第17話 遭難の連絡

文字数 1,060文字

 客船事務所では無線主任管理者のロバートが無線制御盤の前で険しい顔をして操作盤を睨んでいた。ロバートは鳴り響く緊急無線電話を取った。それは当地の沿岸警備隊からの連絡だった。その声は緊迫している。

「当方、沿岸警備隊のジョージです、さきほど地中海沖にて、ローズ・プリンセス号からの緊急遭難信号が衛生を通じて発せられました。 現在、救難艇及び航空機で捜索及び救出に向かっています、当事務所にて乗船者名簿の照合並びに関係者に至急連絡して下さい」
「了解しました、ジョージ、こちらは無線管理者のロバートです、至急に名簿の照合並びに関係者との連絡に当たります」
「では、宜しくお願いします、ロバート!」
「ラジャー、ジョージ……では」

 ローズ・プリンセス号からの緊急遭難信号は船が三メートルほどに沈没したとき発せられた。非常用の位置指示無線標識装置は、水圧で動作した水圧センサーが取り付け架台から自動離脱し浮上したのだ。この機能が作動しなかったら更に救助は遅れていただろう。

 これが作動すると言うことは、船の主な部分が沈んでいると言うことである。ロバートは先程まで話していたクイーン・マリーンズ号の船長のブラウンを思い出し電話を掛けた。

「ロバートです、ブラウンさん」
「あぁ、ロバート、どうでしたか?」
「はい、沿岸警備隊からの緊急連絡でローズ・プリンセス号が遭難したようです」
「えっ? ほんとうですか、それで?」
「無線標識装置が働いて、その電波を人工衛星がキャッチしたようです、それで当局が救助に向かっているようです」
「やはり、そうか……」ブラウンはロバートの言葉を聞いて絶句した。

(何故遭難したんだ? クラーク、あんなに穏やかな海だったのに……でもまだクラークは死んではいない。きっと助かるさ、あいつほどいい男はいない、きっと助かる、助かったらまた飲もうぜ)

 海の怖さを誰よりも知っているブラウンだが、親友の遭難は予想外だった。昔、彼と船員学校で学んだ頃、お互いをライバルとして切磋琢磨して頑張ったあの頃。

 いつもブラウンの心の中にはクラークがいた。歳を重ね過ぎて、そろそろ引退を考えていた二人だった。その引退のお別れパーティーをブラウンはクラークと祝うのが夢だった。自分の妻と、クラーク夫妻での合同引退パーティー……なんと素敵じゃないか。その相棒がいなくなるなどと、ブラウンは考えもしなかった。

(まだ、死んだ訳じゃない、生きていてくれ、クラーク!)
 ブラウンは同じ客船の船長として、苦楽を味わった友を思いいつまでも涙していた。



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