第12惑星(3)慈悲はない

文字数 4,933文字

「ふふふ……まとまっていると厄介だが、各地点に散らばってくれているのもこちらとしては都合が良いことだ」

「そこまで把握しているのか……どこで知った?」

 アズールの問いを白菜は鼻で笑い、銃口を向ける。

「それを貴様が知る必要はない」

「くっ……」

「消えろ……」

「えい!」

「!」

「な、なんだ⁉」

「白菜集団の残党め! 好きにはさせないぞ!」

「き、貴様は⁉」

「ギャラクシーフェアリーズのマネージャー、タスマ=ドラキンだ!」

 テュロンに跨ったタスマが白菜に体当たりしたため、白菜は銃を落とす。

「マ、マネージャーだと⁉」

「そうだ!」

「妙な生き物に乗っているが、それで何が出来る!」

「妙とか言うな! テュロンだ!」

「キュイ!」

「ええい! なんでもいい!」

 白菜は銃を拾おうとする。

「させない!」

「む!」

「動くな!」

 タスマが銃を撃ち、白菜が銃へ腕を伸ばそうとするのを牽制した。白菜が舌打ちする。

「ちっ……」

「ハッタリだ! そのマネージャーはカタギだ! 相手には撃てねえ!」

「ニンジンの!」

 ニンジンに手足が生えた異星人が飛び出してくる。ニンジンはタスマに銃を向ける。

「同胞が月面では世話になったな!」

「『リバース』!」

 アズールが叫ぶと、放った銃弾が戻り、銃が暴発する。ニンジンが戸惑う。

「なっ⁉ じゅ、銃弾が銃口に戻ってきただと⁉」

「……マネージャーさん、アズールさん、テュロン、援護感謝します」

「ぐはっ……」

 立ち上がったアユミがニンジンに短刀を突き立てて沈黙させる。

                  ☆

「白菜の連中からはこの地点を任すとか言われたが……おいおい、肝心の『ギャラクシーマーダーズ』がいねえじゃねえか! これじゃあ同胞の仇を討てねえぞ!」

 高台に上ったじゃがいもに手足が生えた集団が悔しがる。体を起こしたロハが問う。

「……おいおい、『火炎のロハ』を無視するつもりか?」

「ああん? 知らねえよ、そんなダセえ二つ名なんか」

「ダ、ダセえだと……?」

「ここは片付けて、さっさと他のポイントに移る……ぞお⁉」

 指示を出そうとしたじゃがいもがロハの放った炎で丸焦げになる。ロハが笑う。

「はっ、焼きじゃがいもの出来上がりだぜ」

「リ、リーダー⁉ ど、どうする⁉」

「リーダーである四号はもう……六号、七号、八号、九号、俺の指示に従え!」

「分かったぜ、五号!」

「まずはあの赤髪を始末する!」

「了解! 喰らえ!」

 4体のじゃがいもが上下左右から迫ってくる。ロハは立ち上がるが、反応は遅れる。

「ちっ、反応が鈍いぜ、オレの体……このままだと両手両足を使って、相打ちにはもっていけるかもしれねえが……残りの1体にやられる……!」

「それなら……」

「! お前ら……」

「リーダーの仇だ! 赤髪!」

「『ドロー』! もういっちょ、『ドロー』!」

「⁉」

 そこには2体ずつに分かれたジェメッレ=ディアボロの姿があった。

「ふふっ! 分身するなんて変な感じね、それ!」

 ネラがフライパンでじゃがいも六号、七号を叩き潰す。

「こんな体験レア過ぎでしょ⁉ テンション爆上がりなんだけど!」

 ビアンカがハサミでじゃがいも八号、九号を切り刻む。五号が叫ぶ。

「ど、同胞⁉ ちいっ、撤退だ!」

「そうはさせないよ! ロハちん、アゲアゲで行っちゃって~♪」

「は? どわっ⁉」

 ロハの足元にあった爆弾が爆発し、ロハがその爆風に押され、五号との距離を詰める。

「ば、馬鹿な! あの距離を一瞬で追いつくだと⁉」

「文字通りケツに火が付いているからな! おらあっ!」

「がはっ……」

 ロハの火炎の拳がじゃがいも五号を貫いた。

                  ☆

「白菜集団の誘いに乗って正解だったぜ。同胞の仇を討てる!」

 キュウリに手足が生えた異星人たちが笑う。ヴェルデがコウに問う。

「なにか睨まれているが……?」

「どこかで恨みを買っているみたいだね。人気者ってのは辛いね~」

「余裕だな」

「余裕ぶっていると言った方が正しいかな?」

「はっ、どうやら満足に動けないみてえだな! 始末してやる!」

 キュウリたちが銃口を向け、一斉に発砲する。

「くっ!」

「なっ⁉ 銃弾が爆発した⁉」

「風の刃だ……『疾風のヴェルデ』を舐めるなよ……テュロン!」

「キュイ!」

 テュロンがヴェルデの呼びかけに応じる。ヴェルデがすぐに跨る。

「奴らの懐に飛び込む!」

「はっ! 一人と一匹で何が出来る!」

「『ワイルド』!」

「なっ⁉ お、お前ら!」

 キュウリの集団の何体かが、同士討ちを始める。ヴェルデが笑う。

「一か八かだったが、どうやら我のファンが何体か混ざっていたようだな、少し悪いことをしたかな……許してくれとは言わん。来世はまっとうに推してくれ……」

「い、意味が分からねえ! 催眠術か何かか⁉ あの緑髪から片付けろ!」

 キュウリたちがヴェルデとテュロンを狙う。コウが舌打ちする。

「早弁ちゃんはともかく、テュロンがマズい! しかし、参ったな、体が動かない……」

「……」

 そこにテュロンに跨ったタスマが現れる。コウが驚く。

「え⁉ マネージャー君⁉ ……ああ、分身体か! 良いところに! 背中貸して!」

「!」

 タスマの分身体がコウを引き上げ、テュロンに乗せる。

「よし! うおおお!」

「⁉ な、なんだ⁉」

「突っ込めー!」

「ひ、火の玉⁉」

 炎を纏ったコウがキュウリの集団を、ピンを倒すボウリングの球のように薙ぎ倒す。

「スットラ~イク♪」

 コウがガッツポーズを取る。

                  ☆

「へへっ、同胞の仇を討てる絶好の機会が巡ってきたぜ、白菜集団には感謝しねえとな……」

 ナスビの集団が倒れ込むマリージャとケイを取り囲む。マリージャは笑いながら尋ねる。

「えっと、アタシは帰ってもいいかな?」

「良いぜ……って言うわけねえだろう。よく知らんが、どうせ目障りな賞金稼ぎだろう?」

「そう、『電撃のマリージャ』とはこの子のことよ。他星系ではそれなりに知られているわ」

「ちょっと! 余計なチクりはやめてよ!」

 ケイに対し、マリージャが抗議する。ケイが笑う。

「ハグまでした仲じゃないの」

「ハグしかしてないのよ!」

「向こうで続きをしましょう……」

「そんなのごめんだわ!」

「なにをごちゃごちゃ言っていやがる!」

「『スキップ』!」

「! な、なんだ⁉ なんでてめえら無傷なんだ⁉」

「ええい!」

「ぐはっ⁉」

 マリージャが力を振り絞って走り、落ちていた鞭を拾って、思い切り振り回す。鞭から電気が流れ、それを喰らったほとんどのナスビが倒れ、3体のみになる。マリージャが呟く。

「……まあ、この状況なら一斉射撃一択だよね~予測しやすくて助かったわ」

「黄色い髪の女! な、なにをした⁉」

「ちょっとターン飛ばしを……」

「訳の分からんことを! 残った俺らで始末するぞ! ケイ=ハイジャも同時にだ!」

「おっと、そうなると予測が難しくなるな……」

 マリージャが顎に手を当てて、首を傾げる。ケイが苦い顔で振り向く。

「勘弁してよ、満足に動けないのだから……」

「自力でなんとかしてくれる?」

「かかれ! なに⁉」

「……!」

 テュロンに跨ったタスマが突っ込んできて、ナスビたちに体当たりをかましていく。虚を突かれたナスビたちは体勢を崩す。ケイが驚く。

「マネージャー⁉ そうか、分身体ね!」

「よく分からないけどチャンスだよ!」

 マリージャが鞭を器用に扱い、落ちていたボーガンを拾ってケイに渡す。

「言われなくても!」

 ケイがボーガンを発射し、3体のナスビの眉間を正確に射抜いてみせる。

                  ☆

「これで終わりだ!」

「ぐっ! 良い気になるなよ! おい、お前ら出番だ!」

「へい!」

「へへっ……」

「ようやくか、待ちくたびれたぜ」

「む⁉」

 やや大きめの白菜が3体、姿を現す。

「いけ! 用心棒の三白菜!」

「くそ!」

「邪魔だ!」

「どわっ!」

「キュイ!」

 三白菜の1体が棍棒を振るい、突っ込んだタスマとテュロンを吹き飛ばす。

「男とその狼だかリスだかみたいな奴は後回しで良い。女どもを始末しろ」

「女の方が先ですかい?」

「ああ、大きな借りがあるからな……それが片付いたら、他の地点に向かうぞ。報告がないところを見ると、どうやら手こずっているようだからな」

「分かりやした……行くぜ!」

「うおっと!」

「どわっ!」

 テュロンに跨ったタスマとロハ、それにネラとビアンカが棍棒を持った白菜に強烈な体当たりを決める。アユミが驚く。

「ネラさん、ビアンカさん! これはどういうことですか?」

「いや、こちらが聞きたいよ」

「じゃがいもたちを片付けたら、急にタスマっちが駆け付けてきてさ~アタシらをここまで運んでくれたんだよね~」

「分身体、仕事をしてくれたな!」

 タスマが声を上げる。

「くっ、うざったい!」

「!」

 白菜が棍棒を振るうと、それを喰らってタスマとテュロンが消失する。

「ああ!」

「よ、よくもタスマっちたちを……仇は絶対取るし!」

「い、いや、あれは分身体なんだけどな……」

 怒りに震えるビアンカをタスマは落ち着かせようとする。

「えい!」

 ネラが何かを白菜に向かって投げつける。ビアンカもそれに続く。

「それ! ロハちん! 得意の一発芸で!」

「芸じゃねえよ! おらあっ! ⁉」

 ロハの火炎放射によって大爆発が起こり、棍棒を持った白菜は四散する。

「かぎや~」

「たまや~」

「ば、爆弾かよ! 危ねえもんに着火させんな!」

 呑気に掛け声を上げるネラたちにロハは慌てる。

「棍棒の! くそが!」

 怒り狂った白菜が石棒を振るい、アユミに迫る。

「はっ⁉」

「まずはてめえだ!」

「……!」

 テュロンに跨ったタスマがそこに突っ込み、石棒を喰らって消失する。

「マ、マネージャーさん! ぶ、分身体……?」

「色々と取り込み中みたいだね~」

 テュロンから飛び降りたコウが着地する。

「コウさん!」

「アユミちゃん、ここはアタシに任せて! 早弁ちゃん!」

「疾風だ! それ!」

 ヴェルデが巻き起こした強風に乗って、コウが突っ込む。

「良いね! 追い風一杯!」

「ぐはあっ⁉」

 槍を持ったコウが体ごと突っ込み、石棒を持った白菜の体を貫く。

「勢い良すぎたかな?」

 コウが首を傾げる。

「石棒の! おのれ!」

 怒った白菜が金棒を振るい、コウに迫る。

「おっと、意外と素早い?」

「頭をカチ割ってやる!」

「……‼」

 そこに再び、テュロンに跨ったタスマが突っ込み、金棒を喰らって消失する。

「間に合ったようね……」

 テュロンから飛び降りたケイが呟く。

「ケイちゃん!」

「コウ、ここは任せて頂戴!」

「やれるもんならやってみろ! おらあ!」

「それ!」

 ケイが銃を床に放つと、二本の大木が生え、白菜の両腕を貫き、動きを固定する。

「むう⁉」

「痺れるやつ……よろしくね」

「はいはい!」

「ぐあああっ!」

 マリージャによって二本の木に雷が落ち、木がそれぞれ別方向に倒れる。それに引っ張られるように、白菜が引き千切られる。

「まあ、頭を貫いても良かったのだけど……」

 ケイが淡々と銃をしまう。残ったリーダー格の白菜が困惑する。

「くっ、な、なんだ、貴様ら! その血も涙もないようなやり方は⁉」

「え?」

「ん?」

 コウとケイが顔を見合わせる。コウが白菜の方に向き直り、口を開く。

「だって、アンタらテロリストの残党でしょう?」

「生憎、そういう輩の為に流す血も涙も持ち合わせてはいないわ……」

「イ、イカレてやがる!」

「だってさ♪」

「それを褒め言葉と受け取るのは貴女くらいじゃない?」

 喜ぶコウにケイが呆れる。

「くっ、ここは逃げるぞ!」

「テュロン!」

「キュイ! キュイ!」

「うおっ!」

 テュロンがタスマを振り落とし、アユミに近寄る。アユミは颯爽と跨る。

「逃がさない!」

「ぐぬっ!」

 アユミはテュロンをジャンプさせ、白菜の上に飛び乗らせる。

「テュロン、ありがとう、避けて良いわ」

「キュ~イ」

 アユミがうつ伏せになった白菜の顎を両手で掴んで持ち上げる。白菜が苦しそうに叫ぶ。

「ま、待て! 俺も賞金首だ! 生きて引き渡した方が良いだろう⁉」

「生死を問わずということなので……!」

 アユミは容赦なくキャメルクラッチを極めるのであった。
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