
「民家が立ち並ぶその少し上、大きな桜の傍。」
「どれかな……。」
レナの見当をつけられない様子に落胆を隠し尋ねた。
「古い大きな館なんだ。聞いたことないかな。」
「お祖母ちゃんなら何か知っているかも。聞いておこうか。」
レナが、少し労わるように話を続けた。
「でも、今日は、どうしたの。しばらく休んでいたのに。」
「えっ……。」
今度は、彼女の言葉に驚く番だった。
「終業式行ってただろう。」
「来ていなかったよ。」
「一昨日の終業式。」
そう言って、記憶を整理して続けた。
「体育館で校長の話の最中に地震があった。」
「……そうだったけど。」
レナは、明らかに困惑して視線が泳いでいた。その姿は、揶揄っているように見えなかった。恐る恐る確認するように尋ねた。
「僕は……、休んでいた? ……いつから?」
「ええっと、……先週の木曜日でしょう。」
レナの記憶を手繰り寄せるような答えを聞きながら曜日を計算した。
「今日は、水曜日だ。」
「そうね……、水曜日。」
「昨日、学校に行ったんだ。リラと一緒に帰った。」
「そぅ……。でも、終業式まで休んでたよ。」
「どうしてだ。」
「えっ……。」
絶句するレナは、明らかに距離を置いた。
帰り道は、混乱と困惑とで遠かった。家に母親は居なかった。確かめようとする気持ちが削がれて放心して椅子に座った。
暫くして、考えを纏めるようと今日に到る時系列を書き出した。
【水曜日、……今日。】
【火曜日、……昨日は、夏休みの初日。リラから連絡があって学校の屋上で待ち合わせた。】
【月曜日、……終業式。体育館で集会の時、地震があった。】
【日曜日、……ユウタたちとスケボーした。】
ノートに書いてみると、記憶の正確さが確認できた。
「……変じゃない。」
そう声に出して安心した。しかし、それから先が曖昧だった。
『土曜、金曜って何していた……?』
思い出せなかった。カエリの館を訪れた曜日が解せなかった。
『あの日、学生服を着ていた。ということは、金曜か木曜……。』
そう思っても記憶が混濁していた。辻褄が合わなかった。
「……木曜から休んでいると、レナは云っていた。」
スマホの通信履歴を確かめると、前週の木曜日まで遡って何もなかった。ユウタたちと投稿用に撮った動画も。
「嘘だろう……。」
リラが、部活帰りの夕刻に立ち寄った。憔悴しきっている幼馴染の姿を目にして警戒しながら尋ねた。
「何かあったの。」
「何でもないない。」
そう返事するしかなかった。リラの視線が心配していた。
「そぅ、まぁ、いいけど。台本を書いた先輩のこと聞いてきたよ。」
リラは、話し出した。
「その先輩、高原の療養所にいるらしいの。」
「まてよ。その先輩が部活に来て決めたんじゃないのか。」
「ナオ先輩の話では、顧問の先生に直に連絡があったとか。」
リラの話を考えを被せながらリラに尋ねた。
「それで、その先輩の家は?」
「それが、誰も知らないの。」
「マジかよ……。」
気持ちを整理するように話題を変えた。
「……なぁ、僕は、先週学校に行っていたよな。」
「えっ、熱が出たって休んでいたし。」
「昨日、お前と待ち合わせたよな。」
「と言うよりも、わたしが屋上で昼寝をしている君を見つけて起こしたわけでしょう。」
夏休みの初日に学校の屋上で昼寝をしていた記憶があった。しかし、よく考えてみると、その以前の記憶が曖昧だった。学校に行った理由が、リラから相談を持ち掛けられて呼び出されたように信じていたのだ。
「どうして、屋上で昼寝していたのかな……?」
「知るわけないし。」
リラは、呆れたように言った。
「こっちが驚いたよ。発声練習に屋上に上がると、暫く休んでいた君が寝ているんだから。」
「お前が相談あるからって、わざわざ行ったんだろう。」
「違うでしょ。相談を持ち掛けたのは、その後。君を起こしてからだし。もぅ、揶揄ってる?」
時間の流れに整合性が欠落していた。
「僕は……、休んでいた? ……いつから?」
「先週の木曜日。」
レナと同じ返事だった。その日は、憶えていなかった。ふと、カエリの館に招かれた日のような気がするのが、不可思議だった。重複する記憶に戸惑いながら過去の時間を手繰り寄せるようにして尋ねた。
「先週の木曜日の朝、お前が誘いに来て一緒に学校に行っただろう。」
「えっ……、だから、行っていないって。あたしが寄ると、小母さまから玄関で君が熱を出したって聞かされたよ。」
リラは、怪訝な表情を向けた。
「ねぇ、小母さま居ないの。聞けば、解決でしょう。」
母親の帰宅が遅くなるのを話した。
「連絡、しなさいよ。」
リラは、そう勧めてから自分のスマホを取り出した。
「待って。わたしが聞くから。」
「そうだけど。」
細身のレナは、立ち姿が華麗だった。入学当初から見目形で話題に上がる女子だった。
「あの館のこと、何か知ってる?」
「えっ……、どれのこと。」
レナの戸惑う姿を目にして考えてしまった。指し示す先を彼女は真剣に探していた。
「……桜の木の近く?」
「民家が立ち並ぶその少し上、大きな桜の傍。」
「どれかな……。」
レナの見当をつけられない様子に落胆を隠し尋ねた。
「古い大きな館なんだ。聞いたことないかな。」
「お祖母ちゃんなら何か知っているかも。聞いておこうか。」
レナが、少し労わるように話を続けた。
「でも、今日は、どうしたの。しばらく休んでいたのに。」
「えっ……。」
今度は、彼女の言葉に驚く番だった。
「終業式行ってただろう。」
「来ていなかったよ。」
「一昨日の終業式。」
そう言って、記憶を整理して続けた。
「体育館で校長の話の最中に地震があった。」
「……そうだったけど。」
レナは、明らかに困惑して視線が泳いでいた。その姿は、揶揄っているように見えなかった。恐る恐る確認するように尋ねた。
「僕は……、休んでいた? ……いつから?」
「ええっと、……先週の木曜日でしょう。」
レナの記憶を手繰り寄せるような答えを聞きながら曜日を計算した。
「今日は、水曜日だ。」
「そうね……、水曜日。」
「昨日、学校に行ったんだ。リラと一緒に帰った。」
「そぅ……。でも、終業式まで休んでたよ。」
「どうしてだ。」
「えっ……。」
絶句するレナは、明らかに距離を置いた。
帰り道は、混乱と困惑とで遠かった。家に母親は居なかった。確かめようとする気持ちが削がれて放心して椅子に座った。
暫くして、考えを纏めるようと今日に到る時系列を書き出した。
【水曜日、……今日。】
【火曜日、……昨日は、夏休みの初日。リラから連絡があって学校の屋上で待ち合わせた。】
【月曜日、……終業式。体育館で集会の時、地震があった。】
【日曜日、……ユウタたちとスケボーした。】
ノートに書いてみると、記憶の正確さが確認できた。
「……変じゃない。」
そう声に出して安心した。しかし、それから先が曖昧だった。
『土曜、金曜って何していた……?』
思い出せなかった。カエリの館を訪れた曜日が解せなかった。
『あの日、学生服を着ていた。ということは、金曜か木曜……。』
そう思っても記憶が混濁していた。辻褄が合わなかった。
「……木曜から休んでいると、レナは云っていた。」
スマホの通信履歴を確かめると、前週の木曜日まで遡って何もなかった。ユウタたちと投稿用に撮った動画も。
「嘘だろう……。」
リラが、部活帰りの夕刻に立ち寄った。憔悴しきっている幼馴染の姿を目にして警戒しながら尋ねた。
「何かあったの。」
「何でもないない。」
そう返事するしかなかった。リラの視線が心配していた。
「そぅ、まぁ、いいけど。台本を書いた先輩のこと聞いてきたよ。」
リラは、話し出した。
「その先輩、高原の療養所にいるらしいの。」
「まてよ。その先輩が部活に来て決めたんじゃないのか。」
「ナオ先輩の話では、顧問の先生に直に連絡があったとか。」
リラの話を考えを被せながらリラに尋ねた。
「それで、その先輩の家は?」
「それが、誰も知らないの。」
「マジかよ……。」
気持ちを整理するように話題を変えた。
「……なぁ、僕は、先週学校に行っていたよな。」
「えっ、熱が出たって休んでいたし。」
「昨日、お前と待ち合わせたよな。」
「と言うよりも、わたしが屋上で昼寝をしている君を見つけて起こしたわけでしょう。」
夏休みの初日に学校の屋上で昼寝をしていた記憶があった。しかし、よく考えてみると、その以前の記憶が曖昧だった。学校に行った理由が、リラから相談を持ち掛けられて呼び出されたように信じていたのだ。
「どうして、屋上で昼寝していたのかな……?」
「知るわけないし。」
リラは、呆れたように言った。
「こっちが驚いたよ。発声練習に屋上に上がると、暫く休んでいた君が寝ているんだから。」
「お前が相談あるからって、わざわざ行ったんだろう。」
「違うでしょ。相談を持ち掛けたのは、その後。君を起こしてからだし。もぅ、揶揄ってる?」
時間の流れに整合性が欠落していた。
「僕は……、休んでいた? ……いつから?」
「先週の木曜日。」
レナと同じ返事だった。その日は、憶えていなかった。ふと、カエリの館に招かれた日のような気がするのが、不可思議だった。重複する記憶に戸惑いながら過去の時間を手繰り寄せるようにして尋ねた。
「先週の木曜日の朝、お前が誘いに来て一緒に学校に行っただろう。」
「えっ……、だから、行っていないって。あたしが寄ると、小母さまから玄関で君が熱を出したって聞かされたよ。」
リラは、怪訝な表情を向けた。
「ねぇ、小母さま居ないの。聞けば、解決でしょう。」
母親の帰宅が遅くなるのを話した。
「連絡、しなさいよ。」
リラは、そう勧めてから自分のスマホを取り出した。
「待って。わたしが聞くから。」