Film№8 彼女の部屋とパンドラ・ボックス
文字数 1,914文字
家に入ると、中は意外に広く、廊下が奥まで続いているのが見えた。
俺がもう少し子供だったらはしゃぎ始めるところだが。
俺は冷静に「お邪魔します。」と言って靴を脱ぎ揃えた。
だが、ここにまだ子供の奴がいた。
「わー!すっごい広ーい!」
と、フォルティーナは靴を脱ぐなり廊下の奥へと飛んで行った。
「靴、脱いでくれるだけマシか…」
仕方なく俺は彼女の靴を揃えて、美來さんの案内に従って2階へ上がった。
「フォルティーナは少々頭のネジが飛んでしまっているんです。家の中で放しちゃっていいんですか?」
「いえいえー、大丈夫ですよ!ウチは好きに使ってください!」
「すいません、本当に。」
そんなことを言っているうちに、廊下の奥にある彼女の部屋に着いた。
「どうぞ!入って入って。」
女の子の、それも同じ高校生の部屋に入るのは初めてで少しどころではない抵抗があった。(へスティアさんのマンションにあるゲストルーム、を使っているフォルティーナの部屋には朝、何回も起こしに行くことがあるがそれはノーカン扱いにする。)
彼女の部屋の中はとても広く綺麗で、全体的に白やピンクを基調とした家具ばかりで、ザ・女の子って感じの部屋だった。
「ここに座って〜。」
「あ、はい。」
部屋の中央にあるテーブルを前に俺達は向かい合って座った。
俺達は見つめ合う。
静寂が一瞬のうちに広がる。
緊張が高まる。
だが、
「それでぇ!」
と、彼女がいきなりテーブルを叩くものだから俺は「ひぇっ!」と声を出してしまった。
が、気にせず彼女はそのまま本題へ移ろうとする。
「何の用だっけ?」
「あー。えーと、先程から話していて色々気になるところがあるのですが…。」
「うん!なんでも聞いて!」
俺はその言葉に甘んじて色々聞いていこうと思ったが、いきなり話の真髄に入るのは些か失礼だと思い、軽めの質問から攻めていくことにした。
「そういえば、弟さんは今どこに?」
「ん?あー。過は今学校に行ったよ。」
只今時刻は朝の7時半。
「早いんですね。」
「そうね、今日は日直の仕事があるみたい。」
「そうなんですか…御両親は?」
「今、二人とも昨日からの出張で明日まで帰ってこないよ。」
少しドキッとした。
そして、また静寂が一瞬のうちに広がる。
それでは今この家には、二人きりなのかと思うと余計に緊張してソワソワし始めた。(フォルティーナはノーカン扱い。)
「あ!そうだ!」
彼女はまたいきなりテーブルを叩く。
俺はまた「ひぇっ!」と思わず声を上げた。
「何か飲み物取ってくるね!」
「あ、はい。ありがとうございます。」
そう言って彼女は1階に駆け下りて行った。
「あっぶねぇー。」
俺の緊張はもう限界に達していた。
彼女がいなくなって一息つくと、立ち上がった俺は部屋を見渡す。
よく見ると、棚の上には沢山の賞状やトロフィーが並べ揃えてあった。
そして、後ろを振り返り、ベットの上に可愛らしいクマの人形が数匹並べられていることに気づいた。
「結構子供っぽくて、可愛らしいな。」
そんなことをボソッと漏らすと、後ろからかけられた声に心臓が止まる。
「何が可愛らしいの?」
思わず「ひぇっ!」と声を出して振り向くと、部屋の扉から覗いていたのはフォルティーナだった。
「なんだよ……お前か。ビビらせんなよ。」
「なんだよって何よ!そんなことより!何が可愛らしいの?ねぇっ!なぁ〜にぃ〜がぁ〜可愛らしいって?」
と、俺の襟元に掴みかかったと思ったら、そのまま左右に振られる。
「クマだよ!ベットの上にあるクマ!」
と、言って彼女を宥める。
何がそんなに気に食わないのか。
彼女の手を振りほどくと、その手には何やら箱らしきものを掴んでいたことに気づく。
「何これ。お前、どこから持ってきたんだよ!早く戻してこい!」
「えぇ〜。いーじゃん、別に。なんか面白そうだからカイトにも見せてあげたかったの!」
見ると、その箱は綺麗な正方形で、繊細な木のタイルが互いに絡み合ってひとつの美しい幾何学模様が出来ていた。
見るからに高そうな手のひらサイズの箱を彼女から没収すると、ジュースを運んできた美來さんが戻ってきた。
「あ、それ!」
「あー。ごめんなさい!こいつが勝手に持ってきちゃって。」
慌ててフォルティーナを抑えて箱を彼女に返そうとする。
「それだよ!ちょうど見せたかったんだぁ〜。」
「……?!」
彼女は箱を取って言った。
「『パンドラの箱』。今回の事の発端だよ。」