十二、お嬢さんは、必ず僕たちが助けます
文字数 1,800文字
私の三池典太が宙に銀色の光線を描き、ゾンビの身体から腐った頭が毀れ落ちました。
Kの甕割ノ太刀が唐竹割りにゾンビの頭頂へ喰い込み、そのまま腐肉を一刀両断します。その勢いのままにKが駆けました!
猿叫を響かせながら、荒れ狂う暴風のように甕割ノ太刀を振り回し、モーセの如くに腐肉の海を掻き分けて行くのです。Kの切り開いた活路を後ろから辿りながら、私は三池典太を閃かし、横合いのゾンビを斬って捨てると武装垣根の上へと躍り上がりました。
私は刹那の内に戦況を分析しました。Kの斬撃は凄まじく鬼神の如しです。ですが、このまま街中のゾンビを集めてしまえば、多勢に無勢、いつかは限界が訪れます。状況を打開すべく私は周囲に視線を走らせ、そして、Kに向けて叫びました!
逃げ出そうとしてゾンビに襲われた家族の遺物でしょうか。長持ちや米俵の積まれた大八車が路上には投げ出されていたのです。
私は武装垣根の上を突き走り、崩れた垣根のところに飛び降りると、
落下の力を用いて、その場のゾンビ四体を斬撃にて排除。「今だ!」とKに叫びかけます!
私も大八車に取り付き、Kと二人で全身の筋肉を総動員します。私の両腕にも異様なる力瘤が盛り上がり、二人の若き力が大八車をひっくり返しました。横転した大八車の車体が、崩れた垣根をちょうど蓋するかのように塞ぎ、さらに崩れ目から長持や米俵がこぼれました。
私とKは前方三回宙返りで垣根を飛び越え、中に侵入していたゾンビを切り伏せると、玄関へと到着! 佩刀にこびりついたゾンビの血を一振りして振り払い、奥さんの前で互いの宝刀を鞘へと収めました。
全身を返り血にまみれさせ、鬼神の如き働きを見せた二人の学生を前に、奥さんはわなわなと震えながら尋ねました。
私たちは奥さんを安心させるべく、できるかぎりの静やかな声音で告げました。
ですが、その時の私たちからは隠しきれぬ凶暴な剣気が漏れ出ていたことでしょう。
私たちは声を揃えて、「僕の――」と言いました。
柳生一族の御曹司にて門下から「若先生」と呼ばれし過去を持つ私。そして、小野宗家の血を引き、あまりの剣気の横溢ゆえに一門を追放されながらも、なお剣の道を究めんとする男、K。
柳生新陰流に小野派一刀流――、将軍家指南役として名を知られ、三百年の昔から互いに覇を競い合った両派。私とKは明治の新時代を駆ける二人の若き剣客だったのです。ですが、私たちの剣技を持ってしても房州を目指す旅路はあまりに険しく、ゾンビアポカリプスは私たちの若き心と肉体を容赦なく打ちのめしたのです。