第四十三話 そうだ越前にも行こう(1)

文字数 3,509文字

 天文十七年(1548年)5月


 大垣の御料所を兄の三淵藤英(みつぶちふじひで)らに任せ、斎藤利尚(義龍)と京へ向かって出立した。
 道中では小笠原稙盛(おがさわらたねもり)殿が義龍に小笠原流の故実にのっとった礼法を教え込んでいる。(斎藤義龍からしっかり講師料は貰っているようだ)
 土岐頼芸(よりのり)の名で六角家には通達が行っているので、我らと義龍一向は問題なく六角領を通過して行く。

 途中金森長近(かなもりながちか)が育った金ヶ森(かながもり)(滋賀県守山(もりやま)市)へと向かった。
 金森長近が金ヶ森で知り合いを郎党として雇いたいというので、許可を出したためだ。
 数人連れて来たが、残念ながら知っている名前の者は一人もいなかった。

 明智光秀も郎党を美濃から数人連れて来ており、その中で俺が知っている名前は残念ながら藤田(ふじた)伝五(でんご)行政(ゆきまさ)だけであった。
 明智五宿老のうち斎藤利三(さいとうとしみつ)と藤田行政が揃ったわけだが、残りの3人はまだ子供なのでそのうち光秀に言って集めて仕官させるか。
 とりあえず藤田行政はソッコーで中間(ちゅうげん)から足軽に取り立てたので、光秀には感謝された。

 ちなみに斎藤利三は明智光秀とは面識がなかった。
 斎藤利三の母が明智光秀の妹や姉とかいう説もあったはずなのだが、関係がないようである。(私は否定派)
 史実では利三は光秀の重臣となるが、利三を光秀に取られてはかなわないので、あまり一緒に組ませないようにしようかな。
 斎藤利三は俺の直属の重臣として活躍して欲しいのである。

 まったくの余談なのだが、本能寺の変で斎藤利三は織田信忠(おだのぶただ)が立て篭もった二条新御所を攻めており、金森長近の嫡男である金森長則(かなもりながのり)が討死したりしている。
 なんとなく人間関係が複雑な家臣団になって来た気がする。(俺だけ知ってる)

 京に戻り、斎藤利尚(義龍)は再建中の妙覚寺(みょうかくじ)に宿泊した。
(妙覚寺は天文法華(てんぶんほっけ)の乱で焼失したが1548年に二条の地で再建している)
 やはり斎藤道三の父が居た寺であり、美濃の常在寺(じょうざいじ)の本寺でもあるから縁があるのだろう。
 とりあえず義龍を妙覚寺に置いておき、我が心のオアシスである東求堂(とうぐどう)に急ぐ俺である。

 そして我が愛しの義藤さまは、ふくれっ面をしていた。
 お前(第十三代将軍です)はリスか何かか? ……可愛いけど。

「美濃ではご苦労であったな。首尾は聞いておる。良くやった。じゃが、すぐに越前にたつのであろう? こんなところで油を売っていて良いのか?」

「まずは道三殿の嫡男である斎藤利尚殿の公方様への謁見と、任官の推薦の準備がありますれば。それにすぐに越前に行かなければなりませぬゆえ、義藤さまのお顔を見たくありましたが、ダメでありましたか?」

「……別にダメではない」真っ赤になるところが可愛い。

「利尚殿の官位については官途奉行(かんとぶぎょう)摂津摂津守(せっつせっつのかみ)(元造)様に相談し、謁見の儀の手配は大館晴光(おおだてはるみつ)殿と父(三淵晴員(みつぶちはるかず))にお願いしてありますれば、越前朝倉の件を相談したくあります。ですが、今日くらいはのんびりしても良いでしょうか?」

「その方が、そうしたくあれば……そうするがよいぞ」

「はい。ではお茶にでもしましょうか、あとアジの干物を持って来ておりますので晩御飯に出しましょう――」

 久しぶりだったので、なんとなく義藤さまとのんびりしてしまった。
 こんなに平和にしていて良いわけではないのだが、焦ってもしょうがないからな。

 翌日、とっとと斎藤利尚(義龍)の公方様の謁見の準備を済ませて、越前行きの準備と、領地である小石出村(こでいしむら)などの統治の相談をしていた。(家臣たちと我が物顔で吉田神社にてやっています)
 この日、奈良から米田求政の弟である米田(こめだ)甚左衛門(じんざえもん)是澄(これずみ)が兄を頼ってやって来たので、喜んで召抱えた。
 金森長近や明智光秀と藤田伝五を美濃で家臣に加え、今日は米田是澄を召抱えることになったが、人材不足はかなり深刻なので、もう少し家臣が欲しいところだ。

 義父の細川晴広に帰国の挨拶をし、相談をしたところ淡路細川家から野村又助(のむらまたすけ)を俺の直臣にすることを許可された。
 野村又助は中間(ちゅうげん)の身分であったので足軽に引き上げた。
(野村又助は細川藤孝の古くからの家臣でその子に岐阜城攻めで戦功をあげたという野村新右衛門(しんうえもん)もいるのだが、あまり詳細はよく分かっていません)

 愛馬だった「成田無頼庵(ナリタブライアン)」を明智光秀に与えてしまったので、下京(しもぎょう)郊外の五条室町(ごじょうむろまち)馬市(うまいち)に、俺と金森長近や米田是澄、藤田伝五、野村又助らの馬も買いに行った。
 我が家臣は足軽以上で馬が持てる好待遇である。(それ足軽違くね?)

 今度の愛馬には『新堀流怒瑠府(シンボリルドルフ)』と名付けた。
 無敗で三冠を制し、G1を7勝ぐらいしそうな超名馬である。
 皆も良い馬を買えたようで満足顔であった。

 斎藤利尚(義龍)の謁見や官位の受領は滞りなく無難に終わった。
 織田弾正忠家に連続しての美濃斎藤家の嫡子の謁見であり、多くの礼の物を持参した斎藤利尚の謁見を取り次いだ俺の株は幕府内で上がっているようである。

 株が上がったところで、残る問題の朝倉家を解決するため、朝倉家へ幕府が与えられる待遇などを義藤さまや大御所の側近らと相談し、斎藤利尚とは分かれの挨拶を済ませ、まずは自分の領地である小出石村に久しぶりに向かった。

 ◆

 新規募集で集めていた新たな郎党(ろうとう)らと小出石村に向かい、小出石村の屋敷に主だった者を集めて、部隊の再編などを話し合った。
 早く米田ブートキャンプで新参の連中を鍛えたいところだが、今は農繁期なので郎党らは小出石村や百井村(ももいむら)大見村(おおみむら)久多荘(くたのしょう)で田植えの手伝いである。

 配下も増えたし、所領も増えたし、郎党も増えた。
 そろそろ強くなっているだろうから少しスカウター(そんなもんありません)で検証してみよう。
 もう天下一武道会ぐらいならラクラク優勝できるんじゃね?

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【現在の戦闘力260】(初代ピッコロっぽい大魔王ぐらい)

 細川兵部大輔藤孝・16歳(幕府御供衆)淡路細川家若殿
 米田源三郎求政・24歳(侍大将)傅役(もりやく)
 金森五郎八長近・26歳(足軽大将)工兵隊指揮官
 明智十兵衛光秀・24歳(足軽大将)鉄砲隊指揮官
 柳沢新三郎沢元政・14歳(幕府足軽衆・足軽組頭)伝令
 斎藤内蔵助利三・16歳(足軽組頭)レンジャー隊指揮官
 米田甚左衛門是澄・20代?(足軽組頭)
 中村新助・30代?(足軽組頭)
 野村又助・30代?(直臣足軽)
 木崎大炊助、小川権六、沢井対馬守(米田家足軽)
 藤田伝五行政・20代?(明智家足軽)
(他家や淡路細川本家との関係があるので一応上記のような身分、ただし実質は全員騎馬武者で、全員上級武士級で馬廻りみたいなものになっとる)
 郎党240人ぐらい(その他足軽・中間・小物)主に小出石村にいる

【現在の国力4,700石ぐらい】(交代寄合(こうたいよりあい)並)

 美濃・大垣御料所の内4,000石(赤坂村や中山道沿い)管理は兄任せ
 山城・北部約700石(小石出村周辺、百井村・大見村、久多荘)管理角倉家

(俸禄は現金支給でほとんどが土倉やメープルシロップなどの利益から)
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 うん、おかしいな頑張っているはずなのだが、全然強くなった気がしないぞ。
 それに敵は「私のフルパワーは3万です」とか言い出しそうなヤツなのだが、まったく勝てる気がしねえ……

 細川藤孝はめぐまれた環境のように思われているが、チート商売やってこれだぞ。
 淡路細川家は三好家に滅ぼされた本来の淡路細川家の名跡のみを佐々木大原出身の細川政誠が与えられただけであり、ようするに元々の領地などがほぼなく、御料所の代官でしかない。
 義祖父の細川高久が幕府で内談衆になるなど地位はあったが所領が増えたわけでもない。
 さらに俺はそこの養子で、当主でもない若殿じゃ裸一貫みたいなものなのだ。
 16歳で御供衆(おともしゅう)になり、合計すれば4,700石の代官職も手に入れたし、なんだかんだで一応金だけはあるので、これでも頑張っているほうだとは思うがね……しかし250程度の兵力じゃ何もできん。

 全力で農兵を徴発しても400ぐらいだから正直農兵はいらんかも。
 鉄砲も根来(ねごろ)から買い足してはいるが、やっと40挺といったところだ……正直戦力としては厳しい。

 鉄砲の訓練用の火薬は硝石(しょうせき)角倉(すみのくら)吉田家や大和の米田本家が古土法(こどほう)で供給してくれているので今のところ問題はないが、古土法では質の面やいずれは量が足りなくなるのが分かりきっているので、そろそろ別の方法も準備したいと思う――

 ◆
【そうだ越前にも行こう(2)へ続く】
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登場人物紹介

細川藤孝:主人公


従五位下兵部大輔に叙位任官され

作中では兵部大輔や与一郎と呼ばれることも多い


戦国武将としては最高級の教養人と知られ

肥後熊本藩52万石の藩祖となる


現代では歴史マニアであったおっさんが転生している

ヒロインの義藤さまに拾われ、義藤さまを助けるために

室町幕府を再興しようとしている


室町幕府の奉公衆である淡路守護細川家に養子入りしている

義父は細川晴広、実父は三淵晴員

足利義藤:ヒロイン


いわゆる足利義輝で、室町幕府の第13代征夷大将軍なのだが

なぜか可愛い女の子である

(なぜ女の子なのかはそのうち本編で明かされる)


拾った細川藤孝を気に入り側に置いている

細川藤孝には「食いしん坊将軍」と呼ばれ

美味しい物を貢がれて餌付けされている


作中では義藤さまや公方様、大樹と呼ばれる


ちなみに胸は貧乳である

米田求政:家臣


肥後熊本藩の家老米田家の祖となる人

米田はコメダと読む

通称は源三郎


史実よりも早く細川藤孝に仕え

傅役の立場にあり主人公からは

源三郎の兄貴と親しみを持って呼ばれる


現代でも売られている伝統の胃腸薬「三光丸」を作る

米田一族の出身で医薬に造詣が深い


淡路細川家では新兵を鍛える鬼軍曹役でもある

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