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文字数 811文字

 もう少しだけ、桜田先輩と話をしていたかったのに。
 写真を受け取らないあたしに桜田先輩は不思議そうな顔をして、次第に不安を帯びていく。首を傾げるとスイトピーの(つる)みたいに髪の毛が揺れて、そこから初めて会ったときと同じ、桜の匂いがした。

「ごめん、何か気に障った?」
「……いえ、先輩がさっさと出ていこうとするから」
「あ……いや、そういうわけじゃ……」

 桜田先輩はクールで美人で、大人しいタイプ。だけど嘘をつくのは下手なんだろう。鈍いあたしでも分かってしまう。

「あたしのこと、嫌いですか?」

 あたしは写真を受け取る。桜田先輩は困ったように首を横に振るだけだった。



 もらった写真を早速央ちゃんに見せた。央ちゃんはあたしのものまねのファン第一号なだけあって、写真だけで何の真似をしているのかすぐ分かるらしい。央ちゃんのお気に入りは『気分が上がりすぎたジャズピアニストものまね』なので、その写真を見るなり腹を抱えて笑いだす。

 写真は全部で十三枚。何回も何回も央ちゃんはそれを見ていた。流し見ではなくてひとつひとつじっくりと。その度に「これいいなあ」と冬眠から目覚めたクマさんみたいな口調で呟いた。

「俺もこの写真好きだよ。はは、この写真なんて最高だ」
「うん、先輩もその写真がお気に入りなんだって。それ、コンクールに出すらしいよ。その写真が賞を取ったら、ホームページとかにでーんと載るのかな」
「想像したら面白いな、それ」

 央ちゃんは写真を見て、それからあたしの方に視線を移す。そしてまた写真へ戻る。

 ──なんで今あたしを一回見たんだろう、変なの。

 いいなあ、と央ちゃんがしきりに言うので一枚あげようかとからかってみたら、央ちゃんは目をこれでもかと見開く。そのまま目玉が飛び出てしまいそうだ。ひょっとこのお面みたいな顔になっていて、あたしは笑いを堪えられない。

 いらないよ、と震える手で写真を手渡してきた。震えるほど笑わなくたっていいのに。
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