第7幕

文字数 996文字




 メイリルはそこまで見届けると、少年の左胸に長らくあてがっていた右手を引っ込めた。

 差し当たり、この少年に必要なのは、充分な休養と、精気を養えるような濃密な栄養源だった。

 けれども、それらが明白になったところで、このまま伯父の許に置いておいたとしても、面倒を見切れるものではないだろう。

 勿論、少年の世話に関しては、使用人に任せるつもりでいるだろう。

 それでも、多少なりともエネルギー的な変化に対応出来るメイリルが引き取る方が、最善の道のように思われた。

 それに、人の姿となった花の種子が紡ぐ物語の先を、もう少し、見守っていたくもあった。

 そこでメイリルは、すっくと立ち上がると振り返り、鉄格子越しに、伯父と向き合う格好になった。

 それから、芝居がかった厳かな声音で、こう報告した。

「伯父上、この少年は、ある花の種子が人の姿に化けた物の怪です。

 ですから、物の怪の取り扱いに関しては専門家である私が、引き取って参ります。

 異存はございませんね?」

 するとデュファンは、少々戸惑った表情を浮かべながらも、頷いた。

「あ、ああ。それは別に、構わんが…‥。

 しかし、物の怪を引き取って、一体どうするつもりなのだね?

 まだ嫁ぐ前の若い娘が、物の怪の世話などしていたら、寄り付く男も寄り付かん。

 そなたはただでさえ、占星術師などという、到底理解の及ばぬことをやっておるのだからな」

 メイリルは、それを聞いた瞬間、内心では呆れ返ったが、賢明にも、態度に出すことはしなかった。

 寧ろ、大袈裟なくらいの満面の笑みを湛えて、こう言ってのけた。

「伯父上、そこまで心配して頂けるなんて、お心遣い、痛み入りますわ。

 けれど、たとえ物の怪付きでも、それを含めて、私を愛すると言って下さる殿方が、私にとって、本当の運命の相手だと思っておりますの。

 物の怪の存在は、そのための選別材料にもなりますし、度胸のない殿方を遠ざけておくためには、却(かえ)って好都合ですわ」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

・・・ 第8幕へと続く ・・・



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