三、話しましょう。私の過去を残らず、あなたに話して上げましょう
文字数 905文字
ある日、私は突然国へ帰らなければいけない事になった。
父が危篤に陥ったのだ。四年前に噛まれたゾンビの毒が父の全身に回り、AZNAS(註:ゾンビ症進行抑制剤)の服用も限界に達していた。
先生からの郵便物が届いたのはそんな時であった。
全身を棘付きプロテクターで覆った兄が分厚い封筒を私に差し出してきた。
自室に篭もり、包み紙を引き裂くように破ると、中から出てきたものは大量の原稿用紙であった。だが、それに目を通し始めてすぐに、私は立ち上がっていた。
「私は何千万といる日本人のうちで、ただあなただけに、私の過去を物語りたいのです。あなたが無遠慮に私の腹の中から、或る生きたものを捕まえようという決心を見せたからです。私の心臓を立ち割って、温かく流れる血潮をゾンビのように啜ろうとしたからです」
そこには先生の犯した過去の罪が――、そして、いまだ世間の人々が知る由もなき、ゾンビアポカリプスにまつわる恐るべき真相が克明に描かれていた……。