第13話 黄昏時

文字数 482文字

夕焼けが輝く町に一匹の猫が颯爽と歩いていく。
その歩く姿はどこか自信に満ちていて、貫禄さえ感じさせる。
誰の目にも触れないように、細い道を分け入っていく。
その猫はとても長生きである。誰も知らない昔からずっと生きてきた。
猫はかつて一人の人間と共に過ごしてきた、しかし最後まで名前をつけられることはなかった。
故に今も名前を持たずに、日本中を旅しているのである。
猫は色々見てきた。夜になるとみんなが楽しそうに酒を飲んでいるところ、大きな音を立てながら頭の上を飛んでいく飛行機、とても足の速い電車…。
楽しい所だけではない、人間の悲しい所もたくさん見てきた。
火に包まれる町だった場所、二度と帰らぬ愛しい人を永遠に待ち続ける人間。
色々なことがあった、と猫はつぶやく。
今はすっかりみんな笑顔である。ふらりと立ち寄ったこの町も、夕方になると子どもたちがそれぞれの家へ帰っていく。家族みんなでご飯を食べている。
猫は満足そうに町を去っていく。
次はどこへ行こうか。まだまだ知らない場所はたくさんあると聞く。
名もない猫の旅はまだまだ続く。

私は誰か?あえて呼ぶのなら、そう。
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