二ノ宝楽 夢招ノ祝詞(ニノホウガク ユメマネキノノリト) 壱

文字数 1,527文字

 蘭子は充からの情報を頼りに、その祭りが行われている村に到着することができた。かなりの山奥で苦戦はしたが、持ち前の根性で乗り切ることができた。辺りは鬱蒼とした森林に囲まれ、夜になれば月の灯りも入らないくらい木々が密集していた。村の近くを流れている川は非常に穏やかで自然と気持ちが癒される。
「あー、やっと着いた。ここで間違いないわよね」
 何度も照らし合わせ、間違いがないことを確認すると村へと一歩踏み出した。家の造りは小さな一軒家がぽつぽつと点在していた。そして、河崎部長の言っていたことが本当だということに気付く。
「本当だ。玄関に風鈴がある」
 青銅でできているものや、鉛でできているものなど本当に様々でまるでそれが家紋の代わりをしているようにも思えた。風鈴の形を確認しながら進むと、村中で薪割りをしている子供たちがいた。お手伝いで力仕事は少し嫌な思いもあるのだが、その子たちの顔は誰も嫌な顔はしていなかった。むしろ、お手伝いができて嬉しいという雰囲気があった。
「……これも部長が言っていたのと合致する。なんでここまで喜べるのかしら」
 疑問に思いつつも、村長の家らしき場所まで歩き軽くノックをする。人気はあるのだが応答がない。今度はもう少し強めにノックをすると、中からごそごそと音がして玄関先で履物を履く音が聞こえた。
「……どちら様かな」
 中から出てきたのは着物を上品に着こなしている白髪の男性だった。蘭子は失礼のないよう丁寧にあいさつをする。
「は、初めまして。私、旅の夢出版の目黒と申します。本日、こちらで取材の依頼をさせていただいているものです」
「ああ……今日でしたかな……」
「はい。そのようにお伝えしていると思いますが……」
「……少々お待ちを」
 そういって白髪の男性は家の奥へと消えていった。その間、もし充が間違った日にちで申し込みをしていたらかと思うと段々腹が立ってきた。
「あいつ、日付間違ってないわよね……間違ってたら許さないんだから」
 ぼそぼそと独り言をいいつつ、白髪の男性が再び玄関から現れ、私の勘違いでしたと詫びを入れた。
「お客人でしたか……失礼いたしました。どうぞ中へ」
 白髪の男性は蘭子を迎え入れると、奥の座敷へと案内された。イグサのいい香りが蘭子の鼻腔をくすぐる。座敷からは小さな枯山水式の庭園があり、目で見る涼を感じることができる。手入れも行き届いており、草木が生き生きとしているのがわかる。蘭子は男性を待つ間、正座で過ごすことにした。
「……枯山水。いいわねぇ」
 人によって見方が変わるというところが大好きな枯山水にうっとりしていると、背後から低い声が蘭子の鼓膜を震わせる。
「ひゃあ!」
「驚かせてすみません。ご挨拶がまだでした」
 着物の裾を足に沿うように下へ回り込ませながら正座をし、深々と頭を下げる。
「私、この村の村長で小金 銀三郎(コガネ ギンザブロウ)と申します」
「あ、改めまして。あたしは目黒 蘭子と申します」
 お互い正座で挨拶を交わし、村長は穏やかな笑みと共に簡単に村の説明を始めた。
「この村は見ての通り、小ぢんまりとした村です。自給自足が基本でして、村の子供たちもそれを手伝いながら生活をしております。都会から来た方には少々不便な部分もございますが、それも村のいいところと思っていただければ幸いです」
 蘭子は自分の携帯端末を見た。すると、右上には「圏外」と表示されていた。山奥にいる時点でそうだろうと予想はしていたし、そもそも携帯端末にそこまで固執がない蘭子にとっては常に携帯不携帯状態である。外部と連絡ができないだけで特に生活に支障はないので気にしないことにした。
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