第10幕
文字数 995文字
少年は、メイリルの指先を充分にしゃぶり尽くすと、そこからゆっくりと唇を離した。
それから、焦点の定まらない潤んだ瞳で、メイリルをぼんやりと見詰めた。
メイリルはその時、少年に抱き締められたくて仕方がなかったが、血を吸ったことで満ち足りたのか、その瞼(まぶた)はとろんと重たげに垂れ、やがては完全に閉じてしまった。
こうして少年は、再び深い眠りに就いた。
メイリルは、その安らかな寝顔を眺めながら、今度はいつ目覚めるのだろうかと不安になった。
まだ唾液で濡れたままの人差し指が、空気に晒(さら)されてスウスウし、それが一層、寂しさを募らせた。
次に少年が目覚めたのは、眠りに就いてから、丸一日が経過した時だった。
そのたった一日の間に、柔らかく波打つ白銀色の髪の毛が、肩先まで伸びただけでなく、何処となく大人びた顔付きにもなっていた。
そしてメイリルの顔を見るなり、当然のように、彼女の手を掴んで、人差し指を口に含むのだった。
けれど、いくら吸っても、そこから血が出てこないことを確認すると、不思議そうな眼差しで、メイリルを見詰めた。
そこでメイリルは、左手の人差し指に新たな傷口を作り、そこから滴る鮮血を、待ち構えている少年に与えた。
そうすると、少年は、血を綺麗に舐め尽くし、その後で、再び深い眠りに就いた。
まるで、授乳と睡眠だけが仕事の乳飲み子のようだった。
その乳飲み子に、はっきりと欲情している己を、メイリルは持て余し、熱い吐息を漏らすしかなかった。
それから、少年はまた一日後に目を覚まし、腹を空かせた乳飲み子のように、メイリルの血を欲しがるのだった。
そうして、その時にはまた少し、容貌が大人に近付いていた。
そんなことを、十日ほど繰り返した。
そして、十日目に目覚めた時には、少年は、もう少年ではなくなっていた。
その顔付きも身体付きも、元々の優美さは損なわれていないものの、すっかり精悍な青年に変貌していたのだ。
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・・・ 第11幕へと続く ・・・
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