第15話 夏休み

文字数 898文字

 早いもので、もう立秋が過ぎました。あなたの周りに、夏休みのある人はいますか?今はどんな宿題があるのかしら?ウチの子どもたちが小学生のころは、プチトマトの観察日記がありました。

 1学期の終業式が近づくと大量の荷物を持って帰宅するのが、子どもたちの夏の光景だった。その中には、学校で植えたプチトマトの鉢があった。小さな青い実がいくつか育っていたが、水やりが足りないのか、それとも暑過ぎたのか、茎や葉は元気がなかった。せっかく重い思いをして持って帰ってきたのだから「赤い実になったらサラダにして食べよう」と奮起させた。

 しばらくすると、いくつかあった実は、ほとんどが大きくならず、プチトマトならぬ青いプチプチトマトのままで収穫できなかった。それでも1つだけ、大きく赤い実ができた。子どもが明日収穫しようと言っていた矢先、カラスが窓際を飛び去る姿を見た。クチバシに赤い何かをくわえて。
「まさか……」嫌な予感は、直ぐに現実になった。「やられた……」子どもに言うと、反応は意外と冷静に「へ〜」
真剣に観察していたのは、私の方だった。

 私の夏休みの思い出は、祖父の寺で過ごしたときのこと。『涼しいうちに宿題を』と言われて使っていた場所は、風通しの良い客間。檀家の人がいつでも入れるようにと、南側には格子の入ったすりガラスの引き戸。反対側も同様な作りなのだが、その先は苔むした中庭で、こちらは人の出入り口ではなかった。早朝、両方の戸を開け放つ。一気にサラサラとした冷たい空気が入り込む。夕方は、少し湿った空気だったが、それでも涼しかった。部屋の中央には一畳ほどの座卓と座布団、そしてネジ式の柱時計があった。

 ある日の夕方。私は、宿題の途中で眠ってしまった。大の字で、仰向けに。声が聞こえ、目を覚ますと、そこには近所の子どもたちが数人。どうやら私の寝顔を覗き込んでいたみたい。どんな顔をしていたことやら。恥ずかしくて、慌てた。穏やかな空気と柱時計の音が、私の夏の思い出。

 子どもたちが社会人になり、夫が定年を迎えて以降、我が家から夏休みが消えました。もちろん、冬休みも春休みも。一年が淡々と過ぎている感じがします。
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