Film№2 高校生探偵とタイム・リーピング
文字数 1,758文字
俺達は家を出て、事務所へと向かう。
家から出て5分ほど歩いたところの駅で電車に乗る。
3駅先の駅で降りた正面の道を道なりに沿って歩いているとそこには古いビルが建っている。
その2階の一室に俺達の事務所がある。
事務所に入る前に事務所のメンバー(2人だけだが…)について紹介しておこう。
まず、俺の名は遡航(そこう) カイト。
普通の高校一年生……とは言えないな。
俺にはある能力ーと言ってもまだ理解しきれていないがーを持っていて、それは時間軸転移(タイム・リーピング)と呼ばれる。
簡単に言えば今の自分の記憶はそのままに時を巻き戻すというか、別の時間軸へ移動することが出来る能力だ。
時間軸転移(タイムリーピング)については色々制限があって、まず1つは未来には行けないということだ。
通常、時間軸というのは無数に縦に並んでいるのだが、少しずつつそれらは左から右へ、上方向にズレているため、並行に移動すると隣の時間軸の少し過去か、未来へ行くことが出来る。
だが、左隣の時間軸には戻れないみたいで、未来にはいけないらしい。
2つ目は戻れる時間は1週間から1ヶ月程度までということ。
この1週間から1ヶ月程度というのは、以前に時間軸転移(タイムリーピング)を使ってから経った時間だけ戻れる時間も増えるという事だ。
だから同じ時間を3度体験することは出来ないらしい。
これだけを聞くとまだ夢のような話だ。
だが、3つ目の制限で、実は俺は過去に戻ったところで「何も出来ない」という事に絶望した。
というのは、定められた運命は絶対、1度起こってしまったものはいくら過去に戻って防いだとしても、それはまた別の形で同じ結末をたどると何度も経験してきたからだ。
だから俺が過去に戻ってすることはただ事件を延期することに過ぎない。
そんなこんなで、今は自分の能力についてよく理解するために刻ノ神(クロノスタ)という探偵事務所に身を置かせてもらっている。
そこの所長へスティア・キルンは俺の能力を知る唯一の人物だ。
ハーフの特権(金髪の長髪)を年齢不相応としか思えない赤いリボンで一つ縛りにしたお世辞でも大人っぽいとは言えない外見だが、容姿端麗で出るもの(ボンキュッボン)もかなりしっかり出ている。
しかも、フォルティーナの面倒を見てくれていて今は彼女を家に泊めさせてくれている優しい性格。
しかし、この歳(29)になっても彼氏のひとつ居ないことに苛立ちと焦りを抑えきれずにいる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「こんにちはー。」
そう言って俺達はいつも通り10分の遅刻で事務所に到着。
「あら、今日もいつも通り遅刻よね。」
「すいません、本当に。こいつの動きがナメクジ並なのは重々承知しているのに、ほんっと毎回申し訳ないです。」
と、明らかなる俺の潔白によりイージーモードの裁判で彼女のギルティを獲得した。
と、思ったら、
「ちょっと。何言ってるのかさっぱりなんですけどー。」
と、彼女は既決判決をひっくり返そうとする。
「いいからお前は黙っとけって。」
と俺は強引に彼女の後頭部を以て陳謝に全霊を尽くさせる。
それに必死で反発してくるフォルティーナと俺のコントをへスティアさんが優しく見守っている。
そんな日常のワンシーンを回していると、普段は滅多に開かない事務所の正面扉が鈍い音を立てながら外側から開かれた。
「あ、あのー。すみませーん。」
見えたのは小柄で背の低い、見るからに中学生と思しき男の子がこちらを覗いていた。
「はいはい。こんにちは、僕ちゃん。ご依頼ですか?」
と、へスティアさんは優しく出迎える。
その背中には久々に来た客を逃すまいと身を乗り出している彼女のヒロイックさすら見られた。
「え、あっ、はい、あのー、ここではちょっと変わった案件を依頼できると聞いたんですけど…」
「ちょっと変わった案件ですか。ふふっ。そーですねー。うちはちょっと変わった案件を、ちょっと変わったやり方で解決しているんですよ!」
と、こちらに向かって、にこやかに目線を配る。
「はいはい。」
と言って俺は仕方なく彼らの方へ ゆっくり向かって行った。