その5 『モモ』(ミヒャエル・エンデ作)

文字数 1,615文字

 私の究極のスーパーヒロインがどんなルックスか、ご紹介させてください。

 まず、はだしです。そして、つぎはぎだらけのスカート。ぶかぶかの男物のジャケット、袖をまくって着てます。髪はくしゃくしゃ、のびほうだい。
 ポケットにはカメ、手には一輪の花。

 これが、人類征服をもくろむ巨悪とたった一人で闘いぬいて地球を救う、史上最強少女モモの、完全武装の姿です。

 え?

 いや、だって、カメって。マジで? ただのカメじゃないよね? なんか凄いやつなんじゃないの、核兵器内臓とか?
 とか思ってしまった貴方。
 どうか、このブックレビューシリーズを、初回からお読み直しください。
 もうー、ここまでの流れでそんなガジェットタートルが出てくるわけないじゃないですか。

 まあね、このカメさん、いちおう予知能力はあるんですよ、30分くらい(ちっさ)。でもべつに予知した未来を変えられるわけじゃないんです(えー)。あ、あと、口はきけないけどおしゃべりはできます。甲羅に文字が浮かぶんです(これかなり可愛い)。
 名前はカシオペア。
 それはさておき。

 小説の正式な題名は、こうです。
『モモ 時間どろぼうとぬすまれた時間を人間にかえしてくれた女の子のふしぎな物語 』
 あらすじ紹介、終了……。
 もしかしたら、いまの日本のラノベの「タイトルでストーリーを全部語ってしまったので、あとはまったりスローライフします」的な流行は、この『モモ(以下略)』が元祖じゃないかというね、そんな疑惑を拭いきれない私です。

 ちなみに同じ作者の、内容的には『モモ』におよばない(と思う)けれども、興行的には『モモ』をしのぐ大ヒットとなった長編ファンタジー、『はてしない物語』(ネバーエンディング・ストーリー)の、
「何のとりえもない平凡ないじめられっ子の俺が、ある日いきなり勇者になってドラゴンに乗り異世界に突っ込み、姫を救い出してしまったんだが」
という思わず「嘘だろ」と叫びたくなるストーリー展開は、いやこれこそこっちが絶対元祖だよ40年前だよ?というね、もう疑惑じゃなくて確信を持つ私です。

 だから、それはさておき。

 ふらりとやってきて町に住みついてしまった、年齢不詳のふんわり少女モモ。本人にも生い立ちの記憶がないらしい。彼女の素性については最後まで不明のままです。
 小説の冒頭では、彼女を中心に、町の人々のまさにまったりスローライフが楽しく描かれます。だいたい、モモは廃墟に住んじゃうのです、古代の円形劇場の跡に。素敵でしょ?
 そこへ、じんわり、不気味なやつらが現れます。《灰色の男たち》です。全身灰色ずくめ、灰色のスーツに帽子、顔色まで。このグレイスーツ集団、スローライフ満喫中のご町内の皆さんにすりよって、勧誘します。こんな感じで。
「貴方が無駄に浪費なさっているその貴重なお時間、われわれの《時間銀行》に貯蓄しませんか?」
 皆さん、うかうかとその口車に乗って、始めます。
「時間の節約」を。

 どうやって、ですって?
 もちろん、私たちが

、やっているとおりにです。当然。
 それ以上の説明が要りますか?
 時間の無駄でしょう?

 ――ごめんなさい。ちょっといたずらが過ぎました。笑
 いまのはサンプル。みんなこんなふうに、とげとげしく、感じ悪くなっていくのです。
 何度読み返しても、背筋が冷たくなるくだりです。

 灰色の男たちは皆、葉巻を吸っています。それが彼らの唯一の栄養源です。
 これ、あるものを乾かして固めたものです。花なんです。そう、《時間の花》。
 時間は、花なんです。一輪が一時間。私たちに平等に配られ、私たちが知らずに受け取っている。
 ちょっと待って。それが葉巻にされてるって、どういうこと。時間でしょ。誰の時間。

 それ、訊きますか?
 決まってるじゃないですか。

時間ですよ。
 私たちが、うかうかと、彼らの《銀行》に預けた……

 !!

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