第14幕

文字数 838文字




 するとジュディスは、スピカが群がっている木の枝を、近くの大木の幹に立て掛けた。

 それから、青銅製のカップを両手で持ち、泉の畔(ほとり)に跪 (ひざまず)くと、その中に、澄んだ水を満たした。

 メイリルは、ジュディスからそのカップを受け取ると、その中味を、月下美人の茎の根元へと注いだ。

「少しだけ、分けてちょうだいね」

 そう言い置くと、月下美人の花の中から、純白の花弁を、何枚か千切り取った。

 そうして改めて、二つのカップに泉の水を満たすと、真珠色の満月が映り込んでいるその水面に、純白の花弁を、小舟のように浮かべる。

 ジュディスはその間、月の光を弾く妖艶な月下美人の花を、熱心に見上げていたが、やがてこんな疑問を口にした。

「お父様は、ずっと咲いてるの? これからいつでも、逢いに来られるの?」

「ジュディス、いいえ。お父様が咲いていられるのは、今夜一晩限りなの。

 だけど、来年には、またきっと咲いてくれるわ。

 そうしたら、またここに来て、もっと大きくなったジュディスを見てもらいましょう」

 するとジュディスは、満開の月下美人のように、笑顔を咲き零れさせ、思い切り頷いてみせた。

「うんっ!! ジュディス、もっと大きくなるの。

 大きくなって、可愛い妖精になったところを、お父様に見てもらうの」

 ジュディスは常々、大きくなったら妖精になると言い張っていた。

 そんなことを無邪気に思い込める年頃なのだ。

 メイリルは、そんな娘を微笑ましく見詰めているうちに、ここ数年の自分の人生が、走馬灯のように去来していくのを感じていた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

・・・ 第15幕へと続く ・・・


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