第9幕
文字数 931文字
少年の瞼(まぶた)に閉じ込められていた秘宝は、黄水晶の煌めきを放っていた。
その蠱惑(こわく)的な澄んだ煌めきが、柔らかく波打つ白銀色の髪の毛を引き立たせている。
その魔性が宿る妖艶な魅力に、メイリルの心は、一瞬にして、完全に虜(とりこ)になってしまったのだった。
それにしても、本質は花の種子である少年が、一体何を口にするものなのか、メイリルには見当が付きかねた。
仕方がないので、思い付く限りのそれらしき食べ物を、片端から少年に差し出してみた。
蜂蜜、果物数種類、葉物野菜、根菜類、木の実、鶏卵、山羊の乳、花弁の砂糖付け、黒砂糖、焼き菓子、蜂の子の甘露煮、豆の煮付け、海藻、穀類、オリーブオイル、茸類、貝類などの類いである。
ところが、その中のどれ一つとして、少年が口に入れた食べ物はなかった。
流石に水分は含むようだが、水だけでは、失った精力を取り戻すのは難しい。
そこでメイリルは考えた末、自分の血を与えてみようと思い付いた。
血液には、様々な栄養素が溶け込んでいる。
それも新鮮な生き血であれば、必要な栄養素はある程度、補えるのではないかと思われた。
そこでメイリルは、簡易寝台に腰掛けると、左手の人差し指の先端に、小型のダガーナイフの切っ先を、軽く押し付けた。
その途端、みるみるうちに、ルビー色の鮮血が珠になり、棘が深く刺さった時のように、ずくずくと疼き始めた。
その指先を、恐る恐る、少年の口許へと近付けた。
すると、少年は、差し出されるままに、あっさりと口に含んだ。
そして、指先の傷口を癒すようにして、血の雫を、舌先でゆっくりと舐め取り始めた。
柔らかな唇の感触と、湿った舌先の生温い温度。
軟体動物のようなそれらの蠢(うごめ)きが、メイリルの身体の芯を煽り、熱く火照らせる。
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・・・ 第10幕へと続く ・・・
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