第1幕
文字数 996文字
メイリルの伯父であるデュファン総督から送られてきた書状には、こんな内容の文章が綴(つづ)られていた。
『国境近くで、物の怪を捕獲した由(よし)。
ついては、専門家であるそなたに、協力を頼みたい。
至急、総督邸まで来られたし』
そんなふうに、泡を食った文章が、二本の剣が交差する厳めしい紋章入りの便箋に、実に堂々とした筆跡で並んでいた。
その組み合わせのちぐはぐさが可笑しくて、メイリルは目を通しながら、思わず笑みを零していた。
だが、完全無欠の堅物で通っている、名物総督である伯父が、姪にまで弱みを見せて協力を要請してくるとは、只事ではなかった。
デュファンは元来、唯物論者であり、占星術師などという、訳の分からぬことを生業(なりわい)としているメイリルの存在には、普段から殆(ほとん)ど関心を払うことなどなかったものだから、尚更只事ではなかった。
そこでメイリルは、二頭立ての馬車を仕立てると、小高い丘の上に建つ、堅牢な石造りの総督邸へと駆け付けた。
けれどもデュファンは、呼び出し早々に姿を現したメイリルの顔を見ても、強面(こわもて)の表情一つ変えるわけではなかった。
そのことから察するに、自分の手には負えないと判断して、取り敢えずそういった分野に詳しそうな姪を呼び出してはみたものの、それで問題が片付くとは考えていないようだった。
「伯父上、書状を拝見致しました。
それで、その物の怪とやらは、一体何処にいるのです?」
メイリルは、腰まで伸ばした亜麻色の長い髪の毛で、数十本もの細い三つ編みを作り、それらを顔の両脇で、二つの輪っかにして纏(まと)めていた。
そうして、頭の上からは、古代紫色のベールを被り、それを顔面に垂らしていた。
そんな一風変わった出で立ちは、メイリルにとっては、集中力を最大限に高めて、占いの精度を上げるために必要なものだったが、デュファンにとっては、不可解な格好でしかないらしかった。
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・・・ 第2幕へと続く ・・・
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