その4の1 「12のつきのおくりもの」(スロバキア民話)

文字数 3,073文字

 いじわるで醜く、なまけもののまま母とまま姉。そして心優しくはたらきもので、美しい妹のヒロイン。
 世界中の《シンデレラ》系物語の定番ですが、このおはなしの魅力は、ずばり。

 よりどりみどりのイケメンにあります。笑

 王子さま一人なんかじゃないんですよ。もうね、十二人もいるんです、素敵男子が!!
 私は何を興奮しているんでしょうか?! 笑
 ただし、そのうち三人はイケオジで、三人はグランパですけど、わたし的にはまっったく問題ありません。というかむしろ大好物と言うか! ええ!! 笑笑

 さて。姉ホレーナの気まぐれで、真冬のさなかに、すみれを摘みに森へ行けと言われた妹マルーシカ。
 ああそうだ、ここでひとこと。これ、ぜひ、福音館書店の版でお読みください。
 見開きいっぱいに広がる真っ白な雪と、真っ黒な森。ページのすみにちょこっと描かれた、小さな小さな、マトリョーシカのいちばん奥に入っている人形のような、可憐な少女のすがた。
 寒い。
 怖い。
 夏の昼下がりでも、ぞくぞくして、スカートの下に足をひっこめてうずくまって読んだ、幼い自分を思い出します。

「マルーシカは、なきながら もりへ いきました。ふゆのもりは どこも すっかり ふかい ゆきに うもれています。すみれが さいているはずがありません。
 マルーシカは ゆきに はまりながら あてもなく あるいていきました。そのうち からだが どんどん こごえてきて、いまにも たおれそうになりました。
 そのときです。とつぜん むこうのほうに ちらちらと もえる あかい ひが みえました。マルーシカは はうようにして、その ひのほうへ いってみました」

 名文でしょう? ぜひ、ぜひ、この版でお読みすることをおすすめします。
「ゆきに はまりながら あてもなく」。「はうようにして」。
 限られた字数の中で、的確に刺さってくる表現。扇のかなめを射抜く矢のように。
 そして今回読み返して、私はあっと思わず声をあげたのですが、なんとこのページには、「ちらちらと燃える赤い火」は描かれていなかったのです。描かれているのはただ、白い雪と黒い森。はるかかなたの救いの火は、純粋に私の記憶と想像の産物だったのでした。

 ページをめくると――

「それは すばらしく おおきな たきびでした。12にんの おとこのひとが たきびを かこんで すわっていました。1がつから 12がつまでの、つきのせいたちでした」
 なんと、「なんと」とかなんとかいう説明が、ぜんぜんない! 「12人の男の人」は、もう初めから当然「1月から12月までの月の精」なのですね。
「ふゆのつきは おじいさんたち。あきのつき、なつのつきと すこしずつ わかくなり、はるのつきは うつくしい わかものたちでした」

「『こんにちは みなさん、どうか ちょっとだけ たきびに あたらせてくださいませんか』
 マルーシカは おもいきって たのみました」
 この「おもいきって」も素晴らしいです。だって12の月の精たちですよ、神なのです。怖いじゃないですか。でも、頼む。
「寒くて死にそうなんですもの」などと、見ればわかるよねそれという言い訳をしないところが、この版のマルーシカ、素敵です。
 そして、火に当たらせてもらいます。

 この12の月の精たちには、一本の(王笏のような)杖があって、順番にリレーのように渡していくらしく、いまは12月の長老がそれを手にしています。
 マルーシカがすみれを探していると聞いた彼らは、彼女を「たいそう かわいそうに」思います。
「12がつが たちあがると、いちばん わかい 3がつに つえを わたして いいました。
『さあ きょうだい。しばらく せきを ゆずろう』
 3がつは たきびの うえで おおきく つえを ふりました」

 この! この3月くんが、もう! 超絶、美少年なのです!! 身もだえ(笑)。

 たちまち炎が燃えあがって、雪を溶かし、森には緑が萌え、花が咲きみだれます。
「さあ はやく おつみよ。いそいで」
 この魔法の効き目は、長くないらしいです。大急ぎですみれを摘んで、「なんども おれいをいいながら」、帰っていくマルーシカ。

 家ではいじわるな母親と姉が待っていて、後はもちろん、ご想像どおりの展開です。味を占めた二人によってマルーシカは、翌日はいちごを、その翌日はりんごを取りに雪の森へ追いやられ、そのたびに死にかけ、そのたびに月の精たちに助けられます。
 炎の上で杖をふるのは、6月と9月。
 あ、この6月くんも私かなりっていうかすっごくタイプで、ああでもやっぱり12月のおじいさまがいちばんかっこいいかも! 皆さん衣装が東欧風で、ロシアをも思わせ、凝りに凝った模様とあざやかな色彩、緑や赤や紫で、それこそ私の大好物のジレ(ベスト)とかブーツとかですね、あれたぶん革に染色して刺繍してるんじゃないかと(中略)

 それで、まあ、りんごをもっと食べたくなった姉娘は自分で森へ行って、「あたらせて」とも言わないでずうずうしく焚火に当たって、「なにしようと わたしの かってよ」と言い放って、ある意味、偉いですよね。怖いもの知らず。笑
 12月の長老が顔をしかめて杖をひとふりすると、吹雪が起こり、すべては雪にうずもれます。姉娘も、彼女を追って森に出た母親も、ともに。

 二人が帰ってこないので、マルーシカは、家と畑を引き継ぎます。
 このあたりの展開、早いです。私のまとめが雑なわけ(ばかり)ではありません。笑
 私がいまでも、うっとりするほど大好きで、でも、どきどきするのは、最後の二行です。

「そして はるが くると、3がつのように うつくしい わかものと けっこんして、いつまでも しあわせに くらしました」

 3がつ



 これって……、
 これって、3がつさん? 3がつさんによくにたひとっていうだけ?
 子どもの私は、胸をきゅっとしめつけられたものです。
 マルーシカ、ほんものの3がつさんとけっこんしてほしかったな。でも、むりなんだな。
 だって、3がつさんはかみさまだもの。もりにいなくちゃいけないんだもの。
 もう、あえないんだね。

 と、ちょっぴり切ない思いをかかえたまま、数十年が過ぎ。

 じつは、今回、このブックレビューを書く前に、友人にこのことを話したのです。
 そしたらですね、返ってきた答えが、
「何言ってるの。3月くんだよ、本人」
「え、うそ? だって3月くん神さまでしょ?」
「神さまだけどさ、人間に化けてマルーシカと結婚しに来るんだよ。決まってるじゃない」
「そうなんだ。3月くんもマルーシカが好きなんだ!」
「当然。だからスミレ咲かせてあげるんだもん」
「だけど、それじゃ焚火の番はどうするの? 3月欠番になっちゃうよ?」
「それは……、そこはさ、なんとかなるよ。新しい3月をリクルートするとか」
 何それー! 笑笑

 皆さまは、どう思われますか?


絵本「12のつきのおくりもの」
スロバキア民話/内田莉莎子 再話/丸木俊 画、福音館書店、1971年初版。
重版を重ねて、2006年から特製版も出ているベストセラーです。
同じお話で他の所からも出版されていますが、私の一推しは、上に書いたようにこの版です。(フレーベル館さん講談社さんごめんなさい。)
本当にむだのない名文ですし、何より雪と炎の絵が素晴らしすぎます。美しく可愛らしいだけではなくて、静寂と恐怖と神秘に満ちています。《炎の画家》丸木画伯ですからね……。子ども時代にこういうのに触れるって絶対いいことだと思います。
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