第14話 ホントウに愛するということ。

文字数 862文字

 ホントウに愛するということ。
 この言葉の前に、「ムリだ」と、必ず思う。ムリだ。
 愛する、ということが、どういうことなのかも分からず、また、さらに「ホントウに」の冠詞を被せ、いよいよ訳が分からない。これは、何も言っていない言葉だ。何も、説明のできない言葉だ。

 と書けば、いやそんなことはないだろう、と反駁する自己がいる。むくむく、そいつが顔を出す。こいつは、何なのだろう。
「お前は、いっぱい、愛情を受けただろう。それを、ホントウだと思った、今も、思っているだろう。だから、『ない』と言えないのだ。」

 問題は、お前自身が、ホントウに愛したことがあるか、ということだ。中学時代のそれがホントウだとしても、それからはどうなのだ? のめのめと、過去に引きずられて、あれがホントウの愛、「自分が」ホントウに愛した「愛」だったと、夢見てるだけで、それからは、一体どうだったのだ?

 相手と、合うかどうかに基準を置き、その時間を「楽しむ」快楽主義者のようになったのではないか。

 愛について、語れる技量もないくせに、しかし、でも、だからこそ、書きたいと思った。
 たとえば、家の中にいる小さなサボテンを、陽当たりの良い窓辺に毎日置く。猫がいれば、とことん可愛がる。家人に美味しい物を食べてもらおうと料理をする。これを、愛情とか、やさしさとか、呼ばれる時がある。「責任」という言葉さえ、出される時がある。
 そんな言葉、ホントウに分からない。

 こんなところから、この小文、この恥ずかしい連載、最後に何か言い残すとすれば、…これが愛です、という形、表現、それをぼくにはできない、ぼくには言葉にすることができないということ。
 感じること、それだけで、他に、何もないということ。あれやこれやと表現したい動きは、自己の内にたくさんあるような気がするけれど、どれも、まったく定かでないこと。これだ、と言い切れる、ものではないこと…

 それでも、ホントウに、愛は、あるということ。それは確実と思えること、ただそれを、言い表すことが自分にはできなかったということ。
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