四、私の罪は、幼馴染みのKという男を下宿先に招いたことから始まりました――。
文字数 1,177文字
*先生からの手紙*
Kは無感動的にこう答えました。私からしてみれば「悪くない」などというものではないのです。Kの環境はこれで劇的に改善されるはずだったからです。
Kは私の隣の部屋の四畳を我が部屋として腰を落ち着けました。狭苦しい上に、私が自室へ行くためにはKの部屋を通らざるを得ず、不便この上ありません。しかし、Kにとってはこれも歓迎すべき逆境だったのかもしれません。
私がなぜ彼を自分の下宿へと引き込んだのか? Kもまた国許での問題を抱えている身だったからです。
奥さんとお嬢さんに私は繰り返し懇請しました。
私がそう言うと、二人は互いを見合わせて、はにかんだ顔で笑いました。私がこの家に来たばかりの時のことを思い出したのかもしれません。
あの頃――、私には多分に刺々しいところがありました。目つきも不安げできょときょとしていたと思います。国許での事件が私の気持ちを厭世的にさせていたのです。叔父に裏切られた私は「人は信用できないものだ」と思い込み、親類のみならず人類をも敵視するに至っていました。ですが、奥さんとお嬢さん。二人との触れ合いが私の凝り固まった神経を少しずつ解きほぐしていったのです。
二人はそんな私にも暖かく接してくれました。茶を入れたからといって向うの部屋へ呼ばれる日もありました。次第に私の方で菓子を買って来て、二人をこっちへ招いたりするようにもなりました。おかげで私の凝り固まった神経も次第に緩んでいき、やがて私たち三人は顔さえ見ると一緒に集まって世間話をしながら遊ぶようになったのです。
奥さんとお嬢さん――、二人の温かな心が私を救ってくれたように、Kの頑なな心をも二人が解きほぐしてくれることを私は期待していたのです。あの頃の自分と同じように……。