第三章の七 三日間②
文字数 2,206文字
もしかしたら違うかもしれない、でも話を聞いたあずさは、イザナギであると言う根拠のない自信があった。
「イザナギで決定だよ、うん」
あずさは頷く。
「あずさが確信しているのなら、それはきっと確定事項だね」
結人もあずさの確信を信じているようだった。
「とにかく、私と結人はイザナギに会ってくる」
あずさは立ち上がった。
「奏は霊体だから、お留守番してて」
「そうですね、その身体で向こうへ行って、何があるか分からないですからね」
あずさの言葉に結人が賛同する。そんな二人の心遣いをありがたく感じながら、奏は留守番をすることになったのだった。
「月読命 」
あずさが唱えると、すっとツクヨミが現れる。
「今度はどうしたんだい、あずさ」
ツクヨミはあずさに対してにっこり微笑みながら言う。
「イザナギに会いたいの。アマテラス様も一緒に来て欲しい」
「え? 父様に会いたいのかい?」
さすがのツクヨミも予想外だったようで、目を丸くして言う。
「説明は道中でするから、お願い」
真剣なあずさの声に、ツクヨミも了承するのだった。
高天原 のアマテラスの部屋の中。
あずさ、結人、ツクヨミはアマテラスの前にいた。アマテラスは今度は何だ? と長い髪を億劫そうにかき上げながら言う。
「実は、父様に会いに来たらしいんだ」
「父上に?」
アマテラスも突然のことに目を丸くしている。まさかここで自分の父親の話が出てくるとは思っても見なかったのだ。ツクヨミは道中であずさに聞いた、黄泉神 からの条件を話す。その際、黄泉神 が自分たちの母親であるかもしれない、と言う仮説も説明する。
「なるほど、そういうことならば我も参席しなくてはならぬな」
アマテラスは立ち上がると、ついて参れ、と言って父親の部屋へと向かった。
「父上、お客が来ている」
アマテラスが大きな扉の前で中に声を掛ける。すると低い声が入れ、と促した。
「はじめまして、湊 あずさです」
「吉田結人です」
「ほぅ、これは面白い組み合わせじゃの」
人間と野狐 の組み合わせに、興味深そうにじろじろと見るイザナギに、ツクヨミが補足する。
「この人間が今まで僕たちの願いを聞いていくれた子だよ」
「なんと! ではそなたがアマテラスとツクヨミの加護を受けた人間か」
イザナギは驚き、そしてにこやかにあずさ達を歓迎してくれた。
「貴重な人間よ、私にどんな用事があって来たのだ」
銀色の短髪を撫でながら、イザナギがにこやかに言う。
「黄泉神 に、会って欲しいんです」
「黄泉神 に、と言うと黄泉の国の……」
そう言うとイザナギの先ほどまでのにこやかさは消え去った。
「ならぬ」
そして低い声で言う。
「何故?」
あずさは食って掛かる勢いだ。イザナギは言う。
「あの地には二度と行かぬと決めたのだ」
「自分の奥さんがいるから?」
結人が鋭く突っ込む。
結人の言葉にぐっと言葉を飲み込むイザナギ。
「あなたが黄泉神 に会えば、私の大好きな人が、戻ってこられるかもしれないんです!」
「どういうことだ?」
そこでツクヨミとアマテラスが二人がここへきた本当の理由を説明した。そして自分たちの母親が、黄泉神 かもしれないと言う仮説もあるのだと 説いた。
「イザナミが、黄泉神 、だと?」
「イザナギ様、イザナギ様はイザナミの外見だけを愛していたのですか? 外見だけのために、黄泉の国まで迎えに行ったんですか」
あずさの問いかけにイザナギは答えられない。もうかなり昔の話だ。当時の感情など覚えていなかった。ただ、黄泉の国では酷い仕打ちを受けた事実だけが身に染みていた。
「お願いします!黄泉神 に一目でいいので会ってください!」
あずさは深々とお辞儀する。
「……、ならぬ」
イザナギは低く唸るように言った。
「分からず屋!」
とうとうあずさの堪忍袋が切れてしまった。
「どうしてなのっ? 好きだったんでしょっ? 好きだから迎えに行ったのに、外見が変わってたからって逃げ帰るなんて最低だよ!」
そりゃイザナミだって怒るよ、そう主張するあずさを、ツクヨミはまぁまぁと微苦笑しながら宥 める。しかしあずさの怒りは収まらない。
「神様って、ホントにホントに自分勝手ね! こんなにもお願いしてるのに、神様に、神様にお願いしているのに、全然承諾してくれない! 会うくらいいいじゃない!」
涙目になりながら言うあずさ。もう感情が暴走して自分でも何を言っているのか分からなかった。ただただ悔しかった。あと一歩で奏が帰って来るかもしれないのに、その一歩が遠い。
「父様、僕と姉さんはこの目で、黄泉神 を見てきます。本当に黄泉神 が母様なのか、判断したいので」
ツクヨミの真剣な声に、隣にいるアマテラスも頷く。
「ならぬ!」
大声をあげるイザナギに対して、ツクヨミは冷静に言う。
「父様は、本当に一緒に黄泉の国へは行ってくださらないのですね?」
ツクヨミの言葉に、イザナギは無言だった。
「分かりました。父上がそのつもりなら、こちらもこちらで動きますから」
アマテラスの言葉で、この場はお開きになった。
イザナギの部屋を出たあずさは半分泣きながら言う。
「とんだ頑固おやじね……」
ずびっと鼻をすすりながら呟くあずさに、
「まぁまぁ、僕たちが代わりになるか分からないけれど、黄泉神 への交渉はしてみるからさ」
ツクヨミがぽんぽんとあずさの頭を叩きながら言う。
あずさは何と奏に報告したものかを悩みながら、現世へと帰るのだった。
「イザナギで決定だよ、うん」
あずさは頷く。
「あずさが確信しているのなら、それはきっと確定事項だね」
結人もあずさの確信を信じているようだった。
「とにかく、私と結人はイザナギに会ってくる」
あずさは立ち上がった。
「奏は霊体だから、お留守番してて」
「そうですね、その身体で向こうへ行って、何があるか分からないですからね」
あずさの言葉に結人が賛同する。そんな二人の心遣いをありがたく感じながら、奏は留守番をすることになったのだった。
「
あずさが唱えると、すっとツクヨミが現れる。
「今度はどうしたんだい、あずさ」
ツクヨミはあずさに対してにっこり微笑みながら言う。
「イザナギに会いたいの。アマテラス様も一緒に来て欲しい」
「え? 父様に会いたいのかい?」
さすがのツクヨミも予想外だったようで、目を丸くして言う。
「説明は道中でするから、お願い」
真剣なあずさの声に、ツクヨミも了承するのだった。
あずさ、結人、ツクヨミはアマテラスの前にいた。アマテラスは今度は何だ? と長い髪を億劫そうにかき上げながら言う。
「実は、父様に会いに来たらしいんだ」
「父上に?」
アマテラスも突然のことに目を丸くしている。まさかここで自分の父親の話が出てくるとは思っても見なかったのだ。ツクヨミは道中であずさに聞いた、
「なるほど、そういうことならば我も参席しなくてはならぬな」
アマテラスは立ち上がると、ついて参れ、と言って父親の部屋へと向かった。
「父上、お客が来ている」
アマテラスが大きな扉の前で中に声を掛ける。すると低い声が入れ、と促した。
「はじめまして、
「吉田結人です」
「ほぅ、これは面白い組み合わせじゃの」
人間と
「この人間が今まで僕たちの願いを聞いていくれた子だよ」
「なんと! ではそなたがアマテラスとツクヨミの加護を受けた人間か」
イザナギは驚き、そしてにこやかにあずさ達を歓迎してくれた。
「貴重な人間よ、私にどんな用事があって来たのだ」
銀色の短髪を撫でながら、イザナギがにこやかに言う。
「
「
そう言うとイザナギの先ほどまでのにこやかさは消え去った。
「ならぬ」
そして低い声で言う。
「何故?」
あずさは食って掛かる勢いだ。イザナギは言う。
「あの地には二度と行かぬと決めたのだ」
「自分の奥さんがいるから?」
結人が鋭く突っ込む。
結人の言葉にぐっと言葉を飲み込むイザナギ。
「あなたが
「どういうことだ?」
そこでツクヨミとアマテラスが二人がここへきた本当の理由を説明した。そして自分たちの母親が、
「イザナミが、
「イザナギ様、イザナギ様はイザナミの外見だけを愛していたのですか? 外見だけのために、黄泉の国まで迎えに行ったんですか」
あずさの問いかけにイザナギは答えられない。もうかなり昔の話だ。当時の感情など覚えていなかった。ただ、黄泉の国では酷い仕打ちを受けた事実だけが身に染みていた。
「お願いします!
あずさは深々とお辞儀する。
「……、ならぬ」
イザナギは低く唸るように言った。
「分からず屋!」
とうとうあずさの堪忍袋が切れてしまった。
「どうしてなのっ? 好きだったんでしょっ? 好きだから迎えに行ったのに、外見が変わってたからって逃げ帰るなんて最低だよ!」
そりゃイザナミだって怒るよ、そう主張するあずさを、ツクヨミはまぁまぁと微苦笑しながら
「神様って、ホントにホントに自分勝手ね! こんなにもお願いしてるのに、神様に、神様にお願いしているのに、全然承諾してくれない! 会うくらいいいじゃない!」
涙目になりながら言うあずさ。もう感情が暴走して自分でも何を言っているのか分からなかった。ただただ悔しかった。あと一歩で奏が帰って来るかもしれないのに、その一歩が遠い。
「父様、僕と姉さんはこの目で、
ツクヨミの真剣な声に、隣にいるアマテラスも頷く。
「ならぬ!」
大声をあげるイザナギに対して、ツクヨミは冷静に言う。
「父様は、本当に一緒に黄泉の国へは行ってくださらないのですね?」
ツクヨミの言葉に、イザナギは無言だった。
「分かりました。父上がそのつもりなら、こちらもこちらで動きますから」
アマテラスの言葉で、この場はお開きになった。
イザナギの部屋を出たあずさは半分泣きながら言う。
「とんだ頑固おやじね……」
ずびっと鼻をすすりながら呟くあずさに、
「まぁまぁ、僕たちが代わりになるか分からないけれど、
ツクヨミがぽんぽんとあずさの頭を叩きながら言う。
あずさは何と奏に報告したものかを悩みながら、現世へと帰るのだった。