第12幕

文字数 965文字




 メイリルが、黒い種子を育てる場所に選んだのは、人の立ち入らない森の奥に湧き出(い)ずる、澄んだ泉の畔(ほとり)だった。

 けれども、実際に開花した姿を目にするまでには、実に七年余りもの歳月を必要とした。

 そのことは、花の種子の波長を読み取った時点で、予(あらかじ)め分かっていたことだった。

 それと、花の品種は月下美人で、例え開花したとしても、一晩限りで、萎(しぼ)んでしまうことも。

 結局、恋も花も、一夜限りというわけだ。

 何と儚い命なのだろう。

 それにしても、儚さというものは、男の専売特許かも知れないと、メイリルはつくづくと思う。

 大体、女が儚く出来ていたなら、子孫を残すという役割を果たせなくなる。

 元来、男よりも図太く出来ているのが、女というものなのだろう。

 そうして、遂に月下美人が初めて開花するという夜、メイリルは、左手に籐(とう)で編まれた籠(かご)を提げ、右手では、六歳くらいの女の子の手を引きながら、森の奥にひっそりと湧き出ずる泉へと向かった。

 女の子は、透き通るような白い肌に、艶のある亜麻色の髪の毛と、澄んだ琥珀色の瞳が映える、誰もが目を見張るような美少女だった。

 そのアーモンド型のくっきりとした瞳には、生き生きとした好奇心の光が宿っていた。

 それから、女の子のぷくぷくとした右手には、一本の細長い木の枝が握られていた。

 その先には蜂蜜が塗ってあり、その甘い匂いに引き寄せられたスピカ達が、びっしりと群がっている。

 スピカは、このディアモーガン大陸では良く見られる、夜光性の羽虫だった。

 半透明の翡翠(ひすい)色に金粉をまぶしてあるような、不思議な色合いの光を放っていた。

 折しも天空では、満月が輝いていた。

 深い森の中を進んでいくにしても、木の間から零れる白銀色の月の光と、束になったスピカの光源があれば、不案内な足許を照らすには充分だった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

・・・ 13幕へと続く ・・・



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