第4幕
文字数 980文字
「折しも、今宵は新月なのです。
新月の晩は、浄化のエネルギーが最高潮に達する時。
そんな新月の波動が、最も浸透しやすいのが、澄んだ水なのです。
ですから、その水を使えば、この物の怪の乱れた波動を、鎮(しず)めることが出来るかも知れないと考えたのです」
デュファンは、落ち窪んだ両目を、興味深げに見開いた。
「浄化のエネルギーを宿した水を使えば、波動の乱れを鎮められると考えるのだな?」
「はい。浄化とは、その者が持つ波動の状態を、本来の状態に戻すことです。
それが可能になれば、物の怪の正体も自ずと明らかになり、しかるべき対処が出来るようになると思います」
「なるほどな。良し、分かった。今すぐに手配しよう」
こうして、泉の水を確保する手筈は、早急に整えられた。
明くる午前四時、メイリルが改めて地下牢へと降りていくと、青磁(せいじ)色の水瓶に湛(たた)えられた水が五つ分、独房の中に用意されていた。
そうしてその傍らには、伯父の屋敷の使用人が一人、畏(かしこ)まった体(てい)で控えていた。
デュファンはこんな早朝でも、物々しい軍服にきっちりと身を包み、猛禽類のような隙のない風情を漂わせ、独房の外側に佇んでいた。
そしてメイリルの顔を見ると、重々しく頷いてみせた。
「こんな時間に呼び出して済まなかったな。
後は頼んだぞ」
メイリルは伏し目がちに頷くと、押さえてもらっている鉄扉を潜り、寒々しい独房の中へと入っていった。
ごつごつとした煉瓦敷きの床の上には、物の怪の肉体が沈み込むようにして、横たえられていた。
その乱れに乱れた波動を眺めていると、次第に気が滅入ってくるほどだった。
肉体を形成する輪郭が、三重や四重にぶれつつ、頭や腕や腰や脛(すね)等が、いくばくかの間消えたと思えば、次の瞬間には、ふっと現れたりする。
まるで多次元の間を、忙しなく行ったり来たりしているかのようだった。
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・・・ 第五幕へと続く ・・・
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