第6幕

文字数 1,170文字




 そして幸いなことに、波動が整ってからの少年の波長は、メイリルが同調しやすいものに変わっていた。

 少年の呼吸のリズムに合わせ始めてから間もなく、メイリルの意識の中に、様々な映像が、怒濤(どとう)のように流れ込んできた。

 それらの映像は、単なる映像として眺めていると、てんで意味をなさない、支離滅裂なものでしかなかった。

 そこを時系列として並び替えていくためには、全ての映像を何度か繰り返し眺めて、勘を頼りに、隣り合う映像を選び直す必要があった。

 そのような気の遠くなる作業の果てに、メイリルが読み解いた物語は、ある花の種子の存亡の危機に関する物語だった。

 このディアモーガン大陸では、ランドラン王国とムスタファ王国という、ほぼ隣り合う国が、大国として名を馳せていた。

 ところが、ランドラン王国の当主が代替わりした途端、嵐が頻発するようになった。

 先祖代々、ランドラン王国に根付いてきたその花は、突然頻発するようになった嵐によって、その土地での繁殖が、危ぶまれるようになってきていた。

 度重なる嵐に翻弄されてしまい、花弁が千切れ、茎が折れ、場合によっては、根こそぎ掘り起こされることもあった。

 植物としての安寧がすっかり奪われてしまったのだ。

 そうして、遂には最後の数粒となってしまったその花の種子は、住み慣れた土地から、出て行くことを決意する。

 その方法として思い付いたのが、次に巻き起こる嵐の勢いに乗って、空中を旅していくことだった。

 ところが、その通りに実行してみたのは良いものの、空中を運ばれていく過程で、嵐の勢いにもみくちゃにされてしまい、ほぼ隣国であるムスタファ王国に辿り着いた時には、瀕死の状態に陥っていた。

 その状態のままで放置していては、いずれ精気が抜け落ちていき、干涸(ひから)びることになってしまう。

 そこで、その種子が着地した場所に繁茂していた植物達が、人の姿を取れるようにと、エネルギーを結集させることになった。

 胡麻粒のような種子のままでは、見向きもされないだろうが、とにかく人の姿を取ってさえいれば、発見されて、助けられる可能性が高まると考えてのことだった。

 けれども、いざ人の姿を与えてみると、波動の乱れが激し過ぎて、そうとは認識されないという有様だった。

 総督直属の警備隊が、見回りの際に、国境地帯で発見したのは、少年が、この状態でいる時だったのだ。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

・・・ 第7幕へと続く ・・・



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