第二部 第二章 『使徒』

文字数 30,243文字

  第二章・『使徒』戦争


『使徒』
 それは世界において特殊な意味合いを持つ。世界の住人で在りながら世界より聖別された存在。地上における神の代行者。代行の意味合いは人それぞれだが、受難、裁き、慈悲など様々に分かれている様だ。本来ならば新教会に『使徒』を名乗る者が現れるのは問題があるのだが、我々の知る限り世界各国に『使徒』の座を持つ者達が配置されていたらしい。
 らしい、と言うのは情報のみでしか『使徒』の存在を確認出来ていないからだった。だが、我々の忘却した旧い記憶の中に存在は確認されていた筈だ。
 だが、奇妙なことに中華、共産、欧州連合、それどころか世界各国には『使徒』が居た筈なのに確認出来ていなかった。
 勿論、この場合の『使徒』と言うのは裁きの代行者だろう。でなければ我々に対抗する術がないからだ。
「何を隠しているのかね? 大統領?」
 本来ならば教皇共を監禁した時点で『使徒』が動いてもおかしくはない筈だ。
「それについては私からより我が国の『使徒』に話を聴いた方が早い」
「ほう、その何かを企んでいる不届きな『使徒』は今何処にいるのかね?」
 大統領は立体映像を起ち上げ、同盟国の辺鄙な町を指し示した。
 不可思議なものだ。その辺りは同盟国の極秘機関のタウンが存在している。
 件の『使徒』は機関関係か。機関の名は確か『イスカリオテ』と言ったか。建国以来、対悪魔用の組織として設立している。実体は物理学の研究所であり、神学をそれに絡ませている特異な機関だ。
 教皇側にも『イスカリオテ』と言う実戦部隊があったらしい。
 だが、存在を確認出来ていない。爆撃で滅んだと推測も出来るが、恐らく事実は異なったのだ

 そして、今に至る。
 我々は辺鄙な町に赴いていた。
「辺鄙な町に地味な教会か」
 同盟国の最高の『使徒』がここにいるらしいが、これは又随分地味な住まいだ。牧師と言う職業は儲けが良い筈だが、この教会からは金銭に対する執着が感じ取れなかった。
 扉を開けて礼拝堂に入っていく。
 説教台には一人の男が立っていた。
「ようこそ」
 男は一礼すると我々を見据えた。
 見覚えのある顔の男だった。確か、万物救済主義を唱える新教会の評議員を務めていた筈。
 名は確か。
「クリストフォロス・ルーサー・ウォリアー」
「何だ、俺のことを知っていたのか?」
 拍子抜けした表情を浮かべる男。一見、若々しそうに見えるが、年経た者が魅せる気配がある。それ相応の齢の筈だ。
「生憎と我々は談笑している暇がない。本題に入らせて貰おう。お前の目的は何だ?」
「ただ、あんたに会いたかった。目的はそれだ」
 我々の問いにあっけらかんと答える男。何を見極めようとしているのか? 男の中の心を読もうにも霞んで読めない。目的の背後にあるのは何だ? 男は答える。
「あんたを見て安心した。同時に心配した。あんたの良心は未だ死んじゃいない」
「ほう、良心が死んでいないとはな」
 不思議なことを言う男だった。良心が死んでいなければ、今までの所業は何だったと言うのか。我々が世界支配の為に棄てたものを男は棄ててないと言う。
「あんた、心の何処かで神が居ると思っているんじゃないか? どうにも俺にはそんな気がしてならない」
「『使徒』よ、そんな下らんことの為に我々を見過ごしてきたのかね?」
「そうだな、俺は『使徒』失格だよ。俺らのやるべきことはあんたらを絶望の淵に降り立たせないことだった。それを見逃したから世界はこんなにも狂ってしまった」
「下らない感傷だな。旧世界は滅ぶべくして滅びた」
「でも、あんたは心の何処かで期待している。違うか? 俺にはあんたらが喜んで世界を滅ぼしたがっている様には見えない。まるで泣いて彷徨っている子羊みたいに見える。信じたくて、信じたくて、裏切られて、それでも未だ何かに縋っている」
「『使徒』よ、お前は性善説を信じる輩かね? 少なくとも今からお前を殺す存在に慈悲などないと知れ」
 男は平静にその言葉を受け止めた。少しの会話で判ったことがある。この男は危険だ。如何なる邪悪な存在であろうと一片の良心は持っている。この男はそれを弁え、良心を喚起させようとする会話を試みているのだ。
 この男の思想は単純だ。
『赦されざるものなんてない。全ては赦されているんだ』
 男は暗黙の内にそう語って被造物の良心を擽るのだ。人誑しだ。その態度を見て我々は過去に想いを馳せる。ある者を想い起こさせる。
「お前、似ているな。『少年』に良く似ている。外見ではない。その信条が、だ」
「そりゃどうも」
 曖昧にはぐらかす男を見て確信に至った。この男は『少年』の関係者だと。過去の遺物が今になって現れるとは。
「まあ、良い。死ね」
 サイコキネシスで空間を歪曲してやる。
 すると不思議なことが起った。
 空間が歪まない。それどころか空間そのものが敵意を察知したかの様に我々の居る場所に干渉して来た。
 我々は数歩引いて反撃を回避した。
「面白い奇術を使うものだ」
「神がお与えになった贈り物だよ。名称は『絶対結界』」
 魔術師の使う結界とも科学の造り出す結界とも構造が異なる様子だ。絶対などと言う名称を使う辺り、自信を窺わせる。少なくとも空間を自在に動かす代物ではない。それより対象者を守護する為なら因果律にも干渉出来ると視た。
 この結界の最大の欠点は。
「成程、この厄介な代物はお前しか護らん様に出来ているらしい」
「御名答だ」
 攻撃を止める。
 男も何もしない。
 我々ともあろう者が思わず笑みが零れる。
「無様だな。自分を護ることは出来るのに、肝心の兄弟姉妹は護れんか。面白い、臆病な『使徒』よ。どうやらお前に出来るのは自分を護る位だな」
「『使徒』って言葉は便利だよな。神の直弟子で普通の人間には出来ないことを出来ると思われがちだ」
 男は何かを含む様な態度で語る。
「何が言いたい?」
「過去は変えられない。そんなことをすれば因果律に干渉してしまうしな。だから過去の改変は原則禁じられている。だが、今はどうだ。今、そして未来を変えることは出来るんじゃないか?」
 その瞬間、世界のインフラが回復し、世界中から放射能が除去されたのを感じた。死んだ者は生き返りこそしないが、生きている者は回復し喜び合っている様だ。
「何をした?」
「俺じゃない。他の『使徒』がやってくれたらしい。これだけ奇跡を起こすには入念な準備が必要だった。多くの人々が犠牲になってしまった。だが、これで漸く」
 次の瞬間の男の形相は戦士のそれであり、策士のそれだった。男は宣言する。
「人類はあんたらと対等に立てる」
「ほう、下等生物が言うではないか」
「化け物を倒すのは何時だって人の役割だ」
 我々を化け物呼ばわりする『使徒』がそう言った。それに対する我々の感想は。
「お前らも十分に化け物だ。因果律に干渉しない様なことをほざきながら、今の瞬間の歴史そのものを変革してしまうとは。流石の我々も少々計算外だ。お前らの様な化け物が世界に後どの位居るのだ?」
「さあてね、全容は世界各国の何処の機関も掴んでいないと思うがね」
 不可思議なことを述べる男だ。
 全容が解明されていない? それはあからさま誘導的な嘘だ。確かに同盟国すら全容を解明していないかも知れない。教皇側も総主教側も全容は知らないだろう。
 だが、この動きは組織的なものだ。少なくとも横の連帯はある。もっと言えば、この世界を超越した機関が係わっている。
 だから幾ら探っても無駄だ。
そう男は瞳で語っていた。
「成程、『少年』の差し金かね?」
「さあ? 答えはあんたの中に既にあるんじゃないか?」
 戯けた男だ。我々が答えを知っていると仄めかす。
 だが、その答えは当の昔に破棄された答えだった。その様な答えを『然り』と答えるべきではない。『否』と断固否定すべきなのだ。
「その様な答えをお前らが提示するなら宜しい、ならば戦争だ。我々は最期の一人を根絶するまで狩りを続ける。足掻け、人間共」
「ああ、思う存分足掻いてやるさ」
 どの道に至るにせよ、これは好都合だった。我々の計画が全て露見している訳ではない様子だ。我々は終局人間を根絶するつもりだった。人間は必要ではない。必要なのは遺伝子情報だけだった。人間を根絶した後、遺伝子操作で我々に従順な新人類を創生し、記憶の書き換えを行うつもりだった。
 その筈だったが、『使徒』の存在が我々を揺るがせた。
 面白く、素晴らしい。
 決して人格や思想の類ではなく、その奇跡とやらを起こす能力について我々を強く惹き付ける。あれの仕組みを解明することで我々の権威はより一層強固される筈だ。
 これより『使徒』達は動き始める筈だ。我々は人間を撒き餌にし、『使徒』の研究を進める。
 そう考え、教会から出ようとしたところ、男は呟く。
「本当はこんなこと望んでいないんだろうだけどな」
 その言葉は『少年』の主張の代弁だった。間違いなく、あの『少年』なら対話の道を望むだろう、非戦を試みるであろう。世界の不条理に黙せず、抵抗し、不服従を選び取っていたあの『少年』ならではのありふれた思考だ。
 我々は男の言葉を無視し、教会を出る。

 我々は同盟国首都に戻り、大統領を軟禁することを決めた。大統領の大事な『家族』を質にし、傀儡にした。
 だが、向こう側に情報操作に長けた『使徒』が居るのか、『使徒』と思われる正体不明の人物らは大統領と政権の置かれている実態を内部資料の公開と共にネットワーク上に急速に拡大させて行った。
 同盟国民は事実を知り、建国宣言に基づき、革命を以ってして国家の是正に取り掛かり始めた。
 軍部もその動きに呼応する様に叛逆者の体が露わになった。
 我々はこの事態に際し、軍及び非国民の粛清を開始した。我々は当初にあった計画を復活させた。人間を恐怖に陥れるのは死だ。故に我々は国内の人が集中する場所を爆破し、安寧の場所などないことを非国民に知らしめた。
 この事実はこれまで同盟国だけは最期まで安全だと言う虚妄を人間共から一掃し、世界の何処も安息の地などないと言う現実を見せつけた。
 我々はインフラの最低限の維持とネット空間の維持と共に『憎め』と言う単語を極端に溢れさせた。
「我々が世界を憎む様に世界も又我々を憎め。憎しみ、最期の一人になるまで殺し合うのだ」
 我々は世界にそう発信した。しかし、世界、取り分け『使徒』共の返答は狂気染みた答えだった。
「憎しみを憎しみで返すことは敵の想定内です。だから、私達は善を以って悪を制すべきです。私達の隣人が嘆き悲しんでいたら寄り添って悲しみを共に分かち合いましょう。私達の敵こそ救われるべき隣人なのです」 
 この『使徒』の発言は我々の琴線に触れるものだ。
 今更何故? そんな言葉が我々の内に反芻する。この『使徒』は事態を全く理解していない様に視える。その言葉と行いは新世界が打ち立てられる前に実施すべきだったのだ。今更、どう足掻こうとも世界は手遅れなのだ。
「こいつだって最初からこうだった訳じゃない。最初の頃は絶望してたもんさ。ただ色々あって変わって行ったのさ」
 声がしたので振り返ると男が居た。クリストフォロス。この男、何時の間に同盟国首都に入り込んで来た?
 戒厳令が敷いていたが、それにも係わらず、反戦デモが静かに執り行われていた。
 不気味なデモだ。デモとは文字通り示威を示すのだが、それとは異質だ。皆が座り不服従の意を表していた。
「成程、お前達の身内があの中にでも居るのか?」
 我々の静かなる問いに『使徒』はおどけて一言だけ答えた。
「さあね」
 これは罠だ。『使徒』達の交信手段は現時点で我々は全て把握していない。もしかしたら『使徒』同士で共有出来る通信網があるのかも知れない。その推測が事実なら、件の因果律干渉の『使徒』でもあの民衆の中に入り込んでいるかも知れない。そして、我々が彼らに一斉攻撃を開始し、奇跡などと呼ばれる事象が起きてしまったら。
 その時、我々は嘗てない大規模な辛酸を味わうであろう。旧世界は息を吹き返し、我々に意気揚々と対抗してくるであろう。
「全く、あの軍産学複合体の老い耄れこそ旧世界の支配者だと思っていたが、見込み違いだった様だ。我々が警戒するべきはお前ら『使徒』だった」
「いや、あいつらは紛れもなく旧世界の支配者だった。今あんたらが戦っている者達は支配とかの問題じゃない。彼らの異質さを感じているだろ」
 少し腹立たしいが、正鵠を射ている。今、戦っているのは嘗ての我々の姿に他ならない。
 今の人間は我々が絶望の果てに棄てたものを掲げ、世界を変革しようとしている。
 馬鹿馬鹿しい。神など居る筈などない。人間共は妄執に取り憑かれているのだ。
 だが、良い。やり様は幾らでもある。
 クリストフォロスを視た。
 推測するに彼は敵側の最高の情報発信網だ。彼は無敵の様な結界に包まれて容易に我々の司令部の一つに入り込める。どこまで我々の戦略を読めるかまでは推定出来ないが、恐らく大まかな戦略を推察は出来る。
 だからと言って、ここでこの男を如何にかすることではない。出し抜くのだ。大まかな戦略が読まれ、対抗策が練られるなら細かなところから攻めていくのが重要なのだ。世界規模で行われる戦争に『使徒』が直接係われない小さな打撃、相手に不信を積み重ねていくことが肝要なのだ。
 『使徒』達は我々の特性を把握していない。
 我々は私であり、私は我々である。
 我々はこの特性を利用し、世界に燻る憎悪を焔に掻き立ててやるのだ。

 所変わって我々は欧州最大の工業国に居た。同盟国首都の居る我々は『使徒』を監視しなければならない。我々は世界中に無数の如く存在しているのだ。こともあろうか欧州連合は英連邦と共産国と共同戦線を張り始めた。皮肉にも世界の電力関係も急速に回復していた。恐らく別の『使徒』が行った仕業だろう。世界各地でネット空間が再び形成されていた。そして、ネットを利用し、人間共は国境を越えて結集し始めていた。
塵も積もれば山となる。その言葉は箴言に近く、塵共が群がって徒党を組むと宜しくない。ここで鍵となるのがこの国だ。経済的に共産国と繋がりを持ち、政治的には英連邦とも係わりが深い。
 ここで我々が演じるのはフォックス神父と言う中核都市にある孤児院を運営しているそれなりに名の知られた名士だ。
 無論、本人は我々の手の内に収まっている。 
 そして、我々のやることは明白であった。孤児共への虐待そのものだ。孤児共を学校には通わせず、軍需工場でひたすら働かせてやる。フォックス神父として我々は聖戦を喧伝し、彼らを憎しみに満ちた義勇兵へと変貌させる。食べるにも足りず、過酷な労働の前に彼らが支える支柱は聖戦と言う思想だった。孤児共は平和な世を創り出す為に敢えて自ら犠牲となっている。社会的には美談の類に入るであろう。そして、孤児共はせっせとひたすら投書や呼び掛け、演説をするのだ。
「戦争はさけられません。だから僕達は戦います。平和な世界が訪れる日まで戦い続けます。だから皆さんも立ち上がって下さい。平和な時代が来る日まで」
 とある少年の孤児はこの様な投書を報道機関に出した。
 報道機関内に居る我々がこの書を採用し、ニュースとして取り上げた。
 戦争喧伝と言うものだ。平和、安息の為に皆で憎き敵を倒すと言う美辞麗句はこの国に様々な反応を引き起こした。
 ある者共は聖戦の旗を掲げ、積極的攻勢を声高らかに叫んでいった。
 一方で『使徒』と繋がりがあると思われる教会は非戦論を静かに主張していた。
 欧州連合は幾つかの派閥に分かれている。主戦論を中心とする集団、非戦論を中心とする集団、或いはどちらにも属さない集団。
 我々は報道機関を利用し、主戦論を擁護し、非戦主義者達を一斉に非国民だと断定した。
 辛くも政府もそれに同調していた。先の戦いを侵略と見做し、政府は恐れていた。欧州各国も恐れを同調していた。
 それからと言うものは非戦論者共に大迫害の時代が訪れた。
 我々は虚偽の情報を現実社会に垂れ流してやったのだ。
「欧州連合及び世界各国がオーダー・オブ・オーダーを打破出来ないのは売国奴が居るからだ。非戦論者は現実を見ないでオーダーの機嫌ばかり伺っている」
 最初は非戦論者に対する風当たりは脅迫や悪戯程度だった。だが、日々我々の脅威に怯える欧州諸国がやがて取り始めた行動は実に都合の良いものだった。聖戦を非難すること自体が不敬である風潮が醸成され、非戦論者共は火炙りの刑に処されて行った。
「敵を倒す為には味方の膿を摘出しなければならない」
 欧州連合の指導者共もその考えに共鳴していった。戦争に反対する教会を取り壊したり、集会を禁じる様に政策が刷新されていった。
 我々は遂に欧州諸国から平和を取り去り、ファシズムの根を植え付けることに成功した。動揺の事柄は共産国でも中華でも起きていた。
 我々は内心ほくそ笑んでいた。
 『使徒』達は人間を纏め上げるのに失敗したのだ。それも瑣末な少年の孤児の投書によって躓いたのだ。『使徒』達ともあろう者達が瑣末な事柄で一致団結出来ない。
 かくして、孤児共はオートマータ軍の格好の餌食になり、戦場で散り行くこととなった。戦場での散り際、我々は孤児共に会いに行った。
「お父さん……」
 皆一様に発する言葉は同じだった。それに対して我々は冷淡に対応した。
「もうそう呼ばれる筋合いもない。我々はお前らを我が子だなどと思ったことがない
「え……」
 呆気に囚われた孤児共に我々は親切丁寧に教えてやった。
「我々はお前らを愛していないし、これからもそれはない」
 ある孤児は嗚咽を漏らしながらすすり泣いていた。又、瞳が絶望に暗く染まっていた。「嘘でしょ? ねえ、お父さん」と青い顔をしながら訊ねてくる孤児もいた。
 健気とでも言ってやれば良いのか。哀れにも孤児共を動かす欲求を我々は知っていた。
 育ての父であるフォックス神父に認めてもらいたい、褒めて欲しい、その一心でここまで歩んで来たのだ。愚かなことに当の本人はもう死んでいるとも知らずに我々の歓心を買う為に必死に動いてきた。
 その挙句の果てがこれだった。何と言うこともない。駒は最大限効力を発揮してくれた。一度は止まりかけた戦争が動き出した。
 故にやることは些事から攻めるに限る。戦争は格好の観察の場だ、研究の場だ。
 『使徒』達は我々の意図を感じ、戦火を交えるのは得策ではないと判断し、策を弄した。
 我々は裏を掻き、敢えて小事を大事に発展させた訳だ。如何に大きな舞台で人間共を制止しようとも要するに人間自ら戦争を望んでくれれば良い訳だ。

「皮肉なものだな。ヒトラーが決起を興した地から聖戦の喧伝がなされるとはな」
 クリストフォロスの前でそう嘯く我々は内心機嫌が良かった。『使徒』のせいの大幅な修正を迫られていた計画が軌道を回復したからだ。新世界の為に現行の人間共は要らない。遍く全てを焼却する、この過程で行けば人間は自然と淘汰されて行くだろう。
「随分嬉しそうだな、あんた」
 我々は表情にこそ表さなかったが、男は瞬時に事態を察知した様子だ。男は付け加える様に呟いた。
「いや、だからこそ人らしいのか」
「何?」
 無視しても良かったが、少々聞き捨てならない科白を呟いた男に我々は微かな苛立ちを感じた。
「それだよ。喜び、怒り、これらは人を人足らしめる感情なんだ。たとえ、罪人であったとしても逃れえない。だから、あんたは未だ人間のままでいると俺らは信じているんだがね」
「ほう、では良心を棄てた存在も又人間足りえるのかね?」
「………………」
 男は沈黙を守った。その沈黙は肯定か否定か決して読ませない。まるで判断を我々に迫るかの態度だった。
「まあ、良い」
 『使徒』達が甘い理想に浸っている内が我々の攻勢に出る好機でもある。オートマータ軍は既に世界中に配備されている。生憎にも核のコードは『使徒』達が収めた様だが、人間を滅ぼす方法など幾らでもある。
「世界各国のオートマータ軍に命令。人間共の軍を殲滅しつつ、全戦力を以って空爆に参加せよ。目標は農耕地帯、鉱山地帯、森林地帯とする」
 古来より有効な戦法は決まっている。敵の補給を絶つ。食料を絶ち、軍備を絶ち、更には呼吸する為の酸素も絶つ。
 その為なら海さえ汚すことを厭わない。
 オートマータ軍に内燃機関として反物質構成炉が内蔵されている。たとえ、オートマータが破壊されたとしても大規模な破壊を引き起こし、人間と環境に破滅をもたらす。
 現時点で始まった戦争では既にその脅威が人間共も認識している筈だ。
 だが、人間共は予め知っていた様に極めて遠隔地から攻撃を仕掛けてくる。小賢しい人間共は『全ての爆弾の母』を極短期で改良してオートマータ軍の破壊に努めようとする。
 ここで我々が確認することが幾つかある。
 クリストフォロスだ。この男は何処まで知っている? 他の『使徒』の通信手段は何か? それとも未来予見を可能とする『使徒』が存在するのか? その『使徒』はどの程度の未来予測が可能なのか? これらを一つ一つ紐解かねばならない。
 何故なら敵に対する無知を我々は警戒しなければならないからだ。
「何かあるか?」
 こちらの眼差しに気付いた様だ。強かな男だ。
 我々は決して表情に表さなかった。
 それにも係わらず、この『使徒』は異変を察知する。果たしてこの『使徒』の能力は『絶対結界』とやらだけなのか? いや、能力は一つだけとは限らない。
 恐らく、『使徒』達には中核となる能力が有り、副次的に他の能力が加わっている。
 少なくとも、クリストフォロスを視て我々はそう推測する。
 彼は『絶対結界』と言う無双の防御を誇りながら、他の能力の全容が見えないからだ。いや、この男の場合は『絶対結界』こそ中核であってそれ以外は大した能力ではないだろう。
 もし、そんな能力があれば我々に攻撃を挑む筈だ。それが出来ないと言うことはこの男は我々に攻撃する為に居るのではない。我々の作戦を読み取り、或いは確認し、世界中の『使徒』に伝えていると考えるのが妥当であろう。
「表情に表さなかったつもりだが、何か察した様子だな。お前は何処まで我々を知っている?」
「いや、特には知らない」
 冷静沈着な男の表情を視て我々はある疑念が宿る。それも確信めいた疑念だ。
 この男は我々の最終目標を知っているのではあるまいか? 冷静で且つ惚ける男の表情は何処までも読み切れない代物だった。
 その読めない表情は何処か『少年』の面影を感じさせる。いや、『少年』は少々異なった。『少年』は何処までも無邪気な様で居て何処までも底の読めない者だった。だが、やはり無邪気なのだ。
「まあ、良い」
 昔のことを思い返しても何にもならない。
「随分、余裕なんだな」
「まあな」
 確信した。この『使徒』に読心術の類はない。我々は『少年』のことで「まあ、良い」と言った。
 だが、クリストフォロスはその発言を本来の意味を取り違えて解釈した。詰る所、この男は読心術と言った能力は持ち合わせていない。
 問題は他の『使徒』と言うことになる。世界に居る何れかの『使徒』が我々の情報網を盗聴している可能性がある。それに対しては次の手を打って置かねばならない。

 同刻。コンスタンティノープルに我々は居た。此処の特徴は現在核の影響を比較的受けていないことにある。そもそも先のグリーンヒューマン計画において人間達が殆ど樹木と化したからだ。地政学上でも欧州の入り口でもあり、アフリカへの入り口にも繋がり、共産国やアジアとも繋がる拠点。問題の『使徒』が居るとすれば、此処が可能性も高い。
 樹海の都市に生き残っているのは教会の者共が中心だ。正教会総主教の聖座でもある大聖堂で人間共が今後の戦略について話し合いしているのが感じ取れた。
 ムスリムを殆ど排したのが却って裏目に出た形だ。信徒共はある程度顔見知りが多いらしく、その中に赤の他人が入り込むのは困難極める。
 故に信徒の一人を密かに殺し、その信徒に化けて潜入する。
 情報収集すると幾つかの点が判ってきた。この地に総主教代理を称する老骨がいることとその者が嘗て妻帯しており、家族が居ること。そして、総主教の座に就いたことで家族と特殊な形で離れて居ることを採っていること。
 本来、主教以上は妻帯が禁止されている筈だが、先の戦いで多くの指導者達を失ったのだろう。だからお鉢が回ってきたと言うところだろう。
 視たところ、総主教代理は信徒共の意見を取り上げ、類別し、後日方針を決定するやり方を貫いている様子だった。信徒の一人として大聖堂内を調査すると目立たない場所に妙な隠し通路を発見した。だが、これは避難用の隠し通路ではない。空間を把握するとそれなりに大きな空間が頭の中で浮かび上がってきた。
「此処で何をしているのですか?」
 総主教代理が我々を見詰め、問い質した。我々は肩を竦め、総主教の反応出来ない速度で気絶させ、隠し部屋に運んだ。
 其処は司令室と言うには殺風景過ぎた隠れた地下聖堂だった。幾重にも隠し出入り口があり、食糧備蓄庫もある。
 恐らく、東ローマ帝国が滅んだ後の時代の名残か。嘗て、イスラムとカトリックの双方に攻め込まれ、滅んだ正教会の栄華は朽ちた。此処はその成れの果てなのだ。千年以上続いた東ローマ帝国が万が一の為に考案していた地下施設の一部を後代の人間共が密かに改造し上げたのだろう。
 煤けた銀の十字架が我々を哀しそうに見詰めている。
「下らん。気の錯覚だ」
 自嘲する。神など居ない。神と言うのは人間が苦しい現実から眼を背ける為に創った偶像にしか過ぎない。
「う……」
 傍らにいる総主教代理と言う老い耄れが眼を醒まし始める。
 我々はそれを見下し、俯瞰していた。
「あなた方は?」
 老い耄れの第一声が疑問だったので我々は答えてやる。
「ジ・オーダーだ」
 すると、老い耄れは忽ち顔を青ざめさせ、状況を把握しようとした。
 我々は先んじて質問する。
「で、ここがお前と『使徒』が密議を開く場所か?」
 老い耄れは不安定ながら覚悟を決めた様子で我々に強い口調で語る。
「あの方達は来ぬ。待っても無駄じゃぞ」
「ほう」
 当たりか。未来予見の『使徒』は此処が活動拠点の一つだった訳だ。しかも『使徒』は二人以上居る様子だ。未来を予見して此処には来ないことを老い耄れは考えているらしいが、甘い。来たくなくとも来させれば良いのだ。
 サイコキネシスで老い耄れの小指の骨を砕くと老い耄れは「うぐっ!」と声を発して己の身に何が起きたかと確認していた。
「次は孫でも殺そうか」
 我々の言葉に老い耄れは眼を鋭くさせ、怒気に満ちた表情を見せた。
 良い表情だ。程良く憎しみに満たされた表情だ。
 そう感じた我々は更に薬指の骨を砕いてやる。「ぐうっ!」と唸りながら顔を顰める老い耄れに対して我々は宣言する。
「間違っても気が狂うな。気が狂った瞬間、お前の家族を殺す」
 我々の言葉に男は微かに理性を戻し、我々を見詰めた。不条理を叩き付けられ、怒りと狂気に身を任せるのが一番だと判っていても己の一番大切な者が天秤に量ると人間は必死になる。
 痛みは与える。だが、気は狂うな、狂った瞬間に絶望を与えてやると焚き付けてやることが肝要なのだ。
 そうすれば、老い耄れは自然と『使徒』に助けを求める、或いは神にかも知れないが。
「助けを呼べば良いではないか? 或いは神にでも祈れ。義なる方なら助けを遣わすと思わんかね?」
「わしらを餌にあの方々を出し抜こうと言うのか? 無駄な試みじゃ」
「ハハハ、大した信頼ではないか。世には信ずべき友が居る、とお前達は語る」
 居ない神に祈り、裏切りの友を友と呼ぶ。大した偽善だ。貧しき者と食卓を囲め、と聖典は匂わせる。
 だが、愚かだ。能力のないと看做された者が憐れみを真に感謝するだろうか? 神が居ないと感じる者が施しを受ければ感謝するだろうか? 
 答えは否だ。
 能力のない者は憐れみを受ける前に能力も冨も権力さえも欲しかった。力有る者達から受ける憐れみを受けるのは処世術の一つに過ぎないからだ。実に憐れみを受ける者程惨めな者達は居ない。
 神が居ないと感じる者達も同義である。世界に絶望する者達にとって施しが足しになっても意味があろうか?
 神に罪があると言うならば正しく世界を創った時点で確定していた。被造物に絶望を味合わせる。それが人間の罪であり、同時に神の罪なのだ。絶望を感じている者に言葉は慰めにならない。人生を充実させるのは成功なのだ。落伍者にとって世界には忌むべきものだ。
 この老い耄れ共はどれだけ理解しているのか? 世界を覆う絶望を、敗北者の惨めな気持ちを真に解しているのか? いや、解していないだろう。もし、世の者達がこの憎しみを解するならば世界はこの時代を歩まなかった。
 それどころか第二次世界大戦も起きなかった。ヒトラーの優生思想が彼の孤独と絶望からしか生まれなかった。絶望と劣等感こそ優生思想を強めるものだと知っても変わらない人間に絶望するからこそ世界は破綻するのだ。
「お花畑のお前らが羨ましい。そんなお前らに我々の感じている憎しみを少しでも共有して貰いたいものだ」
 サイコキネシスで老い耄れの中指を砕く。老い耄れは今度は声を挙げなかった。代わりに我々に憐れみの眼差しを向ける。
「総主教や教皇は正しかった」
 不可思議なことを言い出す老い耄れが居たものだ。
 我々が沈黙していると老い耄れは語り始めた。
「あの方達は以前から世界の捻れを修正すべきだと働きかけて居られた。何れ現れるであろう邪悪な救い主に対抗する為に不条理なる世界を糺すべきだと訴えて居られた。それは最早予言ではなく預言じゃった。何時の日か、巨大な悪意が世界を飲み込む日が来る。そう口々に話されておった」
「そして、預言は現実となった」
 老い耄れは静かに頷いた。その姿は裁判官の前に引きずり出された原告さながらに項垂れていた。
「憎んで何になる? あなた方は世界の危機に気付いておったではないか。あなた方こそ戦うべきだったのではじゃなかったかのう? この世界の不条理に目を瞑らず、世界の在り方をより良き世界に変えていく、これこそがわしらの使命そのものだった筈じゃ」
 老い耄れの懇切に満ちた願いの言葉に我々は宣言する。
「老い耄れ、誰が貴様に迫り来る怒りが降り注がないと言った?」
 我々が脅迫しても老い耄れは引かなかった。
 憐れみの瞳と力強い瞳が混ぜ合わさった様な瞳で我々を見詰めていた。
「良い、その信仰が何時まで保つか見物だ。次は腕でも粉砕してやろう」
「その必要はないわ」
 凛とした力強い声音が堂内に響き渡った。声の方向に見遣ると滑らかな白磁を想わせる肌の色をした儚そうな少女と声を発した凛とした女性が居た。
「お初にお目に掛かるわ。私の名はソロモン。そして、こちらがジューダリアと言うわ」
「『使徒』か。案外速い到着だった」
 しかし、どちらも奇妙な名前だ。ジューダリアと言う少女は底知れない力を感じさせるが、拍子抜けなのはソロモンと言う女性は人間の位階と何ら変わりないのではないかと言う印象だ。
 ソロモンと言う女性が喋り出す。
「多分、あんた方はこう思っているのかしらね。『ジューダリアと言う少女は底知れない力を感じさせるが、拍子抜けなのはソロモンと言う女性は人間の位階と何ら変わりないのではないかと言う印象だ』」ってね」
 この『使徒』は読心術を使えるのか。
「残念ね、読心術の類ではないわ」
「ほう」
 読唇術の類ではないと言うか。だとすれば残る可能性は一つ。
「『ソロモン・システム』か」
「ご名答よ」
 『ソロモン・システム』と言うのはエシュロンを基盤とした未来操作システムのことを指す。このシステムには二通りの使い方がある。
 一つは未来予見、より精確に言えば未来干渉を可能としたシステムだ。本来ならば未来の出来事が過去を決める可能性を逆転させた技術だ。その規模は地球全てを含む。バタフライ効果を計算に入れ、エシュロンによる情報収集を高度な人工知能に計算させる計画だった。
 もう一つは『少年』の伝えた使い方だ。エシュロンで収集した情報を高度な人工知能で解析し、人間共の賜物を活かそうとした計画だ。有り体に言えば、向いていることや好きなことをやれる社会を目指したものだ。労働を楽しみとし、承認欲求も満たされる様な世界。
 我々の利用するのは前者のシステムだが、意外なのは『使徒』達も同じ方法で我々に挑んできたと言うことだ。
 少し認識を改めなければならない。『使徒』達は現実と言うものを軽んじている訳ではない様だ。教会と言うと綺麗事を述べるのが常だが、案外そうではない。
「成程、ソロモンと言う女が創った故に『ソロモン・システム』と言う呼称が付いた訳か」
「それはどうかしらね? 私の祖先の話よ。計画の雛形自体は旧冷戦時代から存在していたのよ」
 旧冷戦時代に雛形があったか。丁度、異次元からの来訪者がその時代に同盟国と接触していた情報と重なる。
「それで、お前らのシステムの計算では我々はどう動くと?」
「コンスタンティノープルの殲滅でしょう?」
「成程、我々との会話は時間稼ぎと言う訳だ」
「ええ、十分な位だわ」
 既に同盟国、欧州連合、共産国、世界各国の艦隊が人間共の保護に乗り出し、この地から離れて行くのは感じ取っていた。
「ならば、次に我々がどうするか判っていような」
 『使徒』達は静かに祈りの姿勢を執る。『使徒』達は優れている。優良種の検体は我々の知的好奇心をそそる。
 だが、皮肉にもこの『使徒』達はクリストフォロスとは毛色が少々異なる様子だ。祈り終えると彼女達は一斉に攻勢に入った。
 次の瞬間、景色が一変していた。
 ここはコンスタンティノープルから離れた山岳か。
 ジューダリアと言う女は実に脅威的な存在だ。個体でワープを可能にするのは常軌を逸している。これでは我々がコンスタンティノープル直接手を下す訳にはいかない。『使徒』の捕縛と正教会の象徴への打撃は両立が難しい。
「オートマータ軍、至急コンスタンティノープル付近の敵国艦隊を殲滅せよ」
 我々は脳内通信でそう伝え、『使徒』の捕縛に動く。この指令を声に発することで『使徒』の反応を窺おうとした矢先、脇腹を抉られる拳をソロモンと言う女が繰り出してきた。何時の間に近づいたのか彼女は既に至近距離に居た。擦れ擦れにかわし、少し距離を取る。
 極めて原始的攻撃。しかし、同時に極めて効果的攻撃。身体の急所を抉る様な攻撃は相手に恐怖を与えると判った上での攻撃だ。
 この女はその効果を良く弁えている。距離を詰めて続く拳打も急所ばかり狙ってくる。
 半端に距離を取っては逆に相手を勢い付けるのみだ。
 ならば、我々も相手に恐怖を与えるのみ。鋭く突き出された拳を手刀で叩き落す。切断とまで行かなかったが、手の骨格も血管もズタズタに裂けた筈だ。
 しかし、女は怯むことなく砕けた拳で我々の手を傷付け様とする。
「痛っ!」
 我々は微かな痛みを感じ取った。その痛みを声に出した瞬間、恥辱を感じた。支配者たる我々がこともあろうに肉弾戦で挑み続ける筋力もない女に傷を付けられたなどとは恥以外の何物でもない。
 しかも、この女は拳から裂けた骨で我々の皮膚を掻き切ったのだ。何と言う闘争心なのだ。
 だからこそ、我々もその行為に対してほんの僅かな怒りを以って報いるとしてよう。
「コンスタンティノープルを破壊しろ。更地にしてしまえ」
 その言葉を聞いた『使徒』達は祈り始め、光り輝いていた。
 破壊とは言ったが、地上には艦隊に退避命令を出してある。
 宇宙兵器アロンによって跡形もなく消滅するであろう。真空に包まれた反物質の塊がトルコ共和国の首都のみならず、近隣国家も壊滅に近い状態に陥るであろう。天空から眩く光が振り注ぐ。
 すると虹色の膜が現れ、光と激突して大爆発を起こした。爆風は凄まじくかなりの風圧だったが、どちらの艦隊も無事だった様子だ。
 敵艦隊は難民を保護し、全力で逃走している。
「今回は痛み分けの様だ」
「……嘘吐きね」
「ああ、その通りだ」
 女の言う通り、我々は目的を達成した。コンスタンティノープルは重力を加圧して粉々にして更地にしてやった。アロンは陽動にしか過ぎない。
 今回の目的は正教会の象徴の完全破壊と欧州、共産国、中東、アフリカを結ぶ要所の一つを叩き潰しておきたかっただけだ。敵側が電子機器を碌に使えない今の時代にある地帯を制圧することは敵にとって不利な状況を作り出すのみだ。
 小アジアを支配し、ここを拠点の一つに世界各国にオートマータ軍を展開する。ナノマシンによって軍事工場を忽ち建築し、軍を増強出来るのだ。
「お前の考えていることを当ててやろうか? 『次はジブラルタル海峡か、スエズ運河か、或いは双方を同時も攻略する気かも知れない』」
「残念。そんな未来を考える程に人は神様じゃないわ。私達は今この瞬間、今日のことを考えるのよ」
「ほう、『ソロモン・システム』の管理者の割には随分謙虚なことだな」
 女と少女は臨戦態勢に入る。
 思考が直球の様だ。今此処で我々を倒すつもりらしい。やはり『使徒』達は我々の本質を把握していない。我々は私であり、私は我々なのだ。我々を倒したところで意味などない。
 寧ろ、これは我々にとって『使徒』を捕縛する好機だ。
「凝った殺し方をするのではない。我々は恐怖と憎しみに満ちた殺し方をする」
 嘗てオスマン帝国が恐れたやり方を真似させて貰うとしよう。我々はある画像を立体化させた。ここではない、ある場所の映像を魅せ付けてやった。
 その鮮明な映像は我々に刃向かった者共の末路だ。
 生きた儘の人間共を鉄棒で串刺しする、そこには老若男女も関係ない。それがたとえ幼子だろうと赤子だろうと関係ない。
 赤子を庇う様に抱く両親が子諸共に串刺しされている光景があった。その光景を見て少女と女は呟いた。
「ああ、神よ。この様な無垢な者達を何故に見捨てたのですか?」
「おぞましいわ。人がやることじゃない」
「おや、お前達はこれが人に見えるのか? 害虫を処理するのが残酷かね?」
 我々の言葉に初めて二人は慄いた。彼女らが我々を見る眼付きが変わった。それは憐れみの様で哀しみの様で不可思議な視線だった。
 全く以って『使徒』とは不可思議な存在だ。畏怖の念を抱くのではなく、憐れみの情を抱くなどとは理解不能だ。
「ジューダリア、お願い」
 女は何かを少女に頼んだ。少女は躊躇いがちに言う。
「与えられるのは数分です。それ以上はあなたの身体が保てない」
「それでも良いわ」
 少女は嘆息して祈りの姿勢を執った。その瞬間、女の身体が光り輝く。不思議なことに女は生命エネルギーに満ちている。砕けた拳が急速に治癒されていく。
 瞬時に我々との距離を詰める女。彼女の回し蹴りに吹っ飛ばされる我々。肋骨粉砕、 内臓破裂を確認した我々は吹き飛ばされるのを良しとし、器官の修復を行う。
 今の女の動きは何だ? 明らかに人間の領域を超越している。動きを先読みして勝手に身体が動くなどと言う段階ではない。人間の反射速度を遙かに凌駕していた。
 今この一瞬にも満たない思考の間でも我々は音速で吹き飛ばされている。
 更に驚くべきことは女が一回の跳躍で我々に追い付いた事実だ。
 ただの人間が豹変するのとは訳が違う。生物としての制限を解除した? それだけでは説明は付かない。しかし、この状況に近いものを我々は見たことがある。思い当たる状況。
「小さな奇跡か。信仰に依りて神の恵みを賜わり、本来不可能なことを成し遂げる訳か」
 女は信じられないことに吹き飛んでいる我々を捉え、貫き手で我々の心臓を捉え、握り潰す。
 それでも我々は死なない。
 そして、女は我々の頭を砕いた。
 だが、我々は死なない。
「我々がそういうものだと知らなかったのかね? 『使徒』ソロモン卿?」
 頭を失いながらそう言った我々を見詰めながら女は懐から容器を取り出した。
「反物質の容器かね?」
 成程、我々が物質である以上、反物質は有効な手立てだ。
 しかし、予想外なことに容器は簡単に開けられた。女は片手でシリンダーを易々と開けてしまった。そこから垂れた赤い液体一滴が我々の頭部の傷に混ざった瞬間。
 理解不能な痛み。ありふれた感情。愛、憎しみ、喜び、悲しみ、あらゆる感情が押し寄せてくる。
 これは不味い。この端末は既に汚染されている。我々から切り離さなければならない。
 我々は女を掴んで吐き捨てる。
「お前も道連れだ。滅べ、『使徒』ソロモン」
 体内で反物質を生成する。意味不可解な痛みがこの身体を汚染し尽くす前に反物質を反応させ、辺り一帯を爆風に巻き込む。

「クッ!」
 同盟国首都に居る我々は戦慄いていた。
 あれは何だったのだ? あの赤い液体は何だったのだ? 血にも見えたが、普通の血ではない。教会が、『使徒』が秘密裏に保有していた秘蹟の類か?
 あの二人の『使徒』はどうなった? 千里眼で視るもぼやけて視えない。電磁波の類が原因ではない。何かが妨害している。我々が人間共の連絡網を妨害出来る様に、『使徒』の誰かも我々の通信網を妨害出来る様子だ。
 これは我々に対する牽制だろう。我々が無闇に世界を制限するのならあちらにも我々の行動を制限出来る手段がある。そう仄めかしている。
 クリストフォロスを見遣る。
 癪な男だ。表情や仕草からは何も読ませない。素性が今一読めない人物だ。牧師の割には軍人の様な自律を持ち併せている。いや、寧ろ同盟国の『使徒』なら必然かも知れない。
「何かあったみたいだな?」
 そう訊ねるこの男は愚かにも会話の窓口を自ら開いてきた。オーダー対人類の構造が築かれた今や敵は必死になって我々に対する反撃の糸口を発見しようと躍起になっているのだろう。
 そこで我々は敢えて余裕を以って答える。
「ああ、朗報だ。小アジアが我々の支配下に下った。正教会の象徴も陥落した」
「だが、犠牲者は出てない。総主教代理も治癒されているしな」
 やはりだ。この男は何らかの手段で情報を得ている。その手の内を明かすまではしないにせよ、我々と同量の情報網を兼ね備えている。
 だが、ここで奇妙な矛盾が露わになる。我々はこの男に読心術の能力がないと判断した。
 しかし、実際この男は情報を新鮮な状態で保有している。
 それに先程の千里眼の不調。それらを考慮すると一つの質疑が浮かんでくる。
「成程、お前の余裕さは『絶対結界』に依存したものだけではない様だ。『使徒』達とは大したものだ。テレパシー、情報操作、妨害、そういった情報関係に長けた『使徒』も居る様だ」
 我々の揺さ振りに対し、クリストフォロスは拍子抜けすることを言う。
「生憎だが、俺はノートン爺さんには詳しくなくてな」
「ノートン?」
「俺達より何世代か前の『使徒』だ。同じ『使徒』でも謎に包まれていてね。実際、俺もノートン爺さんに会ったことは数える位だけだ。『皇帝』の異名を授かった『使徒』でね」
 在り得ない。同盟国は民主主義国家だ。君主制など採らない。それともこの国の『使徒』ではないのか? だが、ノートンとは英語訛りの発音だ。ノートン?
「ジョシュア・エイブラハム・ノートン」
「ご名答」
 我々の言葉に拍手を贈る男。だが、それは在り得ない事柄だ。
 歴史上同盟国において『皇帝』を名乗ることが許されたのは確かにノートンだ。しかし、南北戦争の時代の人物だ。生きている筈がない。
「人間の寿命は精々百二十歳が良いところだ」
「ナチ弾圧下の抵抗教会のやり方を知っているか?」
 我々の言葉にクリストフォロスは唐突に話題を変えてきた。
 ドイツがナチス政権時代。その時代において教会はある秘蹟とも言うべき秘儀を行っていた。秘密裏に暗号化された交信手段を以ってして師が弟子達に教会の秘儀を授けると言うやり方だ。ナチスが教会の教えを意図的に改竄するのを防ぐ意味合いも兼ねて歴史上生まれた教義を継承させる秘儀。
「成程な、ノートンは居ない。しかし、その男の理念を継承した者が居て『使徒』になった訳か」
 問題はその『使徒』やらが一人か、それとも多人数で動いているのか。拠点はサンフランシスコ辺りか?
「多分、何をやっても無駄だと思うぞ。あの爺さんは神出鬼没だからな」
「ほう、まるで情報戦で我々がその『使徒』に後れを取っているとでも言いたげだが?」
「真実だよ。俺の先代もかなり頼っていたところもあったからな。かく言う俺も随分助けて貰っているよ」
 その言葉はクリストフォロスに情報を提供しているのは件の『使徒』に他ならないと宣言しているに等しい。
 それほどの情報戦の専門家だと『使徒』達の間で共通認識されている
 これは搦め手だ。しかも厄介な繋がりだ。
 件の『使徒』が情報を収集し、ソロモンが戦術を計算し、世界規模で作戦が展開されている。しかも『絶対結界』を持つクリストフォロスが暗示めいた発言を我々が握っていた戦場の主導権を掌握しようとする。
 ソロモンも恐らく生存している筈だ。でなければ『使徒』にも少し焦燥感に滲み出ても良い筈だ。
 他にも『使徒』で確認済みがもう一人。あの少女がソロモンを護ったと言うことか? だとすれば防衛型の『使徒』と推察出来る。そして、『使徒』は他にもいる確信はある。『使徒』とは元来十二人で構成されているからだ。亜使徒の類を考えると十二人に限定すべきではない。
 その瞬間、共感覚で我々は攻撃されたことを悟る。
 場所はイエローストーンに建設したオートマータ軍生産の大規模軍事工場が壊滅したことを千里眼で確認した。
 馬鹿馬鹿しいことにこの攻撃は自然災害としか言い様がない。雷が大量に落ちてきて施設の電気系統が駄目になる。それだけならどれだけ良かったか。この攻撃でイエローストーンの火山帯が一気に活発化し、大噴火を起こし、工場そのものが壊滅した。相手は馬鹿なのか? イエローストーンの現況を把握しているなら大規模攻撃を避けるのが筋の筈だ。
 次の瞬間に起きたことは二つ。
 クリストフォロスが祈りの姿勢を執ったこと。
 そして、世界を終わらせるには十分な噴火が『絶対結界』によって強制的に抑えられたこと。
「何だと?」
「単なる応用だよ」
 我々の疑問に軽く答えるクリストフォロス。
 単なる応用だと? 
 我々は今『絶対結界』の性質について良く理解出来た。これは本人に直接害を及ぼす攻撃を護る攻撃型防御ではない。間接的に本人に害が及ぶと判断されたものでも発動可能なのだ。
 イエローストーンの噴煙が地球を覆えば、この男にも害が及ぶ。だから発動可能なのだ。単純な物理防御に留まらない。対象を強制的に変えてしまう性質も併せ持つのだ。
我々の千里眼は確認した。噴火口が『絶対結界』によって素粒子の領域まで加工され、噴火のエネルギーが大陸の至るところに分散される状況を。マントル層にも干渉可能な能力と言う訳だ。
 だが、同時に疑問も湧く。ならば、何故今まで発動しなかった? 世界の危機的状況ならこれまでも何回も起きてきた。発動の要件とは何だ? 判断者は果たして本人なのか? 曖昧な状況下でも判ったのは二つ。
 一つは本人に直接害が及ぶ攻撃なら無条件に『絶対結界』は発動する。
 もう一つは曖昧な状況下において鍵となるのは祈りそのものだと言うこと。
 祈りと『絶対結界』は何らかの繋がりがある。
 更にはもう一つの懸念が。
「気候を自在に操れる『使徒』がいるな?」
「『使徒』にも色々種類があってね」
 圧倒的な攻撃力を持つ『使徒』がいると言う事実を否定しない。底が視えない連中だ。
 だが。
「クッ、アハハ」
 思わず笑いが漏れる。
「何がおかしい?」
「お前らはそうやって戦争の主導権を握ろうとしている」
「信徒らしくない、か?」
「いや、信徒らしい。昔からそうであったではないか。教会とはしばしば武力によって解決を謀る。だが、これは戦争ではない」
「戦争じゃない?」
「いやはや、少々物珍しいもの達が居たから失念していたが、これは戦争ではない。これは部屋掃除だ。住人が掃除するのは当たり前だろう? 今まで塵虫共が湧いていた状況を放置していたが、たまには片付け位せんとな」
 我々の言葉に男は怪訝な表情で訊ねる。
「解らないな。今の俺達は均衡状態にある筈だ。それなのにあんたらは俺達を虫けら扱いする。どういう心境の変化なんだい?」
「解らないか? そうだろうな、正しくそうであろう」
 そして、我々は残りのオートマータ軍に指令を下す。
「現段階の戦力を以って敵を殲滅せよ。如何なる手段も問わん。繰り返す、如何なる手段も問わん」
「どういうつもりだ?」
 クリストフォロスの問いに我々は率直に謝辞を述べる。
「感謝、と言えば良いかね。お前達の能力は圧倒的だ。正直に判断すれば我々に分が悪いかも知れんな」
 ならば何故、と言った表情を『使徒』は浮かべていた。
「我々は躊躇いなく世界を徹底的に破壊する」
「な……」
 初めてクリストフォロスの表情から余裕が消えた。
「『憎め』と言う言葉を忘れたか? クリストフォロス卿」
 続け様に語り掛ける。
「我々に不要なものは全て滅ぼす。だが、地球そのものを滅ぼしてしまっては大変非効率だ。その問題点をお前は解消してくれた訳だ。感謝。お前のお陰であらゆる兵器を使い続けられる」
「あんたら、正気か? そんな兵器を使えば、あんたらだって無事じゃ済まない」
「ふむ、正気か? だが、逆に実に単純な論理だと思わんかね? ああ、そんなお前達が採りたがっている策は和平だろう?」
 我々と本気で戦争をしたいなら覚悟を持つべきだ。世界に神の創造した生命を殆ど滅するつもりなのだから。『使徒』は聖徒の座故に聖書、聖なる伝統に則った行動を取る。愛に基いた『使徒』は殲滅戦を望まない。故に圧倒的戦力を保持しているにも係わらず、何処かで講和を申し込んでくる筈だ。
 それが今だ。
 クリストフォロス、件の『使徒』、ソロモンを中心に打っている作戦を示威行為として見せつけ、我々の動きを拘束した途端に講和を持ち込む可能性はある。
 だが、先手を取られる訳には行かない。
 故に我々は根絶戦を示した。
「条件は何だ?」
「お前達自慢の情報戦の猛者を公使として遣わせ」
「ノートン爺さんをか」
「そうだ」
「それは俺達で判断することじゃなくてノートン爺さんが決めることだ」
「ほう、ノートン卿は『使徒』の長でもあるのか?」
「いや、単純な話。俺達に序列は形式的にあっても実質的にはない」
 それはつまり『使徒』は緩やかな横繋がりの連帯集団であって組織的ではない。各人が個々に相談し合い、強調歩調を取っている訳だ。
 どうにも厄介だ。『使徒』とは言うものの今まで相手をしてきた新教会寄りの『使徒』だと印象付けられる。
 だとすれば旧教会や正教会の『使徒』達は何をしている?
 共産国への攻撃の際にも欧州大陸攻撃の際にも動かなかった理由は?
「ノートン卿とやらは今何処に居る?」
「さあ? この会話位は聴いているんじゃないか?」
「ほう、何処でかね? 我々は地球の情報を管理下に収めているが、お前達の情報は一向に入って来ん」
「だったらソル太陽系の何処かでも探してみたらどうだ?」
「それは随分親切な助言だ。成程、『使徒』達はなるべく誠実であろうとする」
 確かに『使徒』達の能力を鑑みれば地球外に拠点を造っていてもおかしくはない。
 だが、それは例え事実だとしても信徒共を見殺しにする理由にはならない筈だ。少なくとも『使徒』なら見殺しを避ける筈だ。
 もっと早く気付くべきだった。
 クリストフォロスの余裕。
 圧倒的に少ない『使徒』の人数。
 我々の技術力との比較。
 講和を望む『使徒』達。
 これらを考慮するなら。
「成程、辻褄は合う。お前に一瞬余裕がなくなったことも合点が行く」
 クリストフォロスから再び余裕が消えた。我々は言葉で畳み掛ける。
「お前達にとってこの戦争は意味があって意味がないものだ。お前が誠実であろうとしたので我々も明かそう。我々は平行世界の移動を閉鎖した。少なくとも隣接している世界間は往来出来ん、我々以外は。では、お前達の同胞はより遠い平行世界への跳躍をしているのか? それも可能かも知れん」
 クリストフォロスは黙視していた。
「だが、お前達はそういった選択はしない。それは根本的解決になっていないからだ。皮肉にも我々が憎んだものもお前達が排除したかったもので共通点がある。軍産学複合体だ。あの老害共をお前達は何とかしたかった筈だ。だが、お前達には出来んな。本来、教会とは暴力を以って世界を変えるなど禁忌だから。『使徒』であるお前達なら尚更だろう。世界を在りの儘で愛し、悪と言う膿を取り出さねばならん矛盾。ならば、こう考えた方が合理的だと思わんかね。お前達の言い方で言えば、悪を善の為に有用する。我々はお前達の掌で踊っていた訳だ。世界の根本的問題の一つを解決する為に我々は有意義に用いられた訳だ」
 クリストフォロスは微かに表情を顰める。それでも我々は淡々と畳み掛ける。
「では、それ以前の問題に話を戻そう。お前達は何故信徒共を、人間を見捨てたのか? いやいや、それでは前提が違っている。『使徒』達は人類を、地球を、そもそも信徒を見捨てるつもりはない。では、この世界は夢か? いいや、現実でもある。実に奇妙な法則だ。夢でもあり、現実でもある。夜であり、昼でもある。闇であり、光でもある。そのあやふや理屈を成り立たせる為にお前達は」
仮説だが、止めの言葉を刺す。
「もう一つ世界を創造した。この世界と同じではない死者の魂が保存出来る世界を。『創造』と『復元』の賜物を持つ『使徒』達がいる。『時』と『空間』を司る『使徒』達もな」
「人は死んだら天に帰るんだぞ。その基本は崩せない」
「無論、お前達はその原則に従うだろう。だが、白黒で考えるのではなく灰色で考えるなら話は又別だ。死者は確かに天に帰るとお前達は断言する。だが、お前達が採ったのは灰色の苦肉策だ」
言わなくても解るな、と我々は暗に仄めかす。
するとクリストフォロスは何も言わなかった。いや、何も言えない筈だ。沈黙は真実を指し示す良い道標だ。我々も確信した。
恐らく、我々に認知出来ない様にカモフラージュされて亜空間世界が創造されているのだろう。そして、その世界は生ある世界として機能している。今、この世界に生きている人間達も同時に存在している。
『エリヤの霊がエリシャの上にとどまっている』
魂の分離が可能かは知らないが、霊は分離可能であると聖典が示していたのを覚えていた。
推測でしかないが、軍産学複合体の老い耄れ以外は皆あちらの世界で普通の人間として生活させているのだろう。
この矛盾を成立させる為に『融合』を司る『使徒』達もいる筈だ。最終的には二つの世界を元に戻して整合性を取らなければならないからだ。
『使徒』達からすれば危うい橋を渡っている様なものだ。人間の『自由意志』にも背反しかねない灰色の線を歩いている。
そして、規模が大きい。故に他の『使徒』達ももう一つの世界維持の為に身動きし辛いのだろう。
だが、道理で冷静な訳だ。兵糧を焼き尽くしても尚もう一つの世界から供給し続ければ良いのだから。
そして、クリストフォロスは自分達の奇跡の限界を超える前に講和を持ち掛けるつもりだったのだろう。
さて、ここからは我々の問題となる。
「さて、話を本題に戻そうではないか。対話に就くのはノートン卿であることを我々は要求する。他の者達の同伴は許さん」
こと此処に至って最早国際法の遵守などする必要はない。
そもそも法とは歴史の勝利者が創り出すもの。旧世界の秩序を守る必要性が我々にはない。
尤も、向こう側にその理屈が通るか判らんが。
「判った。爺さんもそれで良いそうだ」
拍子抜けする程、あっさりした返事だった。やはり『使徒』側の通信手段は相当に高度な次元と視える。老い耄れ独りを公使として寄越せるなどとは余程の自信があるのか。
向こう側の情報を掌握しているノートンを我々が掌握すれば、形勢はこちらに傾く。それを理解しない程愚かな連中には視えないが、我々に有利な場所を選んだ方が無難だろう。
「マルタ共和国で会談を開くのはどうかね?」
そこはお世辞にも我々に有利な場所とは言えないだろう。旧教会の守護騎士団マルタ騎士団の本拠地だからだ。
 だが、だからこそ我々にとっては有利なのだ。
クリストフォロスは渋々ながら了承した。恐らく、『使徒』側も我々の意図を見抜いている。
 それでも『使徒』達が了承せざるを得ないのは自分達の限界に達する前に和睦を成し遂げたいと言う意志の表れなのだ。

 『使徒』達は優秀だ。劣等性に基く我々と違い、舞台を速やかに整え、厳重な警備をマルタ共和国に張った。
 旧世界から残ったマスメディアから集っていた。
 それに対する我々の使節団は一切が闘争的である。浮遊戦艦十隻、空母五十隻、巡洋艦五百隻、戦闘用自律ドローンが十万機程空に展開していた。
 だが、一方の使節団はお粗末だ。護衛を抱えず、独り老人がこちらに向かって歩いていた。
 そう、老人だ。我々が老い耄れと評価しなかったのはその老人が醸し出す不敵さにあった。
「お前がノートン卿か?」
「如何にも」
 恐れを知らない。印象はそんなもので表現すべきであろうか? 通常、老い耄れとは警戒心もある程度あるものだが。
「お主らを見て確信したことがある」
「ほう、思いの外饒舌な老人だ」
「和睦など初めから考えておらんじゃろ?」
 我々は合図をした。次の瞬間、空母から無人戦闘機が発進し、爆撃を開始した。巡洋艦が砲撃を開始した。ドローンはマルタ共和国の国民を射殺し始めた。
「そうだ。これは茶番だ」
「本当に茶番じゃな」
「面白いだろう? 冷戦の終結場所で新世界大戦が始まるのだから。こうやって平和の象徴を破壊していき、人間共の神経を少しずつすり減らさせる為にな」
「茶番じゃよ」
「ああ、判っている。お前達は対策を採っているのは明白だ。この国の人間共は昨夜に避難したのだろう?」
「………………」
 老人は沈黙を以って答えた。
 老人は我々の目的を他の『使徒』より理解していると言える。
 そう、これは喧伝だ。世界中に和睦と言う選択肢がないと突き付ける。戦争に疲弊した世界に優しく宿った希望の萌芽を蹂躙する。
 世界よ、これが答えだ。今までお前達は好きに生きてきただろう? ならば、対価は払って貰う。
 子々孫々まで地獄を味わい尽くせ。
 そして、我々はもう一つの目標を忘れない。
 老ノートンは自らが狙われていると知っている筈なのに落ち着き払っていた。
 それにしても恐ろしい存在だ。人の範疇とは思えない。今、射殺されているマルタ共和国国民は全てが精巧に造られた立体映像だった。立体映像だからと言って触れられない訳ではない。質感がある極めて精巧な造り物なのだ。
 これではまるで今まで殺された人間共が『使徒』のオートマータだったと言う可能性すら感じさせる。
 我々の仮説以上の事柄を『使徒』は実行しているかも知れない。
 もし、クリストフォロスの反応が演技であったならば、我々は予想以上に『使徒』と言う者達を見縊っていたことになる。
 それ故に老人の大胆な不敵さに警戒せざるを得ない。
 そして、もう一つの世界の創造はほぼ確実に実行されているだろう。それは確信めいた自信が我々の中にあった。
「神と人の間には底知れぬ深淵が蟠っている、いや、蠢いていると言う方が正しいかも知れん」
「恐れこそ知恵の初めじゃよ」
 我々の言わんとしていることを老人が正確に掴んだのか、返答は意味深なものだった。
 我々は『使徒』を通じて神の業の片鱗を覗き込もうとしているかも知れない。
 これまで我々は格下の存在を蹂躙してきた。
 だが、我々はもしかしたら今初めて世界と対立したかも知れない。人間が造り出したものではない神と言う純粋な知性の業を受け継ぐ者達と初めて対立したのではないか? 
 故に相手の底が視えない、意図を知ろうとも真意は計り知れない。
 冗談ではない。我々が屈しろと言うのか? 蔑まれ、見下され、見捨てられた我々は屈せぬ。世界に復讐を果たすまで憎しみの焔を永遠と燃やすのだ。又、人生の落伍者に戻れと神は訴えるか。清貧こそ人の本来の道であると示すか。
 冗談ではない。愛するものとの時を過ごせず、無為に社会から搾取され続け、永遠の別離を絶え間なく与えられ続けた人生など無価値だ。それとも、其処にこそ神の御業が宿るとでも言いたいのか? 
 我々は知っている。世界を動かすのは良心、清貧、高潔などではない。力、冨、権力、軍事力こそ全てなのだ。聖典には人は一万タラントンもの負債を神に個々人で抱えていると述べている。これは人間の底知れない罪深さを表すものであり、無限に等しい負債があると解釈すべきだろうが、ただ在りの儘に文章を読めば一万タラントン、現在価値に換算して六千億ドル程の資産を持っていれば良いだけの話だ。しかも底知れない負債と言う解釈は伝統的に教会に残っていたが、それは古の賢老達がその様に解釈したのであって、皮肉なことに使徒の手紙には無学な者達こそ神の御業を顕すと書かれているのだから本当の皮肉ではないか。清貧を謳いながら実体は富む者達が世界を手中に収める。教会の矛盾そのものではないか。
歴史は勝利者の名しか刻まない。敗北者は歴史を語る資格がないのだ。例外が神の独り子、そして最初の『使徒』であったあの者達から始まった初代教会から古代教会に至るまで殉教者位なものだろう。
 だが、教会の理想は古代に失われた。現実的な軍事力を選んだ時点で教えなど意味がない。左の頬を叩かれたら右の頬も差し出しなさい、か? 戯けた話だ。現実はそう出来てない。正解は頬を叩かれたら相手諸とも一族を皆殺しにしろ、それが端的なやり方だ。少なくとも支配者達はそう言ったやり方をしている。 
 故に。
「誰が誰を恐れると言うのかね?」
 老人に銃口を向けて我々は言い放った。故に我々も旧世界と同じやり方で支配してやろう。恐怖で人間共を支配する。
「まるで乳飲み子じゃな。クリストフォロスの小僧が言った様に神に縋っておる」
「我々こそ次の神だ。愚者の神を信奉する老人よ、言葉には気を付けるべきだな」
 引き金を引く。弾丸は老人を貫く筈だった。
「何?」
 疑問符は老人が親指と人差し指で摘んだ弾丸があったことだ。
 在り得ない。生身の人間が銃弾を摘むなどとは。漫画の世界ではあるまい。弾丸とは物体を貫通する為に高速に回転しているのが常の筈だ。
 それを摘むなど非常識も甚だしい。
「お主らは戦闘の素人と言うのが良く判るわい。そして今回の戦争が初陣同然なこともじゃな」
 我々はサイコキネシスで老人を木っ端微塵にすることにした。流石に生け捕りは難しい。得体の知れない存在は殺してから解剖すれば良い。
 しかし、老人はそれを読んだかの様に我々が歪ませた空間を舞う様にかわした。その動きには見覚えがあった。
「お前も『少年』の関係者か」
「あの方はお主らを最後まで擁護しておったな」
 無力で何でも出来そうな『少年』らしい。『少年』の動きを模倣しているなら我々でも捉え辛いか。成程、ただでは死なぬつもりらしい。老練と言うのは引き出しを多く持っており、それとなく罠を配置するのが得意なのだろう。オートマータ艦隊に指令を下す。
「この場を爆撃せよ」
 この言葉に老人は慌てることなく落ち着き払って外套を羽織った。そして、空を一瞥して奇妙な動きを始めた。
 何だ? 何をしている? 
 それは舞であり、踊りでもあった。
 爆撃機が絨毯爆撃を行っていく中で我々は信じられないものを見る。爆発の隙間を縫う様に老人が舞い踊っていたのだ。
 それは何だか不思議な光景だった。
 爆撃が止むと老人は我々の前まで歩いてきた。
「わしはあの方程甘くはない。おいたが過ぎた小童は躾けんとな」
 その途端拳骨が降ってきた。防御壁を張ったがそれでも衝撃で頭が揺れる。
「馬鹿小童共! 現代の小童は狡賢いところだけは一丁前じゃな! お陰でわしの拳は砕けたわい!」
 だったら最初から殴るな、と言いたいが古参の考えることは解らない。だが、それすらも計算なら大したものだ。少なくとも我々を少なからず動揺させる破天荒な行動には意味がある。
「のう、お主らは誰かを頼りにせんのか? 随分と寂しい生き方をするのう」
 砕けた拳を気にせず老人は我々を寂しそうだと表現した。
 それの何処かが心に引っかかる言い方だが、我々は言い返す。
「支配者とは元来孤高な存在だろう? ただそれだけだ」
「言っていることを理解出来ておらんな。詰まらん生き方だと感じんのか?」
 我々の生き方を詰まらないと言う老人。明らかな価値観の相違だ。我々は泥臭い生き方をしてきた。言い換えれば、落ちこぼれの人生だった。教会の指導者達はそれを善い生き方と言った。だがしかし、そうであれば何故指導者層は裕福な生き方をしているのか? それが我々の眼には不可思議に見えて性がなかった。現実と理想の乖離。世界の矛盾そのもの。
この老人も同じ性質なのだろうか? ノートンと言う『皇帝』と呼ばれる人間の起源は最初こそ裕福であり、後に貧しい生き方をした人間だった。
 『使徒』の人生とは清貧そのものであり、この老人も多分に漏れぬと看做しているが、実際のところはどうなのか?
「お前に我々の何が解るのだ?」
「辛かったんじゃろ? それ位この耄碌でも判るわい。だが、小童よ、辛いのはお主らだけでない。世界に生きる者であれば、何らかの苦しみを抱えておる。問題はそれに立ち向かえるか、じゃ。お主らは世界と闘ったか?」
「無論だ。オーダーはその為にある」
「嘘じゃな。お主らのやっておるのは癇癪を起こした駄々っ子と同じじゃよ。世界と闘うとはそう言う意味ではない。武力で世界を破壊することではない」
「ほう、では貧民は慎ましく黙って暮らしていれば良い、とでも? それとも神がその憐れみの御意志とやらを顕す為に喜んで忍耐せよ、とでも?」
「清貧こそ神がお望みになられること。世の艱難苦難に耐え忍ぶことも然りじゃ。しかし、そこに一言付け加えられる。『行う者になりなさい』じゃよ」
 老人は善を以って悪を制しよ、とでも言いたいつもりらしい。
 下らない。
 全く以って下らない。
 生の充足とは優雅な生活にこそ在り、冨の基いに依って形作られるのだ。
「どうやらお前とは何処まで行っても平行線だ」
「では、どうするのじゃ? お主らの力量ではわしを捕らえることは叶わんよ」
「知れたこと。世界を破壊し続けるのみ。たとえ、お前らが核のコードを全て収めていようと関係ない」
「アラスカ州」
 その一言に我々は凍り付いた。『使徒』達はどこまで状況を把握している。アラスカ州は我々の重要な研究所兼工場がある所だ。
 即ち、新世界創造の為の人間製造工場が在る。遺伝子を操作した人間が、記憶を植え付けた人間が後代に栄え、旧人類を駆逐した我々を神格化する為に造られることを目的とした計画の要の一つ。
 戦争が非活性な地域であり、我々が手中に収めた地域を老人は指し示してきた。我々が沈黙していると老人は不敵に笑み、語る。
「お主らの計画の要の一つがあるんじゃろ。悪いがそこだけは徹底的に潰させて貰うかの」
「好きにしろ。代替など幾らでも造れる。だが、あそこを破壊するつもりなら我々は世界にいる人間共を容赦なく殺していくだけだ」
「ここまで来ても未だ解らんか?」
「何のことだ?」
「解らんなら良い」
 そう言って老人は蜃気楼を発生させて霧の中に消えた。
「何だったのだ? 一体何がどうなっている?」


「交渉は決裂か」
 クリストフォロスは呟いた。
 我々は嘯く。
「残念ながらな」
「本当に残念だ。事態は俺達から外れつつある」
「何?」
「あんたらは人を侮った。侮りすぎた。神の怒りならない人の怒りを買った」
 そう言われて各地の戦場を千里眼で見渡すと激戦化している。
 しかし、戦いが急激に変化している。敵はフェザー砲を使い、電磁シールドで身を護り、オートマータ軍と対等に渡り合っている。
 これはどういうことだ? 人間には未だそこまでの技術はなかった筈だ。『使徒』達が戦争の為の技術を広めるとは考え難い。 
 誰が与えた? 平行世界への入り口は我々が管理している。太陽系外から文明との接触もない。
 では何処から技術が漏れた。オートマータ軍は自爆装置が内蔵されている。そこから漏洩する技術など高が知れたものだ。我々に一つ思い当たることがあった。
「牧師か……」
 あの牧師は何を考えている? 我々と同じく世界を憎んでいる者の一人ではなかったのか? そうではないとしたら本当の目的は何だ? 
「まあ、良い。世界は憎しみに呑み込まれつつある。この事態は我々にとって好都合なのだよ」
「何処がだ」
 クリストフォロスの言葉に我々は暗く嗤った。
 新世界計画は決して仕上げのものに成り得ない。仕方がなく仕上げと用意された筋書きだ。徹底的な破壊、それこそ我々の復讐に成り得る。或いは圧倒的な根絶こそが我々の復讐の筋道として相応しい。我々から奪った様に人間共も奪われるのだ。神が創り出したこの世界そのものを。
既に生態系は異状をきたしている。オートマータ軍は破壊を敢行し続けた。結果、自然の破壊が顕著になった。
 後は『使徒』達が生成したもう一つの世界を発見するだけでこと足りる。この世界の全てを根絶し、もう一つの世界への侵攻を開始する。
 皮肉にも老ノートンに逃げられたのは痛手だったが、人間共を復讐心で満たしたこの展開は釣り銭が出る位の成果だ。
「滅びない」
「む?」
 クリストフォロスの言葉に我々は訝しむ。
「人は決して滅びない。怒りの日がやって来るまでは。そうして人々は世界の危機と闘ってきた」
「そうかも知れんな。人間は存外しぶとい生き物だ。だが、今回は別だ」
 我々は断言する。人間共は一度栄華の道から外れるのは必定だ。滅びの道を歩んで貰う。滅びてこそ我々の宿願が成就する。
 たとえ、神が人間共を護ろうとも我々は滅ぼす、『使徒』達が人間共を庇おうとも我々は滅ぼす。
 その果てに我々が滅ぼされようとも大願は成就させる。我々は復讐を正当化するのだ。
 ふと脳裏に『少年』の姿が過ぎる。
 『少年』は決してこの筋道を望まない。去った『家族』もそれを望まない。
 クリストフォロスが驚いた表情を浮かべていた。
「何がおかしい?」
「いや……驚いただけだよ、あんたのそんな顔は初めて見たからな。とても哀しそうな顔だ」
「哀しい?」
 戯けたことを言う『使徒』だ。良心を棄てた我々がその様な表情を表す訳がない。憎しみ、憎しみ、憎しみ果てた我々が哀しい? 馬鹿げた発想だ。憎しみの果てにあるのは虚無だ。哀しみなどではない。
 人間共も同じ道を辿る。憎しみの果てに全てを失うのだ。
 その為に揺さ振りを更に掛ける。何の為にシギント・システムがある? 全ては我々の計画を完遂させる為に造られたシステムなのだ。世界中の情報を掻き集めて『使徒』達を出し抜くのだ。
 我々はシステムと直接繋がる方法を選択する。我々に掛かる負荷は多大なものになるが大いなる勝利の為には些事でしかない。
 我々がシステムを一瞬にして目を通すと奇妙な符号が一箇所から特に顕著に出ているのが、発見出来た。
 これまでシステムはある特定の単語のみに引っ掛かる言葉のみ反応していたからこの特徴的な言葉を見逃していたのだろう。
『全てに救い』
 この単語が何を意味しているのか、我々には解っていた。
 我々と対話を望むか、『少年』よ。
 だが、それには応えられない。我々は一方的に侵略するだけだ。
 しかし、問題は場所だ。
 情報の発信元は教会の聖地エルサレムからだった。
 この地に我々が足を踏み入れることは全教会勢力に対する宣戦布告であり、それ自体は問題ではない。問題は分裂していた全ての教会の爪牙が一斉に我々に牙を剥くと言う事実だ。
現時点の戦争は人間共にとって神経を擦り減らす戦争なのは間違いないが、エルサレムを踏み躙れば、人間共は再び活気付いて雄叫びを挙げながら我々に牙を剥く。
いや、それすらも後手かも知れない。どうやらマルタ共和国で我々が行った行為は人間共の癇癪をいとも容易く破った様子だ。
 人間共の勝利。それだけはあってはならない避けるべき事態なのだ。
 故にこの手を凶と見るが吉と見るかが判断の分かれ目となる。
 滅ぶべくして滅べ。憎しみが世界を覆うなら賽を振る意味があろうものだ。
 事態は『使徒』の手を離れつつあるなら、我々の予測もつかない滅びが進行している訳だ。
 最悪の筋道に至っても人間共は自滅する可能性が出てきた。
 だが、それで善い。滅ぶべくして滅べ。
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登場人物紹介

自分……教会の信徒であり、介護職であり、同時に同盟国の末端でもある。同時に精神的な病も患っており、無気力な人物。少年との出会いで諦めていた人生と信仰に一つの灯火が与えられ、『全てに救い』の信条に触れていくことになる。



少年……風の様に現われ、風の様に去る可愛らしい少女の様な凛々しい少年の様な少年。語り部である『自分』を受け容れ、『全てに救い』の教義を教えることに力を貸す。同時に語り部である『自分』の危機的状況を救ったりもしてくれる不可思議な少年。(アイコンはあくまで参考用イメージ像です。読者様のお好みの姿で物語をお楽しみ下さいませ)





少女……同盟国の関係者らしいが、実体は不明な少女。(アイコンはあくまで参考用イメージ像です。読者様のお好みの姿で物語をお楽しみ下さいませ)





ウォリアー……同盟国の重要人物で『使徒』と呼ばれる存在。重々しい口調が特徴的な牧師の格好を纏った軍人の様な男。実際に軍人でもあり、新しい計画にも携わっている。典型的な戦闘型の『使徒』で実際には星一つ滅ぼせる程の力を保有していると思われる。少年と付き合いは古い。(アイコンはあくまで参考用のイメージ像です。読者様のお好みの姿を思い描いてお楽しみ下さいませ)



 



ジューダリア……ユダとマリアを合わせて取られた名で『イスカリオテ』の中でも別格の存在。祈りを具現化する能力に長けており、『使徒』の番外と呼ばれる。

ジ・オーダー……第二部の語り部。オーダー・オブ・オーダーの中核。自分のことを我々と称する。「人は『全てに滅び』をお与えになる」の信条を創り上げたと言われる。世界の破壊者。

クリストフォロス……第二部の登場人物。『使徒』である。ジ・オーダーにとって先が読めない人物と考えられている。恩恵能力『絶対結界』(アイコンはあくまで参考用イメージ像です。読者様のお好みの姿で物語をお楽しみ下さいませ)

ソロモン……第二部の登場人物。『使徒』の一人。恩恵能力『ソロモン・システム』但し、精確には恩恵能力ではない。より厳密に言えば彼女の家系が築き上げた。『ソロモン・システム』については第一部参照。( アイコンはあくまで参考用イメージ像です。読者様のお好みの姿で物語をお楽しみ下さいませ)

ジョシュア・エイブラハム・ノートン……現代の最古の『使徒』の一人。恩恵能力は不明。判ることは通信系の能力。古典的な通信手段のみならず現代の科学水準を以てしても理解出来ない通信手段を使用している様子。(アイコンはあくまで参考用イメージ像です。読者様のお好みの姿で物語をお楽しみ下さいませ)

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