第6惑星(1)エビ(のようなものを)食べに行こう

文字数 2,874文字

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「ふむ……」

「これで買い物は全てですか、マネージャーさん?」

「ああ、悪いな。付き合ってもらって」

「別に構いませんよ」

 俺の言葉にアユミは笑って首を振る。今、俺たちは木星の衛星群の近くに位置する宇宙ステーションに寄港している。そこで俺たちは買い出しに出かけたのだ。俺は端末を確認する。

「うん、買い漏らしなどはないな……」

「食料品ばっかり買いましたけど、そんなに食料不足していましたっけ?」

「いや、そういうわけじゃないんだ」

「ではどういうことで? 珍しい食材もありますね……」

「せっかく木星の近くまで来たんだ、木星料理でもご馳走しようかなって思ってさ」

「マネージャーさん、木星料理が作れるんですか⁉」

「航行中にレシピなどは確認した。何品かは作れると思うよ」

「す、凄いです!」

「い、いや、本当に簡単な料理だけどな……」

 キラキラした目で俺を見てくるアユミに対し、俺は照れ臭くなり、鼻の頭をこする。

「それでも凄いですよ!」

「ありがとう」

「でもなんでまた……?」

「……先のライブを取られた件は、かなり三人ともショックだったみたいだからな」

「ああ、はい……」

「まあ、良い気分転換になれば良いのかなって思ってさ」

「なるほど……」

「……余計な気遣いかな?」

「いえ! とても良いことだと思います!」

「そう言ってもらって良かったよ」

「宇宙船で料理をされるんですか?」

「いや、ここには広いバーベキュースペースがあるんだ」

「バーベキュースペース?」

「もうちょっと行ったところかな? ああ、あった、あそこだよ」

 俺は広い芝生の上に調理施設がいくつか設置されて、調理道具も一通り揃っているスペースを指差す。アユミが頷く。

「こういうところがあったんですね」

「一応リサーチしておいたからね」

「流石です!」

「ま、まあ、マネージャーだからね……」

 アユミからの素直な称賛に俺はまたも照れ臭くなり、後頭部を掻く。

「なにかお手伝い出来ることはありませんか?」

「いや、ここは大丈夫。ケイたちを呼んできてくれないか」

「分かりました!」

 アユミがそそくさと走り出す。手伝ってもらった方が早く終わるのだが、それでは意味がない。『俺の作った料理で三人をもてなす』、これが大事なのだ。俺はさっそく準備にとりかかる。バーベキューグリルをセットし、炭も用意。バーベキューグリルのふたをあけ、炭を入れる。その上に網をしく。炭の量でエリア分けをし、「強火」「弱火」「保温」とエリアを三つ作る。こうしておけば、焼いている途中で食材を適温の場所に移動させられるので、焼きすぎや真っ黒焦げになることを防止できる。また、炭に黒い部分が残っている状態で焼き始めるのもNGだ。

 俺はまず、木星産の彩り豊かな野菜を網の上に置いて焼き始める。この際に野菜を半分に切り、その断面にオリーブオイルを塗ることによって、野菜の水分が抜けず、瑞々しさを保ったまま、美味しく焼きあがるという。う~ん、良い香りだ。赤いトマトのような野菜は串刺しにして、網の弱火エリアで焼く。皮がめくれてきたあたりが食べごろだという。同じく、木星産のきのこ類だが、地面に付いていた石づきの部分を切り、いわゆるかさの部分から弱火エリアで焼き、焼き色がついたら裏返す。その後はお好みで調味料をたらす。

 続いては、木星では、とくに衛星群では珍しいという海鮮だ。俺はまずエビによく似た食材の調理にとりかかる。エビに似ている時点でちょっと不安だが、正規のお店で購入したのだからきっと大丈夫だろう。エビのようなものは熱で丸まったりしないように串刺しにする。尻尾の腹側から背中を通して、頭のあたりまでをぶっ刺す。そこに塩をふんだんにまぶし、強火エリアで焼く。貝殻は丸みのある方を下にして持つ。貝殻の割れ目にナイフを差しこみ、貝柱と貝を貝殻から完全に切り離した状態にする。切り離したとはいえ、そのまま殻に乗せて、強火エリアで焼く。沸々としてきたら、調味料をかけ、貝の身を裏返し、もう一度焼く。沸々としてきたらもう一度裏返す。

 続いてはお待ちかねの肉だ。まずは牛肉、アユミが好きだな。常温に戻しておいた牛肉を焼く直前に、両面に塩とコショウをかける。この状態のまま強火エリアで焼き、肉の表面がふっくらとし始めてきたら、表面に肉汁が浮かび上がってくる前に、裏返す。裏返すのはこの一回だけだ。裏側もある程度焼いたら、網から下ろし、アルミホイルでしっかり包み込む。5分ほど置いたら、適当な大きさにカットして出来上がりだ。

 次は豚肉、ケイが好きだな。まず下準備として、数か所切りこみを入れた豚肉を、調味料やタレと混ぜた、袋に入れて数十分置いておく。時間が経ったら、袋から取り出し。調味料などが染み込んだ豚肉を網の強火エリアで焼く。肉の全面にこんがりと焼き色がついたら、弱火エリアに移し、転がしながらじっくりと焼いて完成だ。

 最後は鶏肉、コウが好きだな。鶏肉は余分な皮を切り落とし、厚みのある部分に包丁で切りこみを入れて開き、出来るだけ均一の大きさになるようにする。これで焼きムラを防げる。

これに塩とコショウをふり、強火エリアで焼く。こんがりと焼き色がついたら裏返し、裏側も同様に焼く。その後は弱火エリアに移してじっくりと焼いて完成。

「おっ! 美味そうじゃ~ん♪」

 ちょうど料理が一段落したところ、コウたちがやってきた。アユミが声を上げる。

「マネージャーさん、凄いですね! これが木星料理ですか!」

「ま、まあ、これは地球料理の『バーベキュー』の木星版って感じかな」

「それでも凄いですよ! ねえ、ケイさん?」

「まあまあね、なかなかやるじゃない……」

「う~ん、香りがそそるな~もう食べていい?」

 コウが早く食べたそうにしている。

「どうぞ、食べてくれ」

「いっただきまーす♪」

 三人が食事を始める。俺は恐る恐る感想を問う。

「……コウ、どうだい?」

「うん、この鶏肉、ほどよい弾力でちょうどいいよ~♪」

「それは良かった」

「……この豚肉も美味しいわね。このタレ……蜂蜜が入っているのかしら?」

「おっ、ケイ、そこに気が付くのは流石だな」

「牛肉、美味しいです! どんどん食べられちゃいます!」

「お、おう……アユミ、出来れば俺らの分も少しは残しておいてくれよ……」

「……野菜の焼き加減も絶妙ね。超イケてる~」

「? あ。ああ、ありがとう」

「海鮮は久々だけど、これはまさにおけまる水産って感じ~」

「ああ、そうかい……って、君たちは⁉」

 俺たちの食事に混ざっていたジェメッレ=ディアボロの二人に俺たちは驚く。

「い、いつのまに……」

「鶏肉に夢中で気がつかなかった……」

「……どう思うよ、ビアンカ?」

「うん、ネラの提案、悪くない系だよ」

「何を二人で言い合っているのよ……?」

 ケイが警戒心をむき出しにしながら問う。豚肉を皿に取ったままであるが。

「よし、決めた、このマネージャーさん、ウチらが引き抜くから」

「そういうことで一つよろしく~」

「ええっ⁉」

 突然の申し出に俺は驚愕する。
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