二 祭りの夜の依頼②
文字数 1,589文字
「そうだね」
「では早速……」
「待って」
今度の制止はあずさのものだった。
「アナタは誰なの?」
「人間に名乗れと言うのか?」
「質問しているのは私なんですけど……」
重たい声で言われ、あずさの声は尻つぼみになる。しかしそれを見ていた男は口を開いた。
「分かった、名乗ろう。私は瓊瓊杵尊 だ」
「瓊瓊杵尊 っ?」
思わず声を上げたのは奏だった。
「私の名前に何かあるか?」
「いえ、あの、もしかしなくてもアマテラスの孫にあたる……」
「いかにもそうだが、それがどうした?」
「神様がひょいひょい現れて、驚かない人間なんていないわよ!」
悲痛な奏の言葉は、しかし瓊瓊杵尊 に黙殺されるだけだった。
「彼は、君たちにお願いがあって来たんだよ」
ツクヨミの声に視線は自然とツクヨミに集まる。
「本当だったんだ……」
呆然と呟いたのはあずさだった。
「あずさちゃん、何か知っているの?」
「私がツクヨミの願いを叶えたの。それを知った他の神々が私にお願い事をしに来るって……」
「なるほど、それで神様が二人もいらっしゃるのね」
奏はなんとか納得しようとしていた。
「それで、瓊瓊杵尊 。お願い事とは何のことだい?」
場が収まったと踏んだのか、ツクヨミが話を進める。
「うむ……。二つあるのだ」
瓊瓊杵尊 は重い口を開いた。
「一つは大カブトエビのことなのだ」
「大カブトエビ?」
「田を守る妖怪でな。悪さをする子供がいたら、その手で背中を押し、泥だらけにしてしまうのだ」
「……」
あずさと奏の間に沈黙が走った。神様が妖怪に手を焼いている、と言うことだろうか。
「自らも『田を守る妖怪』と自負しておってな。それは良いのだ。ただな、彼奴 が歩いた後は全ての稲がなぎ倒されているのだが、本人はそれを知らないのだ。それを教えてやって欲しい」
稲が倒れてしまっているのは確かに、五穀豊穣 を司る神である瓊瓊杵尊 には困ることなのだろう。奏はそう納得していた。
「もう一つは泥田坊 のことなのだ」
瓊瓊杵尊 によると、この泥田坊 もまた、田を守る妖怪なのだと言う。しかし最近、農業を馬鹿にする子供が増えた。そこで、泥田坊 は田を馬鹿にする子供を攫 っているのだと言う。
「攫 った子供たちを返すよう、説得してもらいたいのだ」
瓊瓊杵尊 はそう言うと、頼んだぞ、と言って消えていってしまった。
「無愛想な人だよね」
あはは、と笑いながら言うのはツクヨミだ。しかし奏とあずさは笑うに笑えなかった。
「今の、ににぎ……さんは、結局神様なの?」
あずさは最初に抱いていた疑問をぶつけた。それに答えたのは奏だった。
「アマテラスの孫で、五穀豊穣 を司る神様って言われているわね」
「アマテラスの孫っ? あの人、孫がいたのっ?」
あずさは少し的外れな所で驚いていた。そっか~、と一人でうんうんと頷いている。
「ツクヨミ様、あの、妖怪を相手にするお願いでしたけど、どういうことなのです?」
そんなあずさをよそに、奏はツクヨミへと質問を投げかけた。この異常な空間に少しずつ順応しているようだ。
「ん? ん~……」
ツクヨミは少し言葉を選んでいる様子だ。奏はツクヨミの言葉をじっと待った。
「あのままの意味、なんだよね」
ツクヨミは微苦笑しながら言葉を続けた。
「僕たちは神だけど、神だから万能と言うわけではないんだ。これはあずさには何度も言っていることなんだけどね。奏くんは八百万 の神に少しは詳しいみたいだから分かっていると思うけれど」
それでも人間の願いは出来るだけ叶えたいと思うのもまた神なのだと言う。今回は二妖怪のせいで、五穀豊穣 を願う人間の願いを叶えられないかもしれない、そんな瓊瓊杵尊 からの依頼なのだと言う。
「大カブトエビと泥田坊 は田んぼにいるから、よろしくね」
それだけ言うとツクヨミはヤタガラスを呼んだ。話はこれで終わりのようだ。
あずさと奏の二人はヤタガラスによって下界へとおりていくのだった。
「では早速……」
「待って」
今度の制止はあずさのものだった。
「アナタは誰なの?」
「人間に名乗れと言うのか?」
「質問しているのは私なんですけど……」
重たい声で言われ、あずさの声は尻つぼみになる。しかしそれを見ていた男は口を開いた。
「分かった、名乗ろう。私は
「
思わず声を上げたのは奏だった。
「私の名前に何かあるか?」
「いえ、あの、もしかしなくてもアマテラスの孫にあたる……」
「いかにもそうだが、それがどうした?」
「神様がひょいひょい現れて、驚かない人間なんていないわよ!」
悲痛な奏の言葉は、しかし
「彼は、君たちにお願いがあって来たんだよ」
ツクヨミの声に視線は自然とツクヨミに集まる。
「本当だったんだ……」
呆然と呟いたのはあずさだった。
「あずさちゃん、何か知っているの?」
「私がツクヨミの願いを叶えたの。それを知った他の神々が私にお願い事をしに来るって……」
「なるほど、それで神様が二人もいらっしゃるのね」
奏はなんとか納得しようとしていた。
「それで、
場が収まったと踏んだのか、ツクヨミが話を進める。
「うむ……。二つあるのだ」
「一つは大カブトエビのことなのだ」
「大カブトエビ?」
「田を守る妖怪でな。悪さをする子供がいたら、その手で背中を押し、泥だらけにしてしまうのだ」
「……」
あずさと奏の間に沈黙が走った。神様が妖怪に手を焼いている、と言うことだろうか。
「自らも『田を守る妖怪』と自負しておってな。それは良いのだ。ただな、
稲が倒れてしまっているのは確かに、
「もう一つは
「
「無愛想な人だよね」
あはは、と笑いながら言うのはツクヨミだ。しかし奏とあずさは笑うに笑えなかった。
「今の、ににぎ……さんは、結局神様なの?」
あずさは最初に抱いていた疑問をぶつけた。それに答えたのは奏だった。
「アマテラスの孫で、
「アマテラスの孫っ? あの人、孫がいたのっ?」
あずさは少し的外れな所で驚いていた。そっか~、と一人でうんうんと頷いている。
「ツクヨミ様、あの、妖怪を相手にするお願いでしたけど、どういうことなのです?」
そんなあずさをよそに、奏はツクヨミへと質問を投げかけた。この異常な空間に少しずつ順応しているようだ。
「ん? ん~……」
ツクヨミは少し言葉を選んでいる様子だ。奏はツクヨミの言葉をじっと待った。
「あのままの意味、なんだよね」
ツクヨミは微苦笑しながら言葉を続けた。
「僕たちは神だけど、神だから万能と言うわけではないんだ。これはあずさには何度も言っていることなんだけどね。奏くんは
それでも人間の願いは出来るだけ叶えたいと思うのもまた神なのだと言う。今回は二妖怪のせいで、
「大カブトエビと
それだけ言うとツクヨミはヤタガラスを呼んだ。話はこれで終わりのようだ。
あずさと奏の二人はヤタガラスによって下界へとおりていくのだった。