二、私は、価値の無いものです
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弟子入りを乞うた私への回答は至極あっさりとしたものだった。体良く断られたのだと考えた私は、失望を覚えながらも、それがために先生から離れていく気にはなれなかった。
私はゾンビ狩りに出る先生を待ち伏せして、押しかけ弟子の如くに先生の傍らでチェーンソーを振るい、先生の巻き上げるゾンビ血飛沫の中を追っていった。私は若かったが、普段はこれほど積極的でも厚かましくもなかった。
なぜ、先生の場合に限って私がそれほどの執着を発揮したのか、それが先生の亡くなった今日になって、始めて解って来た。先生は始めから私を嫌っていたのではなかったのである。先生が私に示した冷淡にも見える動作は、私を遠ざけようとする不快の表現ではなかったのである。傷ましい先生は、自分に近づこうとする人間に、近づくほどの価値のない剣客だから止せという警告を与えたのである。他の懐かしみに応じない先生は、他を軽蔑する前に、まず自分を軽蔑していたものとみえる。果たして、先生の過去に何があったと言うのだろう。
私のチェーンソーがゾンビ一体の肉をズタズタに切り裂く間に、先生の刀は五体のゾンビを斬り伏せていた。私は刀にはとんと詳しくなかったが、あれだけのゾンビを斬って刃毀れ一つ見せぬ先生の得物は相当の業物に相違なかった。
ゾンビの腐った返り血を顔面に浴びながら私は尋ねた。先生はただ沈黙を守った。
ゾンビを狩る時も狩らぬ時も、先生は始終静かであった。落ち付いていた。けれども時として変な曇りがその顔を横切る事があった。私の訪問を断った時の先生にもその変な曇りがあった。
若かった私は非礼を承知で重ねて問うた。
私の答えを聞いた先生の顔は蒼かった。だが、先生はついにこう言ったのであった。