第3幕

文字数 1,051文字




 それはどうやら、人の形を取っているようではあった。

 だが、如何(いかん)せん波動が乱れ過ぎていて、身体の一部分が突如消えたり、そうかと思えば、輪郭が三重にぶれて見えることもあった。

 メイリルは、独房の鉄扉を解錠してもらうと、用心深く、その中へ足を踏み入れた。

 それから、物の怪の傍に静かにしゃがみ込むと、その存在が不安定な身体へと向けて、恐る恐る手を伸ばした。

 その途端、雷にでも触れてしまったかのように、指先に強い痺れが走った。

 その衝撃はあまりにも大きく、その余波は腕のみならず、心臓にまで達し、暫くの間、まともに息が継げないほどだった。

「メイリル、痛手を負ったのか?」

 独房の外側で、様子を見守っていた伯父が、異変に気付いて、咎(とが)めるようにそう声を掛けてきた。

 メイリルは、何度か深呼吸を繰り返し、どうにか平常心を取り戻すと、背後に控えている伯父に、しっかりとした口調で、言葉を返した。

「大丈夫ですわ、伯父上。

 少しだけ、驚いただけですから」

 そのまま不可解な存在の物の怪を前にして、メイリルは考え込んだ。

 この存在の正体が何であるにしろ、今のままの状態では、どんな手立ても講じられない。

 とにかく、この激しい波動の乱れを、何とか修復する必要があった。

 そうして、それに関しては、メイリルに一案があった。

 ただ、その手法が、こういった場合に有効かどうかは分からなかったが、試してみる価値はありそうだった。

 メイリルは、一旦独房から退くと、デュファンに向かって、こう声を掛けた。

「伯父上、一つ、お願いがございます。

 この近辺にある森の奥に、人知れずひっそりと沸き出る、澄んだ泉がありますでしょうか?

 もしあるのなら、今宵、そこに遣いの者をやって、0時きっかりに、水を汲んできて頂きたいのです。

 量は…‥そうですね。

 水瓶五つ分ほどあれば、足りると思います。

 お願い出来るでしょうか」

 すると、デュファンは怪訝な顔をして、こう返してきた。

「それは、別に、構わんが…‥。

 しかし、その水を、一体何に使うつもりなのかね?」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

・・・ 第4幕へと続く ・・・


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