第7幕
文字数 996文字
メイリルはそこまで見届けると、少年の左胸に長らくあてがっていた右手を引っ込めた。
差し当たり、この少年に必要なのは、充分な休養と、精気を養えるような濃密な栄養源だった。
けれども、それらが明白になったところで、このまま伯父の許に置いておいたとしても、面倒を見切れるものではないだろう。
勿論、少年の世話に関しては、使用人に任せるつもりでいるだろう。
それでも、多少なりともエネルギー的な変化に対応出来るメイリルが引き取る方が、最善の道のように思われた。
それに、人の姿となった花の種子が紡ぐ物語の先を、もう少し、見守っていたくもあった。
そこでメイリルは、すっくと立ち上がると振り返り、鉄格子越しに、伯父と向き合う格好になった。
それから、芝居がかった厳かな声音で、こう報告した。
「伯父上、この少年は、ある花の種子が人の姿に化けた物の怪です。
ですから、物の怪の取り扱いに関しては専門家である私が、引き取って参ります。
異存はございませんね?」
するとデュファンは、少々戸惑った表情を浮かべながらも、頷いた。
「あ、ああ。それは別に、構わんが…‥。
しかし、物の怪を引き取って、一体どうするつもりなのだね?
まだ嫁ぐ前の若い娘が、物の怪の世話などしていたら、寄り付く男も寄り付かん。
そなたはただでさえ、占星術師などという、到底理解の及ばぬことをやっておるのだからな」
メイリルは、それを聞いた瞬間、内心では呆れ返ったが、賢明にも、態度に出すことはしなかった。
寧ろ、大袈裟なくらいの満面の笑みを湛えて、こう言ってのけた。
「伯父上、そこまで心配して頂けるなんて、お心遣い、痛み入りますわ。
けれど、たとえ物の怪付きでも、それを含めて、私を愛すると言って下さる殿方が、私にとって、本当の運命の相手だと思っておりますの。
物の怪の存在は、そのための選別材料にもなりますし、度胸のない殿方を遠ざけておくためには、却(かえ)って好都合ですわ」
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・・・ 第8幕へと続く ・・・
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