第17話

文字数 844文字

『少し蒸し暑く感じられるようになった6月の初旬、雑木林の中から30代前半とみられる男性の遺体が発見された。

男性は友人と旅行に出かけると言って家を出たまま、行方がわからなくなり、男性の妻が捜索願を届け出ていたという。

遺体には首を絞められたような痕があり、警察は殺人死体遺棄の疑いで捜査している。』

たかひろとの旅行から2〜3週間経ったある日、堀木は殺人死体遺棄の容疑で逮捕された。

彼は一部容疑を認め、「彼を苦しみから解放したかった」などと供述した。

そして、精神鑑定の結果、「責任能力あり」と認められ、懲役刑を言い渡されたのであった。

裁判所でたかひろの妻を見たのは、彼らの結婚式以来のことだった。

「夫は、あなたのことを学生の頃からの親友でとても頼りがいのある人だと言っており、私も仲が良いのだと思っていました。
それなのに、何故殺されなければならなかったんですか?
夫に何のうらみがあるんですか!!」

たかひろの妻は、被害者遺族による心情意見陳述において、このように述べて泣き崩れた。

堀木はその様子を非情なまでに冷静に眺めていた。

うらみがあって、憎くて殺したのではない。

過去の自分がたかひろへ犯した罪、
そして二人が重ねていった罪。

自分が罪を全て背負い、彼を全ての苦しみから解放するために殺した。

俺は何も間違ったことはしていない。

ただ一つ、気がかりなのは、もう10年近く会っていない娘のこと。

きっと娘は、ニュースや新聞で俺の名前を知るだろう。

殺人犯の娘だと知った時、彼女はどう思うだろうか。

妻と離婚して以来、いつか娘に会いたいと思いながらずっと養育費を出してきた。

けれども、今になってようやく、会わないままでよかったと思った。

この先ずっと、決して会うことはないだろう。

娘にも、そしてたかひろにも。

愛していると言える根拠、それは愛する者を失うこと。

俺は後悔していない。

娘は幼い子供のままで、たかひろは生意気でかわいい後輩のままで。

俺の記憶の中で生き続けるだろう。

今も、そしてこれからもずっと、愛してる。




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