第9惑星(4)ギスギス反省

文字数 3,891文字

「……で? なにか申し開きはあるかしら?」

 宇宙船のとある部屋で俺は、ケイたちと向かい合って座っている。俺はひきつった笑顔を作りながら尋ねる。

「な、なにがかな?」

「! ……ふざけないで」

 ケイがテーブルをバンと叩き、俺のことをギロりと睨みつけてくる。俺は鼻の頭を擦る。

「え、えっと……」

「……コウはなんだったかしら?」

「ラジオパーソナリティーだよ♪」

「アユミは?」

「グ、グラビア撮影です……」

「私は握手会……これは一体どういうことかしらね?」

「ど、どういうことかというと?」

 俺はわざとらしく首を傾げてみせる。

「明らかに三人とも適性外の仕事でしょう?」

「う、うむ……」

「歩く失言量産機のコウにラジオパーソナリティーなんて危険極まりないわ」

「ひ、酷い言われよう⁉」

 コウがケイの方にバッと振り向く。

「だから念の為、収録という形式をとってもらったからさ……」

「あ、そういうことだったんだ……」

「コ、コウ……いや、でも大丈夫だ、お前も自分で聴いて確認しただろう? なんとか配信としては形になったからさ……」

「あれでなんとかなんだ……」

 コウがやや俯く。ケイが口を開く。

「だから最初から私にしておけば、リスクは減らせたはずよ」

「い、言ったとおり、先方がコウのこと指名だったからさ」

「あ、そうなんだ?」

 コウの顔が明るくなる。ケイがため息をつく。

「……それにしてもよ」

「でもな~ケイちゃんだとあんまり面白みがないっていうか……」

「コウ、どういうことかしら?」

「いや、そのままの意味だよ」

「アイドルに面白みなんて大して求められていないから……」

「それにしたって限度ってもんがあるよ」

「限度って……私のトークがそこまで退屈だと言いたいの?」

「まあ、ポジティブな印象はどうしても抱きにくいよね~」

「貴女、言ってくれるじゃないの……」

「思ったことを素直に言う性格なもんで……」

 ケイから睨まれたコウは肩をすくめる。アユミが止める。

「ふ、二人とも、やめましょうよ!」

「そ、そうだ、次回もよろしくというお話を頂いている。コウが悪かったわけではない!」

「む……」

 俺の言葉にケイが腕を組む。

「次回のパーソナリティーについてはまたおいおい考えていけば良いんじゃないかな?」

「え? アタシ固定じゃないの?」

「ギャラクシーフェアリーズと言っているからな、ケイやアユミでも問題はない」

「あ、そうなんだ……」

 再びコウが俯いてしまったので、俺は慌てる。

「も、もちろん、コウの続投が最優先だぞ」

「だよね~♪」

 コウの顔がまたパッと明るくなる。ケイが頭を抑えながらアユミに問う。

「まったく……まあ、いいわ、アユミはなにかないかしら?」

「え? わ、わたしですか?」

「そうよ。この際だから言いたいことを言ってしまいなさい」

「はあ……言いづらいんですが、ファンの方に対して基本塩対応であるケイさんに握手会というのはやはりミスマッチなんじゃないかと……」

「ア、アユミ⁉」

「ははっ、アユミちゃん、いきなりディスるね~」

 アユミの発言にケイは驚き、コウは笑う。アユミは手を左右に振る。

「い、いえ、別にディスっているわけではないんですが、何事もやはり適材適所というか向き不向きがあるというかなんというか……」

「それがディスっているっていうのよ!」

「ケ、ケイさん、落ち着いて下さい……」

「どの口で落ち着けと言っているのよ!」

「はははっ、そんな感じで対応したら、意外と評判良いかもよ~?」

「この私がファンに向かって声を荒げるわけないでしょう!」

 コウに向かって、ケイが声を荒げる。

「今まさに荒げてんじゃん」

「そうやって貴女が茶化すからよ!」

 アユミが言い辛そうに口を開く。

「えっと……もっと楽しそうにしないといけないと思います」

「ええっ⁉」

「ファンの方との大切な交流の場なんですから……」

「うん、これは次回の握手会、アタシかアユミちゃんにチェンジが妥当かな~?」

「わ、私が駄目だったみたいに言わないで!」

 俺はケイを落ち着かせようと口を開く。

「ケ、ケイの握手会もある意味では好評だったぞ」

「ある意味では⁉」

「い、いや、概ねというか、全体的に好評だった!」

「なにか漠然としているわね……」

「と、とにかく、ああいうファンとの交流も良かっただろう?」

「まあ、それはね……」

 ケイが再び腕を組む。コウが俺に尋ねてくる。

「それよりも問題があるんじゃないの?」

「え? 問題?」

「アユミちゃんのグラビア撮影だよ~。もっと適任者がいたでしょ~?」

「て、適任者?」

「例えば……ア・タ・シとか~♡」

 コウが妙なポーズをとる。俺は頭を掻きながら答える。

「い、いや、今回のグラビアはそういう方向性ではなかったからな……」

「な~んだ、つまんないの~」

 コウが唇を尖らせる。

「……ちょっと待って下さい、コウさん」

「ん? どうしたの、アユミちゃん?」

「もしかして、コウさんはわたしがそういったコンセプトの撮影には不向きだとおっしゃりたいのですか?」

「あ~、え~っと……」

「……」

 コウはアユミの体を上から下までじっと見てから答える。

「……ノーコメントで」

「そういう意味じゃないですか!」

「いやいや、こればかりは持って生まれたものがね……」

「なっ! ちょっとばかり自分がスタイル良いからって!」

「まあ、それは事実なんだからしょうがないよね~」

 コウがアユミに向かって、これ見よがしに胸を突き出すポーズをとってみせる。アユミがやや間を空けてから答える。

「……中身が伴ってなければ意味がありません」

「! へえ~つまりアタシは空っぽだと言いたいんだ~?」

「……そのように受け取られたのなら申し訳ありません」

 コウとアユミが静かに睨み合う。珍しい事態にケイが慌てる。

「ちょ、ちょっと、二人とも、やめなさいよ……」

「中身が伴ってないのはむしろケイちゃんの方だよ!」

「ええっ⁉」

「それは確かにそうかもしれませんね」

「ア、アユミまで⁉」

 思わぬ流れ弾を喰らってケイが動揺する。コウが頷く。

「ふむ、同意見か……」

「そのようですね……」

「か、勝手に揉めて、勝手に同意しないで! 私だってグラビアくらいこなせるわ!」

「へ~水着でも?」

「で、出来るわよ……」

「ランジェリーでも?」

「ラ、ランジェリー……で、出来るわよ!」

「どうかな~? ケイちゃん、意外とウブなところあるからな~」

「ば、馬鹿にしないで……!」

 俺が慌てて口を挟む。

「い、いや、そういう方向性のグラビアのオファーは基本断るようにしているから」

「そ、そう……」

 ケイは多少ホッとした顔になる。需要は大いにあるけどな、ということは黙っておく。

「アユミのグラビアは好評だったが、今後は二人にもお願いするかもな」

「ふ~ん」

「そ、そう……」

「……そういうことで、大体分かってもらえたかな?」

「は? 何が?」

「今回はあえて三人に適性外のことに挑戦してもらったんだよ」

「なんのためにそんなことを?」

「そうすることで三人のアイドルとしての可能性をより広げたかったからなんだ!」

 俺はテーブルを両手で思い切りドンと叩く。

「! マ、マネージャーさん、そんな深いお考えが……」

「さすがマネージャー、その発想は無かったよ~」

「なにかごまかされているような気がするけど……まあ、そういうことで良いわ」

 ケイたちが部屋から出ていく。な、なんとかごまかせたかな? しかし、もうちょっと考えて仕事をブッキングしないといけないな。気を付けよう……。ん? 何か悪寒が……。

                  ☆

 ある所を飛ぶ宇宙船があった。その中のある部屋で、一人のスーツ姿の男性と四人の女の子がモニターを眺めている。モニターにはアユミたちが映っている。

「こいつらが『ギャラクシーフェアリーズ』?」

 赤い髪の子が尋ねる。

「ああ、またの名を『ギャラクシーマーダーズ』だ……」

 青い髪の子が頷く。

「伝え聞いていたイメージとは随分と違う……」

 緑色の髪の子が呟く。

「そうだね~もっと怖そうな子たちだと思ったよ~」

 黄色い髪の子が笑顔を浮かべる。男性が口を開く。

「とはいえ、あの『ジェメッレ=アンジェラ』……またの名を『ジェメッレ=ディアボロ』を倒した連中だ。油断は出来んぞ……」

「けっ、あの生意気なギャルどもはオレがぶっ倒してやろうと思ったのによ~」

 赤い髪の子がテーブルに頬杖を突く。

「……貴様には荷が重い相手だ。先に片付けてくれてむしろ感謝すべきだろう……」

 青い髪の子が腕を組んで静かに呟く。赤い髪の子が睨む。

「あん? なんだと~?」

「……やるか?」

「ケ、ケンカはやめようよ~仲良く、仲良くね?」

 黄色い髪の子が仲裁に入る。緑色の髪の子が呟く。

「個性バラバラな我ら……ケンカをするなというのが土台無理な話……」

「そ、そういうこと言わないでさ~」

「だが、むしろそれが良い……」

「え、どっちなの⁉」

 黄色い髪の子は困惑する。男性が頷く。

「そうだ、バラバラな個性がお前らの武器だ……」

「マネージャー……」

「お前らの目標はなんだ?」

「んなもん決まってんだろ! 銀河制覇だ!」

「そう、銀河を制する最初の一歩がこの太陽系制覇だ……その為に倒すべき相手だ」

 男性は部屋を少し明るくし、テーブルの上に写真を置く。青い髪の子が呟く。

「ギャラクシーフェアリーズ……」

「アイドルとしてだけでなく、賞金稼ぎとしても上であることを証明してみせろ!」

 男性はナイフを四本取り出し、写真に突き立てる。黄色い髪の子が小声で呟く。

「しかし、女の子三人、男の子一人って、珍しいメンバー構成だよね……」
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