第25話

文字数 944文字

       25

 以後も、俺と未奈ちゃんの手合わせは続いた。同点のアシストの場面以来、未奈ちゃんの動きが見え始めた俺は、そう簡単には抜かれなくなった。
 未奈ちゃんのプレーは確実に慎重さを増していた。俺の変化を感じているようだった。
 俺と未奈ちゃんは、センター・ライン付近で再び邂逅する。左足にボールを収めた未奈ちゃんが、首を振って周りを見渡す。
 右足に持ち替えた未奈ちゃんは、7番に速いパスを出すと同時に、ダッシュを開始。裏を狙う未奈ちゃんを追いながら、俺の心は静かに沸き立つ。
 置いてかないでよ。俺は貴女に、世界の果てまで従いていくって決めてんだからさあ。
 トラップした7番は、45番のプレッシャーを受けながら、ボールをキープする。
 ふいに未奈ちゃんは急停止。「ユカ!」と甲高く叫んで、7番からのパスを受ける。
 右足にボールを収めた未奈ちゃんは、冷たくも熱い視線を俺に向けた。左足で蹴り真似を入れてから、左、右のダブルタッチ。神速を発揮し、俺を抜きに懸かる。
 だが俺も負けてはいない。しゃにむに出した右足が軌道を変えた。
 外に流れていくボールに未奈ちゃんが向かい、少し遅れて俺も追う。
 やっばいやばいよ。楽し過ぎるわ。手に汗握るシーソー・ゲームで、目映く輝く未奈ちゃんと決闘(デート)。これ以上の愉悦は、未来永劫存在しねーって。
 未奈ちゃんがボールを確保した。まだまだ遊び足りねえなあ。心の中で呟いた俺は、未奈ちゃんの前に立ちはだかる。顔の緩みは止められないままだ。
 両足の間にボールを置いた未奈ちゃんは、突如として脱力。直立状態になってゴールを眺め、軽く右手を挙げた。
 何をしてくる? 未奈ちゃんを注視する俺の意識は、さらに研ぎ澄まされていく。
 ふいに右足首だけが動いた。こつんとボールを突く。全くのノー・モーション。
 ボールは、俺の股の間を抜けた。未奈ちゃんは雷鳴の如きスピードで、俺の右を走り抜ける。
 俺を置き去りにした未奈ちゃんは、ルーレットで後続を躱しフワリとクロスを放り込んだ。フリーの7番がその場でヘディング。ゴールの左隅に突き刺さり、三対四。女子Aの勝ち越し。やられた。
 俺たちは、すぐにゲームを再開したが、パスを数回、回したところでホイッスルが鳴る。二十分、二本目が終わった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み