八、大変! 娘が、娘が……血まみれで!!
文字数 1,484文字
私は煩悶にのたうちながらKを見ました。Kは自室の机の前で書物に目を落として平然としています。こんな焦燥に駆られてやきもきしているのは私ばかりのように思えてきます。そう思うと次第に私の中に怒りが込み上げてきました。
力強く請け負ったKに奥さんは安堵の色を見せました。ですが、私は平静を装いながらも、Kの言葉を露骨な点数稼ぎと感じて、腹の底ではカッカと熱いものを滾らせていたのです。何が「僕が守りますよ」だ。いざとなったら自分だって二人を守るに決まっている。Kにばかり良い格好をさせる気などない……。
そんな自負に駆られながらも、しかし、私ははたと気付きもしたのです。
そう思ってKの姿を見つめました。細身ながらも引き締まったKの筋肉と、彼の涼やかで鋭い眼差しを。
ごくり、と私は息を飲みました。
仮に私がKにお嬢さんへの想いを伝えたとして、です。Kが私への恩義を感じて引き下がってくれるなら重畳ですが、もしも彼が我欲を優先したならば……あくまでお嬢さんを手に入れるべく、私との凄絶なレースに挑まんとするならば……親友は……Kは……恐るべき敵となって私の前に立ちはだかるに違いありません。私は暗澹たる未来をそこに見てしまったのです。
ですが、深く沈んだ私の思念は、次の瞬間に再び現実へと引き戻されました。
玄関から響いた、耳をつんざく女の悲鳴によって。
果たして、私がKと共に玄関へと駆けつけますと、目の前に現れたのは、顔の半ばを赤黒い血に染めたお嬢さんの姿だったのです。