第8話 愛されるということ

文字数 583文字

 自分が愛した、と、自覚することもあったけれど、「愛された」と感じたことの方が、強く実感として残っている。家族、親からの愛は、自分は不登校児だったので、その罪を許された、そこに、言い尽くすことのできない「愛」を感じた。また予備校で出会ったK先生からは、「自分が理解されている」という実感を持った。理解された実感、自分がどんな人間であろうと、理解されたという実感。

 理解された気になると、自分は無力になった気がした。どんな核兵器より、この力は強いと感じた。いや、無力というよりも、自分がゼロになる感じ。素直に、なれる感じ。何も、つくろうことはない。まっさらな綿になった感じで、自分をそのままさらけ出せる、そんな関係。

 今一緒に暮らしているひとからも、そんな感じを受ける。そして、自分は相手をほんとうに理解しているかと自問すれば、どうも心許ない。

 いろんなひとから、「愛された」と思っている。しかし、自分は? その、受けた愛に対して、お返しをしていない意識が強い。両親はもとより、K先生、今一緒にいるひとに対し、自分はその返礼をしていない。受けたと同等、それ以上のお返しをしたいと思っても、どうにも、できていない。立派な人間になったわけでもなく、自律もできていない、情けない人間だと思う。
 いい人たちと、いっぱい出会えたのに、どうして自分はいい人間になれないのかと思う。
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