第11話

文字数 819文字

       11

 前半の三十分、フログモスの3番から、5番へとパスが入った。
 即座に寄せた皇樹は、前を向いた5番に身体をぶつけて、吹き飛ばした。ボールを奪い、ドリブルを始める。
 すぐさま3番が当たるが、皇樹は身体を揺らすフェイント。難なく躱して右足で、地を這うようなシュートを放つ。
 キーパーは一歩も動けず、ボールは、ゴールの左隅に突き刺さった。一対〇。サンフレッチェの先制点だった。
 その後の前半の終了間際、サンフレッチェは、皇樹が得たPKから追加点を得てスコアは二対〇となった。
 試合は進み、後半も残り十五分弱。前線に上がったサンフレッチェの右サイドバックから転がしたパスが入り、皇樹は反転した。
 諦めないフログモスは、7番と5番の二人掛かりでチェック。連動した味方が、皇樹の周りのスペースを消す。去年の天皇杯でJ1のチームを苦しめた、プレッシング戦術である。
 プレッシングとは、ボール・サイドに人数を集中させてボールを奪う、現代サッカーの主流の戦術である。
 皇樹の左から7番が迫る。だが皇樹は、ボールを守るべく身体を入れた。7番のショルダー・チャージの勢いを利用して、ボールを持ち出す。
 作用反作用の法則で、7番はその場に取り残される。振り分け試験、一試合目の終盤で未奈ちゃんが見せたプレーに近い。
 皇樹の隙を突こうと、5番が足を伸ばした。だが皇樹は、軽くボールを浮かせて5番を置き去りにする。
 左の2番が耐え兼ねて、元のマークはほっぽり出して詰める。
 すかさず皇樹は、右足で小さく跨いだ。2番を牽制してから左に持ち出しスルー・パス(敵選手の間を通すパス)。
 ボールを受けたサンフレッチェの右17番は、ダイレクトでシュート。角度はあまりなかったけど、ゴールが決まった。三対〇。
 17番、ガッツ・ポーズをしながら自陣に引いていく。チーム・メイトとともに17番を追走する皇樹は、俺に普段、見せるような、2.5枚目の気さくな笑顔だった。
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