第3話 心の変化?

文字数 1,785文字

 ひとを、ホントウに愛するということ。昨日、一昨日と、書いては消し、消しては書いて、を繰り返す。ひとつ、言うたびに、「それは1つの、一方的な見方でしかない」と、どこからか声がする。
 あの中学時代に、好きになったひとを、私は「ホントウに愛した」ということを書きたかった。そして、その細部、なぜホントウだったのかを、書きたかった。
 当時の気持ちを思い出し、そこに身を任せれば、ほんとうに愛したということを、書けると思った。だが、それが、私にとっての、唯一無二の相手ではなかった。彼女と、一生涯、ずっと一緒であったなら、「これがホントウの愛です」とでも言えそうだけれど、その後私はいろんな人とつきあったし、その「ホントウに愛した相手」とは別れてしまっている。

 この「ホントウに愛するということ」、たいそうなことは、何も書けそうにない。いや、自分に対して言いたい、ムリだ。本当に人を愛するとは、なんて、書けない。もう、やぶれかぶれで、書く。きっと、読みにくい、つまらない、読むに値しない文になると思う。だから、もし読者がいらっしゃったら、ムリして読まないで下さい。

 あれが愛だ、これが愛だ、と、気持ちばかり先走って、いちいち結論めいたことを言い出す自分が、書いてるそばから出て来て、仕方ない。そんな、もう出ているような結論に向かって書くのは、つまらない。この、何か書くたびに、横ヤリを入れてくる自分のことも、書こうと思う。そのうるさい自分は、() の中に入れて。結局、自分の実体験をもとに、書くしかないんだ。

「あの初恋が、ほんとうにひとを愛した、初めての体験だった。」これが、まず、云いたかったこと。そして、その「ほんとうに愛している」(言葉にすれば)と、自分の内に、痛いほど実感できたのは、ひとりの時間だったということ。彼女に対する、この気持ちを、どう伝えたらいいのか。彼女のことばかり考えて、胸をいっぱいにしていた、あの時間、自分は「彼女をほんとうに彼女を愛していた」と言える。
(ここで、もし「死にたい」人が、女ではなく、男だったら?)と声がする。(「愛している」なんて言えなかったろう? 異性だったから、言えたのだろう?) と。…男に、愛してる、と言ったら、冗談みたいになってしまう。同性に対しては、愛してるなんて言えない。愛してると言えたのは、やはり、どうしても相手が異性だったからだ。

 彼女とは、確かに恋人になった。でも、恋人になってからよりも、ひとりで彼女のことを思い、やるせなくヒトリで過ごしていた時の方が、ほんとうに彼女を愛していると感じられたということ。
(そう、愛は、ひとりで、するものだよ。よく考えてみなよ、「愛」を「する」んだよ。しかも、その、「する」の目的語、「愛」を、お前は、何も分かってやいないじゃないか。一体、何を、するのだ?)

 … 恋人どうしになってからは、自分が保守的になったように思う。「この状態を維持しよう」そんな態勢ができたように思う。気まずくなるのを避け、なるべく笑って、でも笑うだけじゃ薄っぺらいから、真剣に何か話そうとしたり。つまり何か「型通り」、「恋人どうしはこうして時間を過ごすもの」という型を意識して、そこにエネルギーを費やした気がする。
 もちろん、ハッピーだった。毎日、彼女が家に来るのが楽しみだった。でも、「彼女と何を話そうか」「どうやって笑わそうか」といったような、言えば、「作為的」な方向へ走ったような気がする。
(表現すること、表に現れるものは、多かれ少なかれ、みんな作為の要素があるだろう?)

 恋人どうしになって、ほんとうに彼女を愛しているはずの自分の気持ちが、言えば、自分から離れて、彼女と私の「あいだ」に存在しているようだった。それを「見て」、彼女へ具体的に、何か働きかけることを現実にする、という状態だった。
(ここで、不意に、「死」を想う。つまり、死…、家族でも友達でも、相手が生きているうちは、「自分のもの」になり得ない。相手は相手として確固と存在しているから、物を言う。態度を示す。反論とか否定をする。その現実にいる相手と、自分の中のイメージとしてある相手との食い違いが、ここに生じる。しかし、死んでしまった相手は、自分の中にしか存在しなくなる、これはどこか、「ほんとうに愛する」気持ちと似ていないか?…)
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