5月・バトル
文字数 4,871文字
桜もあんまり見れなくなって、梅雨とか夏とかになる前のよくわかんない季節。
目の前の訓練場?とかそんな感じの広い場所では、沢山の竜や、竜人の騎士や格闘家なんかが戦ってお辞儀して戦ってを繰り返してる。その中でたまに角が蒼く光る竜もいる。アイツとか、あとアイツとか光ってる。楽しんでるんだろうなぁ。
「素晴らしい。作法も美しく、それでいて土壇場で行う型の崩し方も見事なものです」
「黒竜女帝直属の『紫炎』部隊、その蒼角の輝きから感じる力も噂以上。私、感動しております」
おじさまもおばさまも、よくわかんない事言って喜んでる。まあいつも見てる竜騎士よりは、確かに強そうとは思うけど。
――なんでアタシはこっち側なんだ?アタシもあっちに混ざって戦いたいぞー?
みんなでちょっと遠くまでお出かけして、偉い竜人の大人達と並んで、久しぶりに皇黒竜の軍と話してた。でもアタシが話したかったレオノーラは途中でどっか行っちゃうし、その後のお偉いさんの話は全く面白くない。
出かける前、アタシが駄々こねても無理矢理着せられた、サイズピッタリな服もそろそろ苦しい。お揃いの服着たみんなは「よく似合っている」とか「高貴なる血に相応しい」とか言ってたけど、そんなの全く嬉しくないぞ、ペットのお犬さんとかの気持ちが分かった気がするぞ。
体がムズムズする。みんな今のアタシより背が高いのに背中伸ばしてて、アタシがなんかちっちゃい子供みたい。そろそろぶっ飛ばしてみたくなる。
――ん?なんでアタシ今日は我慢してるんだ?レオノーラいなくなったし、アタシがここにいる必要もうないんじゃないのか?
決めた。アタシ、今からあの訓練場で戦ってくる!
「あーーーもう限界!アタシも混ぜろーーっ!!」
座ってるだけで窮屈だった高級なソファを飛び出し、おじさま達の声も無視して走り出す。なんか走りにくい事に気付いて、履かされてた硬い靴も脱ぎ捨てて裸足になる。
「うわぁ、なんだなんだ!?」
「ノイレお嬢様、静まりください!」
訓練場の竜人達も、おじさま達と言ってる事同じでつまんないぞ!やっぱりアタシ達竜人族は、拳で語り合わないとな!
アタシの特技をレオノーラの軍にも見せてやる。
「ウヒャハハハハハ!みんなでアタシにかかってこい!――ドラゴアンリーシュ!」
まずは技名発声で右腕を竜化。さっきまであったちっちゃな子供の腕はもう見えなくて、代わりに、蒼く大きな竜族の腕がアタシの服の袖をビリビリに破り捨ててくれる。右腕だけ急に体重が重くなって、多少ふらついてから立て直す。
「うおおっ!!」
アタシの全身と同じくらい大きなハンマーを持ったドラゴロイドが、そのでっかいのを振り下ろしてくる。
「いっくぞー!」
「何っ!?その小さな体で――」
ハンマーを右手で受け止める。想定外だったのかすぐに次の行動に移ってくれなかったから、もう終わらせることにした。
「それーっ!」
ハンマーを掴み、振りかぶって投げると、それを大事に掴んでいた竜もつられて飛んで行った。リアクションすら聞こえない。聞こえるとすれば、時間差で後ろからブォォッ!!っと襲ってきた風圧くらいだ。
「次は誰だ~?いっぺんに来てもいいぞー?」
背伸びして、大きな右手を額に当てて、周りを見渡す。
「ッ……!仕方ない、皆でお嬢様を止めるぞ!」
次第にみんなの顔もやる気になってきた。アタシも笑顔で応えて走り出す。
相手の剣を握るようにへし折ってその腕ごと地面に叩きつける。その隙を狙って襲ってくる別の竜。今度は地面に置いた右手を支えに逆立ちして、両足を竜化。そのまま蹴り飛ばして対処した。まだまだ来るので、右手を器用に動かして回し蹴り。もうアタシの服はほぼ全部破れて、とても気持ちいい。
「負ける気がしないぞー!」
みんなの攻めが落ち着いたタイミングで両足を地面に埋め込んで体を固定、全力で右腕を地面に叩きつけた。
「ドラゴイラプション!」
地割れと、同時に発生した竜のエネルギーで大爆発。みんな一気に吹っ飛んだ。精鋭部隊といっても、やっぱりアタシよりは強くもない。
「ナハハ!どうだ〜!アタシは強いだろ〜っ」
両手を腰に当てて笑う。爆発の範囲外にいた竜達が、武者震いだったり放心だったり、色んな反応を見せてくれる。
「暗く燃えよ、カオスドラゴブレス!」
上から聞こえた低い叫び。見上げると飛竜が紫色の炎ブレスを吐いてきた。その姿、レオノーラの軍のメイン戦力として大量投入されるやつだった気がする。
「おじさまが言ってた紫炎、確か名前はジーラだな!飛ぶのは卑怯だぞ!」
指を指して相手を確認。しかしすぐに降ってきた炎がなかなか高火力。
「おぁっとと」
避ける。炎はさらに広がる。バックステップをやめて全力疾走。邪魔な竜がいたら踏み越え飛び越え、訓練場の端まで行って壁を駆け登り、勢いつけてジャンプ!
「そりゃ!」
右ストレートをジーラの腹狙いで伸ばす。しかし。
「紫炎・ヘルブレイズ!」
ジーラの竜鱗が燃え、その熱が放出される。右手は熱を浴び、腕が焦げそうな感覚を味わう。普通の炎ならあまり熱を感じないから、紫炎とかいうのは相当強そうだ。
「でも、負けないぞー!」
空中で右手を引いて、その勢いで攻撃を左足の蹴りに切り替える。ジーラを踏んで飛びあがり、もう一度紫炎の竜を見下ろす。
竜化で暴れる事で、竜化出来ない頭や胸や腹なんかが耐えきれずに痛んでくるが、その感覚を吹っ飛ばすため、竜の部分だけに意識を向ける。角が伸びる感覚。蒼く輝いて、アタシの力をさらに高める。みんなの言ってる高貴な血、ノーブルホーンだ。
もう熱は気にならない。ジーラを全力で殴り飛ばして、力強く着地する。また地割れが起きそうだけど気にしない。
今気になるのは、ジーラが飛んでった方向。思いっきりぶつかっても一部分だけ崩れずにいる硬い岩の壁だ。試されてるんじゃないかと思ってしまう。
残った竜達が攻めて来るのを竜化で生やした尻尾で薙ぎ払い、バランスを崩して倒れたのを誤魔化すように、クラウチングスタートで岩までダッシュ。到着。模様が描かれたそれを全力で殴る。
全力なら簡単に崩れた。壁の奥は外かと思いきや、その先は洞窟みたいな空洞。中には一人の女の子が、虚ろな目で地面に座っている。
「ゼンブ……壊ス……」
アタシと同じくらいの大きさの子。その発する力やオーラ、覚えがある。
「ミューニだ!しばらく会ってないと思ったけど、なんでこんな所にいるんだー!?」
近付いて挨拶する。俯いていたミューニはとてもゆっくり顔を上げる。
「……ン?ノイレ、久シブリ――危ナイヨ?」
ミューニの角が蒼く光る。背中の細い紐のような左翼が伸びて、アタシを狙ってくる。右手で防ぐが、翼が絡まってきて動けなくなる。次に大きな尻尾が左から来るので、左腕も竜化して防御する。危ない。少し遅れてたらアタシの体が粉々になってたかもしれないぞぉ……。
「もぅーまたなのかぁ?でも今のアタシは、そういうの大歓迎だー!」
尻尾が離れた左手でミューニの顔面を狙うと、見えない力で弾かれる。相手の右翼が迫ってくるので、絡まれないように左足で振り払う。その隙に再びやってきた尻尾に対処できず、横腹を叩かれる。同時に右手の拘束が解けたので洞窟の壁まで飛ばされた。
「えぅっ!やったな~?」
けっこう痛いけど、このくらいやってくれる相手を期待してたから、ようやくって感じだ。
「力、暴走シテル。今ハ、近付イチャ駄目」
「ミューニはつれないなぁ、でももうアタシは止まれないぞ!」
立ち上がってもう一度ダッシュ。翼と尻尾、そして見えない障壁と格闘。しばらくするとミューニも立ち上がってくれた。
「ノイレ、怪我サセタクナイ。体ガ勝手ニ動イチャウ。帰ッテ」
「ようやく戦う気になってくれたか~!アタシは嬉しいぞ~っ!」
ゆっくり上がるミューニの両手がアタシに向けられる。障壁として佇んでいた竜の力が、波動になってアタシを押し込んでくる。足を地面に埋め込み、両手のラッシュで迎え撃つ。
「見えないパンチはちょっとずるいなー」
がむしゃらに両手を振り回して迎撃を続けるが、防げなかった波動を喰らい続けて消耗してしまう。
「フーッ」
息を吹きかけられ、それは炎になって洞窟全体を包む。ついに埋め込んだ足を地面から引きはがされた。
「コレデ終シマイ」
ミューニの右足がゆっくり上がり、アタシに触れる事無く超火力のキックを放ってきた。
「にゃっ!!ぐへぇ……」
命中。洞窟出入り口付近まで飛んで倒れる。やっぱりミューニは強いなぁ。参った参ったぞーと両手を軽く上げたけど、ミューニは物足りないのかふらふらと歩いてくる。困ったなー、今の攻撃をもう一回喰らったらきっと死んじゃうぞ――
「今一度奮い立てノイレ!他ならぬ私の命令だ!」
竜化が解除されることで、止めていた人体の痛みの復活で意識が飛びそうになったが、聞こえた声で目覚め、竜化は継続された。
倒れたまま首を動かす。その視線の先にいる声の主は、角を蒼く輝かせ、刀を掲げた。アタシの元気が戻ってくる。力がみなぎってくる。
「レオノーラ!どこ行ってたんだ、アタシと戦え!」
「仕方ない。その者を鎮静化出来たら考えてやろう。だから今は協力せよ」
「言ったなー!約束は破ったらダメなんだぞー!」
跳ね起きてミューニを見る。もう近くに来ていた。
相手の動きが遅い事を確認して後ろに回り込む。そして左腕の竜化をさらに強める。自分の身長と同じくらいの左手を握る、その衝撃だけでミューニがよろける。
「ナハハ!」
アタシ自身の力の勢いが楽しい。思わず笑いがこみ上げる。
「ヤラセナイ、防グ」
「挟撃の連携こそがこの世界最強の戦術だと、私自ら示してみせよう――紫炎・黒蒼烈破斬!」
レオノーラの刀が振り下ろされると、遥か遠くのこの場所まで、紫に燃える斬撃が走ってきた。
最近勝ってばっかりだったから久しぶりだな、この感じ――
「ドラゴ、イラプション――!!」
――逆転って、こんなにも気持ち良いものなんだな!
アタシの全力とレオノーラのコンボを受けたミューニは傷一つ付かなかったけど、力の波動は収まって、「眠クナッタ、オヤスミ」とか言って寝ちゃった。
レオノーラの支援が無くなると、アタシは疲れが戻ってきてばたんきゅー。竜化も解除されて、おじさま達の竜騎士に回収された。
――で、今は正座させられてる。なんでだー?
「とりあえずレオノーラ、今すぐアタシと戦えーって痛い!痛いぞー!」
手刀を頭に喰らった。痛い。
「どうだ、参ったか?」
コイツ賢い。アタシが久々に疲れてるタイミングで勝負してきた。これは流石に勝てないぞ。――今すぐ戦えって言ったのはアタシなんだけど。
「結果的にミューニを救えたから良いものの、貴様は責務を放棄して交流訓練及びその会場を滅茶苦茶にした挙句、災厄の封印まで解くという暴れようだ。僅かながらには反省の意思は欲しいものだな」
あーやっとわかったぞ、レオノーラ怒ってるかもしれない。おじさま達も困った顔してる。服破ったのも後で言われそう。
「で、でも!アタシは戦いたくて今日ここに来た事くらいはみんな知ってたはずだぞ!すぐそばでバトルを見せ続けるなんておじさま達もひどいと思う!」
レオノーラがまた無言でチョップしてきた。痛い。
みーんなため息ついてる。いや、そうだろ、だってそうだろ、そうだよな?
「……確かに、配慮というか、対策が足りなかったのは認めよう」
レオノーラの微笑。続けて口を開くレオノーラ。
「ノイレよ。今日のバトルは楽しかったか?」
アタシも満面の笑顔を返した。
「うん!楽しかったぞ!またやってくれ!」
バシッ
「んなーっ!」
目の前の訓練場?とかそんな感じの広い場所では、沢山の竜や、竜人の騎士や格闘家なんかが戦ってお辞儀して戦ってを繰り返してる。その中でたまに角が蒼く光る竜もいる。アイツとか、あとアイツとか光ってる。楽しんでるんだろうなぁ。
「素晴らしい。作法も美しく、それでいて土壇場で行う型の崩し方も見事なものです」
「黒竜女帝直属の『紫炎』部隊、その蒼角の輝きから感じる力も噂以上。私、感動しております」
おじさまもおばさまも、よくわかんない事言って喜んでる。まあいつも見てる竜騎士よりは、確かに強そうとは思うけど。
――なんでアタシはこっち側なんだ?アタシもあっちに混ざって戦いたいぞー?
みんなでちょっと遠くまでお出かけして、偉い竜人の大人達と並んで、久しぶりに皇黒竜の軍と話してた。でもアタシが話したかったレオノーラは途中でどっか行っちゃうし、その後のお偉いさんの話は全く面白くない。
出かける前、アタシが駄々こねても無理矢理着せられた、サイズピッタリな服もそろそろ苦しい。お揃いの服着たみんなは「よく似合っている」とか「高貴なる血に相応しい」とか言ってたけど、そんなの全く嬉しくないぞ、ペットのお犬さんとかの気持ちが分かった気がするぞ。
体がムズムズする。みんな今のアタシより背が高いのに背中伸ばしてて、アタシがなんかちっちゃい子供みたい。そろそろぶっ飛ばしてみたくなる。
――ん?なんでアタシ今日は我慢してるんだ?レオノーラいなくなったし、アタシがここにいる必要もうないんじゃないのか?
決めた。アタシ、今からあの訓練場で戦ってくる!
「あーーーもう限界!アタシも混ぜろーーっ!!」
座ってるだけで窮屈だった高級なソファを飛び出し、おじさま達の声も無視して走り出す。なんか走りにくい事に気付いて、履かされてた硬い靴も脱ぎ捨てて裸足になる。
「うわぁ、なんだなんだ!?」
「ノイレお嬢様、静まりください!」
訓練場の竜人達も、おじさま達と言ってる事同じでつまんないぞ!やっぱりアタシ達竜人族は、拳で語り合わないとな!
アタシの特技をレオノーラの軍にも見せてやる。
「ウヒャハハハハハ!みんなでアタシにかかってこい!――ドラゴアンリーシュ!」
まずは技名発声で右腕を竜化。さっきまであったちっちゃな子供の腕はもう見えなくて、代わりに、蒼く大きな竜族の腕がアタシの服の袖をビリビリに破り捨ててくれる。右腕だけ急に体重が重くなって、多少ふらついてから立て直す。
「うおおっ!!」
アタシの全身と同じくらい大きなハンマーを持ったドラゴロイドが、そのでっかいのを振り下ろしてくる。
「いっくぞー!」
「何っ!?その小さな体で――」
ハンマーを右手で受け止める。想定外だったのかすぐに次の行動に移ってくれなかったから、もう終わらせることにした。
「それーっ!」
ハンマーを掴み、振りかぶって投げると、それを大事に掴んでいた竜もつられて飛んで行った。リアクションすら聞こえない。聞こえるとすれば、時間差で後ろからブォォッ!!っと襲ってきた風圧くらいだ。
「次は誰だ~?いっぺんに来てもいいぞー?」
背伸びして、大きな右手を額に当てて、周りを見渡す。
「ッ……!仕方ない、皆でお嬢様を止めるぞ!」
次第にみんなの顔もやる気になってきた。アタシも笑顔で応えて走り出す。
相手の剣を握るようにへし折ってその腕ごと地面に叩きつける。その隙を狙って襲ってくる別の竜。今度は地面に置いた右手を支えに逆立ちして、両足を竜化。そのまま蹴り飛ばして対処した。まだまだ来るので、右手を器用に動かして回し蹴り。もうアタシの服はほぼ全部破れて、とても気持ちいい。
「負ける気がしないぞー!」
みんなの攻めが落ち着いたタイミングで両足を地面に埋め込んで体を固定、全力で右腕を地面に叩きつけた。
「ドラゴイラプション!」
地割れと、同時に発生した竜のエネルギーで大爆発。みんな一気に吹っ飛んだ。精鋭部隊といっても、やっぱりアタシよりは強くもない。
「ナハハ!どうだ〜!アタシは強いだろ〜っ」
両手を腰に当てて笑う。爆発の範囲外にいた竜達が、武者震いだったり放心だったり、色んな反応を見せてくれる。
「暗く燃えよ、カオスドラゴブレス!」
上から聞こえた低い叫び。見上げると飛竜が紫色の炎ブレスを吐いてきた。その姿、レオノーラの軍のメイン戦力として大量投入されるやつだった気がする。
「おじさまが言ってた紫炎、確か名前はジーラだな!飛ぶのは卑怯だぞ!」
指を指して相手を確認。しかしすぐに降ってきた炎がなかなか高火力。
「おぁっとと」
避ける。炎はさらに広がる。バックステップをやめて全力疾走。邪魔な竜がいたら踏み越え飛び越え、訓練場の端まで行って壁を駆け登り、勢いつけてジャンプ!
「そりゃ!」
右ストレートをジーラの腹狙いで伸ばす。しかし。
「紫炎・ヘルブレイズ!」
ジーラの竜鱗が燃え、その熱が放出される。右手は熱を浴び、腕が焦げそうな感覚を味わう。普通の炎ならあまり熱を感じないから、紫炎とかいうのは相当強そうだ。
「でも、負けないぞー!」
空中で右手を引いて、その勢いで攻撃を左足の蹴りに切り替える。ジーラを踏んで飛びあがり、もう一度紫炎の竜を見下ろす。
竜化で暴れる事で、竜化出来ない頭や胸や腹なんかが耐えきれずに痛んでくるが、その感覚を吹っ飛ばすため、竜の部分だけに意識を向ける。角が伸びる感覚。蒼く輝いて、アタシの力をさらに高める。みんなの言ってる高貴な血、ノーブルホーンだ。
もう熱は気にならない。ジーラを全力で殴り飛ばして、力強く着地する。また地割れが起きそうだけど気にしない。
今気になるのは、ジーラが飛んでった方向。思いっきりぶつかっても一部分だけ崩れずにいる硬い岩の壁だ。試されてるんじゃないかと思ってしまう。
残った竜達が攻めて来るのを竜化で生やした尻尾で薙ぎ払い、バランスを崩して倒れたのを誤魔化すように、クラウチングスタートで岩までダッシュ。到着。模様が描かれたそれを全力で殴る。
全力なら簡単に崩れた。壁の奥は外かと思いきや、その先は洞窟みたいな空洞。中には一人の女の子が、虚ろな目で地面に座っている。
「ゼンブ……壊ス……」
アタシと同じくらいの大きさの子。その発する力やオーラ、覚えがある。
「ミューニだ!しばらく会ってないと思ったけど、なんでこんな所にいるんだー!?」
近付いて挨拶する。俯いていたミューニはとてもゆっくり顔を上げる。
「……ン?ノイレ、久シブリ――危ナイヨ?」
ミューニの角が蒼く光る。背中の細い紐のような左翼が伸びて、アタシを狙ってくる。右手で防ぐが、翼が絡まってきて動けなくなる。次に大きな尻尾が左から来るので、左腕も竜化して防御する。危ない。少し遅れてたらアタシの体が粉々になってたかもしれないぞぉ……。
「もぅーまたなのかぁ?でも今のアタシは、そういうの大歓迎だー!」
尻尾が離れた左手でミューニの顔面を狙うと、見えない力で弾かれる。相手の右翼が迫ってくるので、絡まれないように左足で振り払う。その隙に再びやってきた尻尾に対処できず、横腹を叩かれる。同時に右手の拘束が解けたので洞窟の壁まで飛ばされた。
「えぅっ!やったな~?」
けっこう痛いけど、このくらいやってくれる相手を期待してたから、ようやくって感じだ。
「力、暴走シテル。今ハ、近付イチャ駄目」
「ミューニはつれないなぁ、でももうアタシは止まれないぞ!」
立ち上がってもう一度ダッシュ。翼と尻尾、そして見えない障壁と格闘。しばらくするとミューニも立ち上がってくれた。
「ノイレ、怪我サセタクナイ。体ガ勝手ニ動イチャウ。帰ッテ」
「ようやく戦う気になってくれたか~!アタシは嬉しいぞ~っ!」
ゆっくり上がるミューニの両手がアタシに向けられる。障壁として佇んでいた竜の力が、波動になってアタシを押し込んでくる。足を地面に埋め込み、両手のラッシュで迎え撃つ。
「見えないパンチはちょっとずるいなー」
がむしゃらに両手を振り回して迎撃を続けるが、防げなかった波動を喰らい続けて消耗してしまう。
「フーッ」
息を吹きかけられ、それは炎になって洞窟全体を包む。ついに埋め込んだ足を地面から引きはがされた。
「コレデ終シマイ」
ミューニの右足がゆっくり上がり、アタシに触れる事無く超火力のキックを放ってきた。
「にゃっ!!ぐへぇ……」
命中。洞窟出入り口付近まで飛んで倒れる。やっぱりミューニは強いなぁ。参った参ったぞーと両手を軽く上げたけど、ミューニは物足りないのかふらふらと歩いてくる。困ったなー、今の攻撃をもう一回喰らったらきっと死んじゃうぞ――
「今一度奮い立てノイレ!他ならぬ私の命令だ!」
竜化が解除されることで、止めていた人体の痛みの復活で意識が飛びそうになったが、聞こえた声で目覚め、竜化は継続された。
倒れたまま首を動かす。その視線の先にいる声の主は、角を蒼く輝かせ、刀を掲げた。アタシの元気が戻ってくる。力がみなぎってくる。
「レオノーラ!どこ行ってたんだ、アタシと戦え!」
「仕方ない。その者を鎮静化出来たら考えてやろう。だから今は協力せよ」
「言ったなー!約束は破ったらダメなんだぞー!」
跳ね起きてミューニを見る。もう近くに来ていた。
相手の動きが遅い事を確認して後ろに回り込む。そして左腕の竜化をさらに強める。自分の身長と同じくらいの左手を握る、その衝撃だけでミューニがよろける。
「ナハハ!」
アタシ自身の力の勢いが楽しい。思わず笑いがこみ上げる。
「ヤラセナイ、防グ」
「挟撃の連携こそがこの世界最強の戦術だと、私自ら示してみせよう――紫炎・黒蒼烈破斬!」
レオノーラの刀が振り下ろされると、遥か遠くのこの場所まで、紫に燃える斬撃が走ってきた。
最近勝ってばっかりだったから久しぶりだな、この感じ――
「ドラゴ、イラプション――!!」
――逆転って、こんなにも気持ち良いものなんだな!
アタシの全力とレオノーラのコンボを受けたミューニは傷一つ付かなかったけど、力の波動は収まって、「眠クナッタ、オヤスミ」とか言って寝ちゃった。
レオノーラの支援が無くなると、アタシは疲れが戻ってきてばたんきゅー。竜化も解除されて、おじさま達の竜騎士に回収された。
――で、今は正座させられてる。なんでだー?
「とりあえずレオノーラ、今すぐアタシと戦えーって痛い!痛いぞー!」
手刀を頭に喰らった。痛い。
「どうだ、参ったか?」
コイツ賢い。アタシが久々に疲れてるタイミングで勝負してきた。これは流石に勝てないぞ。――今すぐ戦えって言ったのはアタシなんだけど。
「結果的にミューニを救えたから良いものの、貴様は責務を放棄して交流訓練及びその会場を滅茶苦茶にした挙句、災厄の封印まで解くという暴れようだ。僅かながらには反省の意思は欲しいものだな」
あーやっとわかったぞ、レオノーラ怒ってるかもしれない。おじさま達も困った顔してる。服破ったのも後で言われそう。
「で、でも!アタシは戦いたくて今日ここに来た事くらいはみんな知ってたはずだぞ!すぐそばでバトルを見せ続けるなんておじさま達もひどいと思う!」
レオノーラがまた無言でチョップしてきた。痛い。
みーんなため息ついてる。いや、そうだろ、だってそうだろ、そうだよな?
「……確かに、配慮というか、対策が足りなかったのは認めよう」
レオノーラの微笑。続けて口を開くレオノーラ。
「ノイレよ。今日のバトルは楽しかったか?」
アタシも満面の笑顔を返した。
「うん!楽しかったぞ!またやってくれ!」
バシッ
「んなーっ!」