Film№14 不気味な意図とアン・ハッピーエンド

文字数 2,545文字



「どうも、引っかかるんだよな…」

「まぁだ、何かあるの?ハッピーエンドでいいじゃん!」

美來さんは確かに、今まで怯えていた。
自分を追っている『誰か』に。
そして、パンドラの箱に。

「パンドラの箱…略奪の神…か。過はあの帰り際、なんて言っていたんだ?箱の…人?か?」



……!?

俺の中で何かがつながり始める。
不気味な糸で、くくわれはじめる。

「彼女は与える仕事が、第三者恩恵供与(クロース・ド・グラント)を使ったことが世界のルールを破ったと言っていたよな?それが原因であるものに目を付けられたとも言っていた。そんな彼女が何故、この三日間の間に既に仕事に戻っていたのか…何かがおかしい。フォルティーナ、もう一度戻ろう。」

「えっ。ええ!なに、またあの家に行くの?もう、疲れたよ…」

「まだ1往復だろ、さあ、行こう。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

俺達は電車に乗っていた。
彼女の家がある数駅先までの間に、俺の中にあるこのモヤモヤを解決しておきたい。

「どうも、引っかかるんだ。」

「何が?」

「過は俺達が帰り際に姉の目を見て確かに『箱の人』と言ったんだ。彼はその人の目を見るだけでその人の過去を把握出来る。だけど美來さんの目を見て、そんなことを言うのはおかしいんだ。彼女は、過に箱を与えた人物を直接見てない。直接経験してない過去は第三者経験掌握(パスト・グラスプ)では見ることは出来ない。」

「つまり…?」

「つまり彼女は…ニセモノだ。」

「え!じゃあ、あのお姉さんにそっくりな人は一体誰なの?」

「あれこそがパンドラの箱だったんだよ。美來さんはいつしかそれを略奪の神と言っていた。これはきっと能力について言っていたんだと思う。能力者を追う人間はきっと、同じ能力者しかいない。つまり美來さんは、略奪の能力者によって、何もかも奪われたんだ。周りの人間の記憶さえも…ね。」

「じゃあ『エクストラ・フィルム』を作っていたのって能力者だったの!?

「…そういう事になるな。」

「じゃあ、過(あやまち)くんも危ないんじゃない?」

「だから今向かっているんだ。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「過!いるかー!いたら返事してくれ!」

彼女の家は静まり返っていた。
何度チャイムを鳴らしても返事がない。

「まずいな。」

「ええい!強行突破だよ!」

「おおい!」

フォルティーナは彼女の家の扉を右脚で思いっきり蹴飛ばした。

「うそだろ。」

彼女の一蹴りでドアは全壊した。

「まぁ、今は緊急事態だ。あとで弁償ならいくらでもしよう。いくぞ!」

俺たちは真っ直ぐ廊下を走り、階段を駆け上がった。
そして、彼女の部屋がある廊下の奥まで走った。

「過!」

彼女の部屋の扉は開いていた。
そして、その奥にはぐったりとした過を抱きかかえたパンドラが立っていた。

「おい!過から手を離せ!」

「なに。やっぱり私の正体に気づいたからここに来たのね。」

「何が目的だ。」

「彼には用なんてなかったわ。でも、彼は私が本物ではないと気づいてしまった。だから仕方ないのよ。あなたもそうでしょう?」

「彼をどうするつもりだ。」

「この子の全てをいただくわ。姉のついでにね。」

そう言って彼女は過の唇を奪う。
過は目を大きく開き、息を荒らげる。
彼の瞳孔が徐々に開いていく。

「やめろ!」

俺は彼女に突進をしかけた。
だが、彼女は過を突き放し、俺のタックルを華麗に避ける。
彼女は俺に背を向けた。

「うぉぉぉぉっ!」

チャンスだと思い、俺は後ろにあった本を投げつける。
だが、彼女は前を見ていないのにも関わらず俺の攻撃を次から次に避けていく。

「ふふふ。もうあなたの未来は見えてるわ。これから何をしても、あなたは私にかすり傷人さえ与えることは出来ないわ。」

「過(あやまち)くん!」

フォルティーナが床に転がった過に向かって倒れ込む。

「しっかりして!どーしたの!」

返事がない。

「あなた!彼に一体何をしたの!何が目的なの!」

「うふふ、どうせ死ぬやつになんでそんなこと教えなくちゃならないのよ。」

「…!?

「どうせ…死ぬ…だと?」

「ええ、そうよ。あなたはこの後、逃げた私を追いかけて玄関の扉を開くのよ。」

「…!?

どういうことだ?

「何故そんなことが分かるんだ!」

「あ、でも、玄関を出たあと、あなたはそのお隣にいる子に首を絞めて殺しているわね。ふふふ。気が狂ったのかしら?」

「俺がフォルティーナを殺すだと?何を言っているんだ!」

「言ったでしょ?今の私には未来が見えるのよ。目を見たあなたの少し先をね。」

「じゃあ、彼には一体、何をしたってんだ。」

「奪ったのよ…何もかもね。」

「…それはつまり…彼の命もか!」

「そうよ。それが私の能力、特異能力略奪(スペック・パランダ)。」

「てめぇ、クソ野郎!」

俺は怒りに任せて我武者羅に殴りかかる。
だが、彼女は全てを避けきり、いつの間にか彼女はベランダの手すりに立っていた。

「それじゃあね!もうここに用はないわ。」

「おい!待て!」

そう言って彼女は、ベランダから飛び降り、どこかへ去っていった。

「クソ!」

俺はベランダの手すりに駆け寄り、下を覗いた。
だが、彼女の姿はなかった。

既に日は沈みかけている。
俺は急いで、玄関へと戻った。

「戻るの?」

「あぁ、今ならまだ間に合うかもしれない。一か八かだ。」

「彼を…助けてあげて…」

「…あぁ、分かってる…けど…」

俺は扉に手をかけて少し迷った。
ここまでの流れは彼女がさっき言っていた通りになった。
もし彼女の言う通りなら、俺はこれからこの扉をくぐり、フォルティーナを殺すということになる。

「…私のことは心配しなくていいわ。」

俺の心配を察知した彼女は、そう言って俺の背中を押す。

「あぁ、分かってる。俺はお前を殺したりなんかしない…行ってくる。」

そう言って俺は目を閉じ、玄関の扉を押し開けた。

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登場人物紹介

遡航カイト

主人公

ぱっとしない高校一年生。

3年前の事故でフォルティーナを救うが、自身には「時間軸転移」(タイム・リーピング)という能力が発現する。

今は一人暮らしで刻ノ神という探偵事務所に身を置かせてもらっている。

フォルティーナ・フェイト

メインヒロイン

3年前の事故でカイトに寸でのところで助けられたものの、記憶喪失になってしまった少女。

現在はカイトと同じ高校に通う一年生で、事務所の一室を借りて生活している。

天然ボケした性格で奇行を連発し、いつもカイトを困らせる。

ヘスティア・キルン

所長

カイトの能力に惚れ込み、自信が経営する探偵事務所「刻ノ神(クロノスタ)」にフォルティーナと共に勧誘した。

現在29歳。

独身。

彼氏なし。

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