Film№3 陰キャくんとパスト・グラスプ
文字数 1,468文字
今回の依頼主の名前は、日瑠星(ひるせ) 過(すぐる)。
近くの私立中学に通っている1年生で、今までの会話から、積極性に欠ける性格で、どうやら友達は多い方ではないらしい。
そのザ・陰キャ君が今回依頼してきた内容は、たった一人の姉を探して欲しいということだった。
それならば警察に頼るのが手っ取り早い話なのだろうが、彼にはそれが出来ない。
何故ならば、周りにいる人間全てに「彼には姉がいた。」という記憶がないのである。
小学校時代の友人や、両親でさえ姉がいた事実を信じていないというのだ。
俺達は知っている。
それが「時の波」の影響だということを。
通称「時の波」と呼ばれるそれは、特定の人に関する記憶だけが突如として周りの人から消えてしまう現象であった。
今まで流れてきた時間が切り取られ、その人に関する記憶以外が存在するセカイに変えられてしまった、というのが現時点での解釈である。
それはまるで映画のフィルムがカットされ、別のシーンが貼り付けられたかのようだ。
そのセカイのことを我々は「エクストラ・フィルム」と呼んでいる。
俺たち刻ノ神(クロノスタ)は今まで幾度なくこのような案件を扱ってきてた、というか、これが専門なのだろう。
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「だからね、私達は君のことを信じられるんだよ。」
と、面倒な刻ノ神(クロノスタ)の事情は全部へスティアさんが説明してくれた。
「信じてくれるんですか?!良かったぁ。」
安堵して気が抜けた彼は後ろにあった椅子にようやく腰掛けた。
「安心するのはまだ早い。お姉さんを見つけるんだろう?まずは外見的特徴から教えてくれ。」
そう言って俺は彼の前に座る。
すると彼は俺を一目見るなり首を傾げた。
彼はものすごく不思議そうな顔で俺を見つめてくる。
「ん?どうかしたか?」
俺は別に何もおかしなことは言っていないのだが、顔に珍しいものでもついているのか?
「いやぁ、え、でもなぁ、そんなはずはないんだけどなぁ…おかしいなぁ…」
何をブツブツほざいているのか。
陰キャでコミュ障の、しかも子供は俺が2番目に嫌いなタイプの種族だ。(1番目はいつも隣にいる猿なんだが…)
だから本来ならば関わりたくない依頼人だった。
「なんだ、文句があるならはっきりいえよ。」
と、俺は発したあとで少し強すぎたと後悔した。
「ちょっと、カイトくん。」
へスティアさんが俺の性をわかった上で優しく注意してくる。
すると、彼は慌てて
「あっ、ご、ごめんなさい。その、なんて言うか、えーと、ちょっと言い難いんですけど、単刀直入にお伺いします。」
「ああ。」
『なんであなたには過去がないのですか?』
「…はぁ?」
過去がない?
一瞬こいつは何を言っているのだろうかと思った。
だが、その真意は後の彼に聞いた話で明らかになった。
彼には俺と同じようにある能力を持っている。
それは第三者経験掌握(パスト・グラスプ)という能力で、相手の瞳の奥を覗くことによって、他人が生きてきた時間を自らの記憶として把握することが出来るというものだった。
だからさっき、彼が俺の瞳を見ていきなり驚いたのは、俺は過去に何度も時間を巻き戻しているため、俺自体が生きてきた時間は過去から戻ってきた3週間前からということになっていて、彼にはその先が見えなかったのだと言った。
この能力が発現したのは最近で、どうやら姉の失踪と何か関係があるようだった。