Film№5 過去への扉とシー・サイド
文字数 1,244文字
俺達は事務所を出てしばらくした所にある駅に向かっていた。
その道のりは海に面していて、電車も車も、その脇を通り過ぎていく。
「って言うかさぁ。『あやまちくん』の言ってた、ぱすと…何とか?」
「第三者経験掌握(パスト・グラスプ)な、ってかその『あやまちくん』って言い方やめろよな。失礼だろ?」
「いーじゃん、別に。で、そのパストなんとかって、カイトの能力にもなんか関係あるのかなぁ?」
どうやら彼女の舌では「パストグラスプ」という言葉はエキスパートフルコンよりムズいらしい。
「わからん。でも能力が発現した日と美來さんがいなくなった日が近いってことは、彼の能力については美來さんの方が深く関わっていると思うが。」
「ふ〜ん…なんか難しそう。」
自分で振った話題に一瞬で興味が失せてしまった彼女は、車道と海の間にあるブロックによじ登って海を眺めながら歩いていく。
すると、ケータイにメールが届いた。
他人の通知音に敏感な彼女は直ぐに俺の方を見てムッとする。
開くと、それはへスティアさんからで、過(あやまち)くんの家の住所の情報だった。
しかも御丁寧に、地図アプリのピンまでさしたリンクも送られてきた。
「へスティアさんからだよ。なんでそんな拗ねてんだよ…」
「ふんっ。しーらないっ!」
っとそっぽを向く。
あざとい、と思っていると、ようやく駅が見えてきた。
構内に入り、奥の改札の手前で切符を買う。
「ねー。こっちの方が安くない?」
と、彼女は子供料金のボタンを指さす。
「何言ってんだ、子供料金はダメに決まってるだろう。まぁ、少なくとも俺は無理だけど、お前ならワンチャンあるかもな。」
「はぁ〜?私が子供だって言ーたいのかぁっ!」
「ああ。」
「…くっ!おのれ、よくもそのような非道下劣極まりないことを簡単に言ってくれるなっ!ん〜、覚悟するんだな!」
と、彼女が戦闘態勢に入ったところで俺は改札を抜けていった。
電車に乗って二、三駅過ぎた辺りでその駅はあった。
駅をおり、目の前の道をしばらく道なりに沿って歩いていると、彼らの家に着いた。
「どうやら、ここみたいだな。」
そこは見るからに普通の立地でザ・4人暮らしって感じの一軒家だった。
とりあえず、ピンポンを鳴らす。
…誰も出ない。
まあ、いらない動作だったかもしれないが、よそ様の家の前だし一応の礼儀だ。
「まぁ、ここでいっか。」
「えっ。中に入らないの?」
「馬鹿か、お前は。普通に不審者だと思われたらどーすんだよ。」
「あー。それもそうね。でも私は別に気にしないよ?」
「そりゃお前には関係ないだろうけどさぁ…」
そんなことを言っていても仕方ない。
「それじゃあ、行ってくる。」
俺は玄関のドアに手をかけ、ゆっくりと目を閉じた。
意識は六日前に向けて、俺は大きく深呼吸をした。
「私はここで待ってるから。」
と、彼女の声がしたが、俺は黙ってそのドアを開けた。