第二部 『全ての平和』 序章 ある組織について
文字数 2,337文字
第二部・序章・ある組織について
オーダー・オブ・オーダー。
我々は自分達のことをそう総称する。秩序の騎士団とも読めるが、不穏分子達は命令或いは注文の騎士団と揶揄することが多い。
我々の存在は知られていない。今でこそ世界中に畏怖の念をもって知られているが、ナトーの繁栄が終わるまで我々は表舞台に現われなかった。
我々の歴史の始まりは浅い。第二次世界大戦以降に設立された集団だからだ。戦後七十年の時を経て世界はゆっくりと豊かさを失い、格差社会を世界に広めた。同時にスマホなどで簡単にネット接続が可能になった時代に我々の集団は誕生した。最初は普通のソーシャルネットワークサービスの集団だった。社会から弾かれた者達の集い。だが、そこに幾つか共通する点が我々には有った。ある程度の学歴を持ちながら社会的に落ちぶれた者達。我々の中には情報収集に長けていた者を揃えていたこと。
丁度、その頃物理学の世界では量子テレポーテーションが立証された。同時に同盟国から興味深い機密書が公開された時期と重なる。それは異世界からの来訪者の確認と言う情報だった。我々のある者達はこのことに一つの仮説を立てた。並列世界から来た者達、即ち時間旅行を可能化した知的種族が既に同盟国と接触をしていたと言う仮説だ。このことは近代に入って我々の世界の科学技術が革新的に進歩している原因の一つにも成り得ると我々は考えた。
そこで我々はあることを試した。我々の中には同盟国に害する者の情報を仕入れる独自のルートを持った者達が居た。我々の持つ情報を敢えて同盟国のエシュロンが察知する様に文章を作ってそれをネット上に流したのだ。
ここから同盟国と我々の関係の第一歩が始まった。
不寛容。これこそが同盟国と我々に共通する一種の暗黙の了解だったのだ。我々は同盟国の下で軍事に係わるシステム、新型の兵器開発、売国の為の諜報活動に従事し始めた。
だが、同盟国との接触は第一歩にしか過ぎない。
我々の一部で細菌学に長けた者、遺伝学に長けた者が同盟国の敵対国である中東諸国を根絶させる為に生み出されたグリーンヒューマン計画なるものがあった。
この計画は端的に言えば、空気感染の細菌をばら撒くことであった。通常の生物兵器と異なるのは罹患者の肉体をサボテンと言った植物に変異させることであった。それもある特定の遺伝子を持つ者達だけ罹患する様に細工していた。
ある者達にとって二十一世紀史上、最も残酷な民族浄化と呼ばれたグリーンヒューマン計画。世界中のメディアが様々な見解を基にして仮説を立てた。だが、真相に近づいた者達は悉く闇へと葬られていった。
その時、我々は葬られていく者達の有効活用法を考案していた。それらは我々に必要な情報でもあった。
しかし、重要な情報は同盟国、共産国に独占されていた。
だからこそ、同盟国に依存しない情報網が必要だった。我々が今後組織として運営していくなら自立の方法が必須だったのだ。幸いにも我々は脳をスキャンする技術の確立に成功していた。葬られる者達の脳をスキャンし、あらゆる情報を収集した。お陰で我々は情報機関としても同盟国の一角を占めることに成功した。それによって我々は同盟国と共産国を繋ぐパイプラインの一つを密かに造り出した。
我々が同盟国の御機嫌を伺っているのには理由があった。
我々には確証こそなかったが、確信はあった。同盟国の繁栄の終焉が近いと言う事実に。その前に我々は手にしなければならなかった。異世界の住人との接触を。更に言うならば、彼らの持つ高度な技術を手にしなければならなかった。
これこそ我々が世界そのものになる為に必要な技術だった。
我々はその為に大統領と情報機関の機嫌を伺わなければならなかった。時として国粋主義者になる大統領と冷静な情報機関、そして狭間にある軍部に媚を売ることすら厭わなかった。
我々は待っていたのだ。我々の復讐の意義を理解してくれる高度な技術者が我々と接触する日を。
幸いにも我々は確信していた。並列世界も又憎悪に満ちている事実を。
だが、我々の前に現われたのは意外な存在だった。
その技術者は牧師だった。
何故神に仕える者が我々に接触してきたのか解らないが、技術だけは持っていたので利用させて貰った。
我々は彼から譲り受けた技術を基に上位種計画を立ち上げた。端的に言えば、我々が人類を超える種族になり上がる。今まで映画の世界だけであった超能力を我々が自在に扱う。
ここで重要なのは規律と思考の共有であった。我々は憎しみを憎しみで紡ぐと言う絶対規律とテレパシーを通じて意識を共有していた。それでも我々の憎しみの強さ故に個々の意識は存在していた。
計画が成功しても我々は尚も慎重にことを進める必要があった。問題点が幾つかあったからだ。その一つは並列世界とのリンクだった。我々が技術を手にしたところで同じ様に他の組織が並列世界から技術が流出しては意味がない。そこで我々は並列世界に壁を築き上げた。ある特定の道筋を辿らなければ、お互いに交流さえ出来ない。
そして、同時に進めていた計画があった。それはオートマータ軍隊の掌握であった。機械兵は無尽蔵に製造出来る。しかもその兵の錬成の度合いは人類の軍隊より優れているから厄介だった。たとえ、我々が一個人で数千万の人間を一瞬で縊り殺す力を持っていたとしてもだ。
故に我々はオートマータ軍を支配下に置かねばならなかった。
逆を言えば、機械軍を手中に収めた時点で我々は動き出すには十分だった。
ここから我々の歴史が始まるのだ。