第2幕
文字数 1,058文字
書斎でメイリルを出迎えたデュファンは、姪の姿を胡散臭そうに見やり、そして答えた。
「一先(ひとま)ずは、地下の独房に据え置いておる。
そこで三日前から様子を見ているが、我々に危害を加える気はなさそうだ。
だが、ほとほと手を焼いておるのは、どうやって扱ったら良いものか、さっぱり見当が付かんからなのだ。
果たして、実体があるのかどうかすら、定かではない。
私も四十八年生きてきて、実に様々な案件を扱ってきたものだが、今回ばかりは、どうにも手に負えんのだよ。
致し方ないが、そなたの力を借りるしかない。
申し訳ないが、私と一緒に、地下牢まで様子を見に行ってはくれぬか」
不本意ながらも頼んでいるという傲岸(ごうがん)な態度が、ありありと感じ取れた。
けれどもそれは、他人に頭を下げることを良しとしない、高慢な伯父の性分を考えれば、致し方のないことではあった。
メイリルは身内なだけに、その辺りのことは心得ていた。
それよりも気になったのは、百戦錬磨の勇将と名高い伯父を、これほどまでに参らせている、物の怪の存在だった。
デュファンは物の怪と呼んでいるが、実際にはもっと別の、霊妙な存在なのだろう。
それが無骨なデュファンに掛かると、物の怪一辺倒となってしまうところが面白かった。
メイリルは、わざと澄ました顔をして承知すると、地下牢へと向かう頑健な伯父の背中に付き従った。
薄暗い地下牢に漂っているのは、ひんやりとした冷気と、黴(かび)臭い腐臭だった。
メイリルは思わず、レースの襞飾りが付いたブラウスの袖口を、鼻の辺りにあてがった。
ブラウスには香が焚き染めてあり、沈みそうになったメイリルの気持ちを、白檀(びゃくだん)の仄かな香りが慰めてくれた。
そうして、デュファンが物の怪と称した存在を、初めて目にした時、それは瀕死の状態で、横たわっているかのように見えた。
けれども実際には、デュファンよりも不可思議な現象に通じているメイリルにとってさえ、その正体が何であるのか、それが今どういった状態にあるのか、はっきりと見定めるのは難しかった。
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・・・ 第3幕へと続く ・・・
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