十一、すぐにここにもゾンビが雪崩れ込んで……

文字数 484文字

「奥さん!」

 玄関先で、奥さんはざるいっぱいの茄子を抱いたまま倒れていました。

「奥さん、怪我は? 噛まれていませんか!?」

 Kが奥さんの安否を尋ねます。幸いにも奥さんに怪我はありませんでした。

「ゾンビは振り切ったのだけど……垣根が崩されて……」

「なんだって!?」

「すぐにここにもゾンビが雪崩れ込んで……早く、娘を連れて逃げなきゃ……」

 私とKは互いに顔を見合わせました。

「ごめんなさい! ごめんなさい! 私が! 私が……」

 奥さんは息せき切らしながら何度も私たちに謝ってきます。


 ですが、私たちは同時に奥さんの手を取り、立ち上がらせました。それから、散らばった茄子をざるに集めて、奥さんの手に握らせました。私は言いました。


「お嬢さんのために、茄子を集めて来たのでしょう」

「決死の覚悟で、ただ、死にゆくお嬢さんのためを想って……」

 Kも言いました。そして、私たちは声を合わせて――、

「お嬢さんのために命を賭けるのは、僕たちも同じです」

 そう言い放ち、同時に腰の得物を抜き放ったのです。銀色の輝きを発する鋭利なる刃を。私の愛刀、三池典太を――、Kの佩刀、甕割ノ太刀を――。

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登場人物紹介

■先生
帝大の学生。叔父に裏切られ、逃げるように故郷を捨ててきた過去を持つ。下宿先のお嬢さんに恋心を抱いている。だが、同郷の幼馴染である親友Kを下宿先に招いたことから悲劇の三角関係が始まってしまう上に、突如としてゾンビ・アポカリプスが訪れたので、ゾンビと三角関係の二重苦に苦しむこととなる。実は柳生新陰流の使い手であり、様々な兵法を用いてゾンビ難局を乗り越えていく。

■K
帝大の学生。実父や養父を偽って進学先を変えたために勘当されてしまい、今は内職と学問の両立に苦しんでいる。そんな姿を見かねて先生が下宿先へと彼を招いたことから悲劇が始まる上にゾンビ・アポカリプスが突如として訪れたので、先生と共に房州へと旅立つこととなる。

■お嬢さん
先生とKの下宿先のお嬢さん。叔父に裏切られ荒んでいた先生の心を癒やしたことから、先生に恋心を寄せられる。Kとの仲も満更ではなさそうだが、お嬢さんの気持ちは未だ不明である。ゾンビ・アポカリプス初期にゾンビに噛まれてしまい、半ゾンビ状態に陥る。好物の茄子を食べた時だけ、一時的に正気に戻る。

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