#92 その救いの手
文字数 14,037文字
いつの間にか抗体が出来でもしたのか、即座に『カウダの毒消し』を使ったからか、体の強張りが前よりもマシだ。
必死に体を動かし弓を構える。
子どもの姿をしてようが飛んでようが『虫の牙』を奪った時点で明確な敵――それもタール絡みの恐らく『魔動人形』。
矢をつがえた途端、その飛んでいる敵から嫌な消費命 の集中を感じた。
とっさに後退 る。
向こうが魔法を『魔法転移』する可能性に対しては細かな位置の移動が有効――これがまた油断だったのか、それとも完全に向こうが上手 だったのか、そもそも俺の作戦が穴だらけだったのか、俺が『遠回りドア』に囲まれた領域から外へ出ざるを得なかったその瞬間、体が硬直したのを感じた。
最初の術者か? エルーシ以外の。
だが消費命 の集中は感じずに、魔法代償 の消費だけを感じた。しかもすぐ近くで――ということは、事前に集中しておいた消費命 を俺に触れてから魔法代償 へと換えて発動したということ。
直後に風を感じる。こっちは例の飛んでいる奴の方から。
弓の弦が切れ、自分の腕や首にも何か冷たいものが当たった感覚。
矢も鏃 付近で切断されたような。
『カマイタチ』という単語が頭をよぎる。
切れた弦と矢、首までを結んだ直線上にあった腕部分の服が裂けている。
だが傷はあるものの出血した感じはない――つまり最初のは『皮膚硬化』か。
タールの『魔動人形』を含めた熟練の魔術師が二人にエルーシ。マジか。
対タール戦の逆じゃないか。
あのときはタール相手にメリアンとオストレアと俺の三対一だった、なんて余計な思考が多い。
戦闘に集中しろ。
偽装消費命 で『時間切れ』を自身へとかける。
これはかつてウォルラースと戦ったときに『皮膚硬化』を防御ではなく相手への拘束手段として使われたことへの対策として考えた魔法。
『遠回りの掟』は物理的運動の時間を「遠回り」させるという思考だったが、これを逆に応用して、自分にかけられた魔法ついて効果時間を『近道』させるという思考で試しに作ってみたらうまくいったもの。
『皮膚硬化』が終了し、皮膚の硬化がなくなったのを感じる。
だがしかし。人数的に不利な状況は変わらない――ただ『皮膚硬化』をかけたってことは生け捕りが目的ってことだよな。
なら多少の無茶はできるということだ。
少なくともあの『魔動人形』だけは叩き壊す。
『魔力感知』ではエルーシはまだつるつるしてて、マドハトはこちらへ向かっている。
チェッシャーの幻影はまだ残っているが、あれは俺の中の記憶を映しているのか、さもなくば――いや『魔動人形』に集中するべきだ。
その『魔動人形』と決めつけた河馬種 の男の子の方だが、飛ぶのをやめて着地した。
「飛ぶ」という魔法自体、必要とされる魔法代償 がとんでもないものになるだろうことは以前にカエルレウム師匠から聞いた通りのはず。
それに対してこいつが飛んでくる前に集中された消費命 は、一部を偽装消費命 してたとしてもそんなに多くはなかった。
ディナ先輩のお母さんがディナ先輩を逃すときに使った精霊魔法は精霊との契約が大前提で、使用者の死とともに契約が解除されるはずだから、タールがディナ母の死体を『魔動人形』化している時点で違う可能性が高い。
となるとやはり種族魔法の可能性が高まる。
マドハトが『大笑いのぬかるみ』をこいつの居る場所へかけ、こいつが足を滑らしかける。
消費命 の集中。俺も偽装消費命 で消費命 を集中しつつ動き、さっき切り落とされた鏃を拾う。
向こうの方が早い――滑らせかけた足を踏ん張りやがる。ぬかるみの範囲外へ、巨大化した足で。
大きくなったのは足だけじゃない。男の子くらいの大きさだった体全体が、森の樹々の間で窮屈さを感じるほどに。
間違いない。子どもくらいの大きさ、醜悪な容姿、風を使い、いま予想通りに巨大化した。
こいつは地界 の住人、スプリガンだ。
タールは珍しい種族を『魔動人形』化してたって聞いてるから、スプリガンでもおかしくはない。
新たなる消費命 を偽装消費命 で用意しつつ指弾の構え、魔法を付与した鏃をセットする。
即座に強力な『発火』を『遠回りの秘密』した鏃を『超見えざる銃』で発射する。
『超見えざる銃』は『見えざる銃』よりも威力が高い。『遠回りの秘密』は、『遠回りの掟』をもとに一時停止する時間を最小0.1秒から最大12.0秒までの間で刻み0.1で自由に設定できるようにしたもの。しかも対象には魔法も選べる。今のは0.5秒。
巨大化したスプリガンなどいい的だ。
鏃は見事命中し、いいタイミングで大きな炎が燃え上がる。
スプリガンの体は風を溜め込んで膨らんでいるだけ。火傷も伴えば傷を治すまでに時間が――って、跳んだ?
傷口から吹き出る風を移動に利用したのか?
しかもマドハトの方へ――そうか。『虫の牙』を持っているからか。
「ハトッ! 逃げろッ!」
小さな消費命 の集中を付近に感じて、体をよじらせながら避ける。
集中できないのはしんどい。
だが対処できないわけじゃない。
さっきかけた『熱の瞳』の効果はまだ切れていない。
飛び回る熱源が見える。
スピードは早くないが、これ、指先か?
再び別の消費命 の集中を感じた――それをポーが散らしてくれる。
そうだな。三対一なんかじゃない。
マドハトも居ればポーも居てくれる。
こちらも消費命 を集中。ルブルムの十八番 、『鹿 』を。
体が軽い。
短剣を抜いてその飛行する指先へ切りつける。
魔法を使えるということで繋がっているのであれば、この短剣に塗っておいたカウダ毒は回るのか?
それが無理だとしても一瞬の隙が作れたならいい。
今のうちにマドハトと一緒にスプリガンを。
マドハトがさっきかけたぬかるみの範囲をかわし、マドハトたちを追う。
スプリガンは『虫の牙』を持ってこまめに跳んでいる、というか地面から「発射」されているようにも感じる。
巨大化が解けた本体は『虫の牙』の刀身よりも小さな体。よく持てるな。
だがそれらの謎解きよりも重要なのは、マドハトが追い込まれている先が、エルーシがつるつるしている方向だということ。
今の俺はもうエルーシを格下扱いはしていない。
むしろその覚悟に敬意すら覚えている。だから。
「ハトッ! エルーシに近寄るなッ!」
なんて言うだけじゃダメだよな。
スプリガンがマドハトを追い込もうとしているのならば逆にそこからスプリガンの動きも予測できる。
追うものを追えばいい。
移動中に見つけた手頃な小石を拾い、『遠回りの秘密』1.0秒で強力『発火』を『超見えざる銃』で発射する。
この速度で全部偽装消費命 なんて普段はキツイが、『鹿 』で集中力もアップしているのかスムーズに集中できる。
しかしそれをまるで見えていたかのようにスプリガンはいったん立ち止まる。
動きの先を追って発射した『発火』は、スプリガンとマドハトの間で発動。
今の動き、間違いなくタールだろ。こいつはパリオロムの予備で間違いない。
しかもメリアンたちと戦ったタールよりも明らかに劣化している。
ナベリウス特有の「並列思考」も、一つ一つの『魔動人形』操作にあてるために分割したから、今は動きながら未来を見るのが難しいってことか?
なら次は――スピード勝負で『発火』の明るさが消える前に『見えざる弓』でまた別の小石を発射。
スプリガンは今度は避けずにガード。
消費命 の集中は見えないはずだから、未来の結果を見て見切ってやがるのか。
その間にこちらは小石――さっき拾ったのはこれで最後――に『ぶっ飛ばす』を『接触発動』。もちろん偽装消費命 で。
マドハトも空気を読んで再び『大笑いのぬかるみ』をスプリガンへ――消費命 の集中、今度は俺の近く。
軽く跳んで距離を少しだけ取ったのは、エルーシの放ったカッツァリーダだとわかったから。
見下しはしないが、その技量と消費命 からその使う『発火』の効果範囲は類推できる。
こちらに被害ない程度の距離で激しく燃え上がる火は、俺にとっては単なる灯りに他ならない。
明るさが発動条件に含まれる『見えざる弓』にとっては敵に塩同然。そのままさっきの『ぶっ飛ばす』小石を、ぬかるんでいるスプリガンへ向けて発射。
避けて飛び上がったところ仕留めるつもりでダッシュした直後、凄まじい突風に一瞬、目を閉じた。
目を開けた時、宙にマドハトの首が飛んでいた。
思考が一瞬止まった。
目を閉じたのと合わせれば二瞬だ――いやそうじゃない。動揺している俺。
そうだよ。ここは戦場なのに。集中しろ。
「ざまぁみろ犬っころ!」
エルーシの声で冷静さを取り戻す。状況を把握する。
スプリガンの寿命の渦 が移動した軌跡からは、突風で自身の身体を飛ばし、その勢いでマドハトへと斬りかかったという――おいっ! 集中しろ! 俺ッ!
スプリガンが『虫の牙』を使ったのであればアレが効いているはず。
チャンスは今しかない。
怒りも悲しみも絶望も全て原動力に換えて!
走りながら長めの枝を拾い『同じ皮膚・改』をかける。
これはディナ先輩からポーを引き取ったときの魔法『同じ皮膚』を、ポーとの連携の中で気がついた可能性とかけ合わせた新魔法。
手に持った単一素材の品一つを自分の皮膚の延長だと思うための魔法。
枝自体に触覚や痛覚も伴うから諸刃の剣でもあるのだが、その反面、俺の体の一部だと錯覚できるということは――消費命 を偽装消費命 のギリギリ範囲内で大量に集中する。
マドハトの首からそう遠くない場所で『虫の牙』を見つめ呆然としているスプリガンへ、枝の先を叩きつけた。
思ったよりも渇いた音だったのは、スプリガンが風を体に取り込むことができるという特殊な種族だったからかもしれない。
枝の先に集中した『倍ぶっ飛ばす』は、スプリガンをまるでマンガみたいに脳天から潰したが、その体液はほとんど飛び散らなかった。
まだだ――マドハトに近寄りたい気持ちをぐっと押さえて、もう一度消費命 を集中する。
スプリガンだった辺りに転がる幾つかの魔石 の付近に枝の先を触れ、高火力の『発火』を発動し、即座に枝を手放す。
『同じ皮膚・改』は、一度手放すと効果時間が経過せずとも効果が途切れる。
「……なんだよ……その火力……俺の命がけより全然デカいじゃねぇか……」
まだぬかるみの上で起き上がれないでいるエルーシが悲痛な声を出す。
「……せいぜい、調子に乗ってやがれよリテル。世の中、上には上がいる。俺よりもお前が強いように、お前よりも」
「知ってる。俺なんかまだまだだ」
「くそっ! その余裕がムカつくんだよッ!」
会話しながらも手頃な小石を幾つか拾い、その一つに高火力の『発火』を『接触発動』する。
「くそッ! 俺はッ! もう誰にも奪われねぇッ!」
俺が小石をエルーシへと投げるよりも早く、エルーシは消費命 を発動した――いや、発動し続けている。
凄まじい形相で、自身の身体に火力多めの『発火』を途切れることなく発動し続ける。
その意識が途切れたであろう、最期の瞬間まで、自身を燃やし続けた。
その炎を見つめながら『魔力感知』を詳細モードで索敵する。さっき居た辺りを念入りに。
もう一人残っているから。
しかもこちらへ近寄ってきている。
というか、ここでマドハトの亡骸に駆け寄ったら、俺自身の何もかもも途切れてしまいそうだから。
だって残っているもう一人は間違いなく強敵だろ?
なんとなく見当もついている。
どうしてそんなことになっているのかは分からないが、その実力やら諸々の魔法の使いっぷりを考えると、そうとしか思えない。
「改めて、すごいな、君は」
背後からの声は、予想通り――でも、どうしてこんな。
「どうしてですかッ! クラーリンさんッ!」
振り返ると、そこにクラーリンさんが居た。
「『指飛ばし』で飛ばした指先に毒が入った場合、それが本体にまで影響を及ぼすとは考えが至らなかった。魔法効果は時として生物としての肉体の限界を超越するのだな。魔法は奥が深いことは、わかっていたはずなのに」
クラーリンさんは降参のポーズをしている。
どういうことだ?
油断させるつもりか――というか、ディナ母『魔動人形』を動かしている方のタールがまだ近くに居るはずだよな?
「最初に弁解しておくが、僕が受けた依頼内容と、彼ら……コンウォルたちが実際に起こした行動とは大きく乖離している。僕個人は君と争うつもりはない。彼らは君の命まで奪おうとしたが、僕は君を守った。『皮膚硬化』をかけられたことは、直後に自身で解除していたから理解しているだろう? アレがなければ君の首は半分ほど千切れていた」
自然と拳に力が入る。
『魔力感知』で索敵した結果、とんでもないことがわかったからだ。
「ああ、そうだな。それは僕も怒りを感じている。一人の死者も出さない約束だったから。それをコンウォルたちが一方的に破った。だから僕は彼らに力を貸すのをやめたのだ」
「どういうことですか」
『魔力感知』には、さっきの夜営地付近に何の寿命の渦 も感じられない。
というか、離れたここからでもわかる。燃え盛っている。
タールとの戦いを思い出す。
夜営地の方をあんな惨劇の舞台へと変えたのは、炎を扱うのに長けたタールの『魔動人形』に違いない。
「信じてくれといっても難しいだろう。だが君には僕の、僕には君の力が必要なんだ。グリニーとチェッシャーを助けるためには」
グリニーとチェッシャーって?
「なんでその名前が出てくるんです?」
まさか、人質に?
「時間はそうない。恐らくネスタエアインは逃げただろう。ウォルラースと合流するために」
「ウォルラースだと?」
コンウォルとかネスタエアインとか誰だよ。先に説明しろよ。
「恥を承知でお願いする。僕は自身の命よりもグリニーが大事なのだ。グリニーの笑顔のためにはチェッシャーも守りたい。君だってチェッシャーを助けたいと思ってくれるだろう? 頼む。力を貸してくれないか?」
あまりにも身勝手な言葉。
なんでそんな状況がことになるのか想像もしたくない。
クラーリンさん――いや、クラーリンの「依頼」とやらを受けたその背景にどうしてグリニーさんやチェッシャーがリスクを負うような状況が発生するのか。
見通しが甘いとしか言いようがない。
そう言いながらも夜営地付近を念入りに『魔力探知機』で確認する。
コンウォルとネスタエアインという名前のどちらかがディナ母『魔動人形』のタールのことかもしれないから。
河馬種 の男の子がスプリガンだったというなら、母親の方がネスタエアインだったのだろうか。
逃げたと思わせてまだ近くに忍んでいるのだろうか。
タールが俺を生け捕りにしようとしているのであれば、この協力要請は罠としか思えない。
チェッシャーは確かにいい子だ。俺を好きだと言ってくれた。だが、ここでリテルの体を危険にさらしてまで守るべき相手かと言われれば、申し訳ないが答えはノーだ。
ディナ先輩にも優先順位について口酸っぱく言われた。
ルブルムにも、レムにも、そしてリテル自身やケティにも、チェッシャーを助けるために俺が犠牲になったりしたら、謝っても謝りきれない。
「僕がウォルラースと最初に出会ったのは、もうずっとずっと昔のことだ。僕は魔術の才能はあったのだがね、人付き合いが苦手でね。まともな仕事に就けなかった。その頃なんだ」
クラーリンさんは急に語り始めた。
自分で自分に才能があるなんて言える神経――だが実際その才能とやらをアイシスで俺も感じたのは確かだ。
「ウォルラースは商人でね。金になることならなんでもやっていた……というのを当時は噂程度にしか聞いてなかったし、第一、人を怒らせてばかりだった僕を正当に評価し、笑って受け入れてくれたのは彼だけだったから、僕は彼に心を許していた。とはいえ彼のその悪事を手伝ったわけじゃない。主にやっていたのは彼の持つ魔法品の解析と、その効果の説明だ。彼は発想が面白くてね。『皮膚硬化』を拘束に使えないかとか言い出したのは彼なんだ。僕の魔術研究にもかなり役立つ発想をもらったよ」
ウォルラースは魔法品を使いこなしていた。
その陰にまさかクラーリンが居たなんて。
「ただ、危険なことをするということは敵も多いということだ。ウォルラースの仕事をすることで手にしたお金で娼館通いをするうちに僕は病弱なグリニーに出逢った。一目惚れだった。それにグリニーも、ウォルラース以上に僕を評価してくれた。僕がグリニーに逢うためにお金を稼ぐとウォルラースの敵対勢力に目をつけられる。その魔の手はグリニーに及びかねない。だから僕はウォルラースと手を切った。彼はそれを機にウォーリント王国へと旅立ったようだ。あそこは当時、内乱中でね。争いがあるところには商機があるって、別れの間際まで笑っていたよ」
そういや名無し森で出会ったウォルラースもやたらと笑顔だったな。
油断させて人を騙すんだろうな、としか思わないが。
「つい最近のことだよ。ウォルラースの使いってのが尋ねてきたのは。君がグリニーの部屋に遊びに来た翌日だったかな。あそこで燃えたエルーシ君からね、伝言を頼まれたのだ。そのときはまだウォルラースが指名手配されていることは知らなかったから、その伝言を受け取った。『分かれし止まり木』という二本一組の魔法品の片方でね。もう一つの魔法品である足輪を付けた伝書鳩を、一方の止まり木からもう一方へ導くというものだ。これで僕とウォルラースはやり取りをした。エルーシ君もウォルラース同様に指名手配されて、すぐに町に入ってこれなくなったからね。それを見越していたのだろう」
伝書鳩か。なるほど。それなら町の内外で連絡を取り合うことができるのか。
「始めは無視するつもりだった。グリニーを危険にさらすわけにはいかなかったから。グリニーはもうだいぶ弱ってきていてね。チェッシャーに『愛しの夢見』を教えて、体を売らずにお金を稼ぐ方法を教えたのも、グリニーの病気を止めるために研究し続ける僕を見かねてチェッシャーの方から申し出てくれたんだよ。僕も時間にゆとりができたときには日雇いで魔術師組合の仕事を手伝っていた。苦手とか言ってられなくてね。でも、それじゃ全然足りなかったんだ。グリニーの病気は、薬で治るようなものじゃないからだ」
薬で治らないというのは、呪詛とか魔法の類いだろうか。
話を聞きながらも、警戒は怠らずに続ける。
というかこの話、聞き続ける必要あるのかよと思った矢先。
「君にだから言うよ。グリニーは魔術特異症なんだ。魂と肉体とを繋ぐべき寿命の渦 が、本来の魂以外と繋がり、本来の魂を、そして寿命自体をも蝕んでいる状態でね」
魔術特異症。なんでここで、その単語を。
俺を動揺させるつもりか、そうでないとしたら、グリニーさんも地球からの転生者 なのか?
「そのときにウォルラースの持ち出した条件が、ギルフォドまでウォルラースとエルーシ君が移動するのを手伝ってくれたなら、魔術特異症に詳しいタールという魔術師を紹介してくれる、というものだった。タールは魂を別の肉体に移す研究をしているから、グリニーを助けるために必要な魔術知識を持っているかもしれない、と」
まさかそんな繋がりが。
「グリニーはもうかなり弱っている。寿命の渦 がどんどん遠ざかっていてね」
遠ざかる? イメージしにくい表現。
「ウォルラースとエルーシ君は指名手配のせいでもう都市へは入れないからね。僕が代わりに伝令役となり、タールに会った時に直接魔術知識を交換する、そういう契約だった」
「それでどうしてグリニーさんが人質になるんですか?」
「今のグリニーはね、僕が毎日魔法で治療しなければもたないほど弱っている。その魔法を強化しても最大で二日しかもたない。アイシスとギルフォドは離れすぎている。だから連れてこざるを得なかったんだ。チェッシャーが同行してくれたのもグリニーの世話のためだ」
「そんな状態で」
「魔術特異症は病気とは違うんだよ。弱っているのは寿命の渦 だけで、魂も肉体も元気は元気なんだ。ただ、根本的な状況を改善しない限り、グリニーは長くない。彼女の寿命の渦 がどんどん持っていかれているんだ。僕が施した魔法は『眠れ、魂の形』というものでね、寿命の渦 を指定した獣種と同じ形に一日の間、固めるんだ。コンウォルがずっと河馬種 の寿命の渦 を維持し続けられたのは、僕が彼にかけてあげたからだ。なぜタールじゃなくコンウォルだったのか、それはタールが殺されてしまったからだ」
対タール戦の後ってことか?
「タールは悪党ではあった。それでも僕にとっては、グリニーを救うために必要な踏み台だったんだ。ここの近くにあるウォルラースの隠しアジトへグリニーとチェッシャーとを残して僕がギルフォドへと入ったのは一昨日の夕方。その屋敷を訪れたときにはもう、逆賊としてタールが殺された後だった。あのときの絶望たらない。タールはグリニーを助けるための希望だったから……本当は、僕一人の研究で救えれば良かったのだけど、僕の能力が足りなかった。そして時間もなかった。言っただろう。どんなことをしてもグリニーを救いたいと」
魔術特異症で衰弱というケースは聞いたことなかったけど、キタヤマさんの逆ケースかな。
キタヤマさんのは、ちょうどこちらの魂が亡くなられたタイミングで転生したから、一見すると普通の獣種にしか見えない寿命の渦 だった。
「ただ、さすがタールというべきか。彼は自身の魂を、ネスタエアインというアールヴ女性の『魔動人形』へと移していた。それだけじゃない。保存してあったもう一体の『魔動人形』であるスプリガン男性のコンウォルの中へも、魂を分けて移したのだ。その移動を僕に触れさせてくれた。だから理解できたのだ。魂と寿命の渦 との繋がり、その切り方を」
ネスタエアイン――ディナ先輩のお母さんのことっぽい。
で、さっきのスプリガンがコンウォルか。
タールが自分の身体を破裂させたように見せかけてネスタエアイン に移した魂を、さらにコンウォル にも分けた、って状況なわけだな。
「『魔動人形』を作成するには、移る魂が本来繋がっていた肉体を利用するそうだ。一般的なのは血液でね、輸血し、魂と繋がりがある肉体として成立させることで、ようやく寿命の渦 が移るための素地ができる。僕は今までそれをしなかった。寿命の渦 は魂と肉体とを繋ぐものなのに、グリニーに関係のないモノを触媒にしてばかりいた。僕はタールのおかげでグリニーを助けるための光がようやく見えたんだ」
それにしてもウォルラースやタールを褒 めてばかり。
クラーリンは敵認定で問題ない――とは思うのだけど、どうしてこう、俺 がリテルの体から分離するためのヒントになりそうな話をしてくるのか。
油断はしない。警戒も怠らない。だけど話を聞きたい気持ちが、俺をためらわせる。
● 主な登場者
・有主 利照 /リテル
猿種 、十五歳。リテルの体と記憶、利照 の自意識と記憶とを持つ。魔術師見習い。
レムールのポーとも契約。傭兵部隊を勇気除隊して、ルブルムたちとの合流を目指すなか、夜襲を受けた。
・ケティ
リテルの幼馴染の女子。猿種 、十六歳。黒い瞳に黒髪、肌は日焼けで薄い褐色の美人。胸も大きい。
リテルとは両想い。フォーリーから合流したがリテルたちの足を引っ張りたくないと引き返した。ディナ先輩への荷物を託してある。
・ラビツ
イケメンではないが大人の色気があり強者感を出している鼠種 の兎亜種。
高名な傭兵集団「ヴォールパール自警団」に所属する傭兵。二つ名は「胸漁り」。現在は謝罪行脚中。
・マドハト
ゴブリン魔法『取り替え子』の被害者。ゴド村の住人。取り戻した犬種 の体は最近は丈夫に。
地球で飼っていたコーギーのハッタに似ている。ゴブリン魔法を使える。傭兵部隊を勇気除隊して、夜襲で大変なことに。
・ルブルム
魔女様の弟子である赤髪の少女。整った顔立ちのクールビューティー。華奢な猿種 。
魔法も戦闘もレベルが高く、知的好奇心も旺盛。親しい人を傷つけてしまっていると自分を責めがち。
・アルブム
魔女様の弟子である白髪に銀の瞳の少女。鼠種 の兎亜種。
外見はリテルよりも二、三歳若い。知的好奇心が旺盛。
・カエルレウム
寄らずの森の魔女様。深い青のストレートロングの髪が膝くらいまである猿種 。
ルブルムとアルブムをホムンクルスとして生み出し、リテルの魔法の師匠となった。
・ディナ
カエルレウムの弟子。ルブルムの先輩にあたる。重度で極度の男嫌い。壮絶な過去がある。
アールヴを母に持ち、猿種 を父に持つ。精霊と契約している。トシテルをようやく信用してくれた。
・ディナの母
アールヴという閉鎖的な種族ながら、猿種 に恋をしてディナを生んだ。名はネスタエアイン。
キカイー白爵 の館からディナを逃がすために死んだが、現在はタールに『魔動人形』化されている。
・ウェス
ディナに仕えており、御者の他、幅広く仕事をこなす。肌は浅黒く、ショートカットのお姉さん。蝙蝠種 。
魔法を使えないときのためにと麻痺毒の入った金属製の筒をくれた。
・タール
元ギルフォド第一傭兵大隊隊長。『虫の牙』でディナに呪詛の傷を付け、フラマとオストレアの父の仇でもある。
地界 出身の魔人。種族はナベリウス。現在は『魔動人形』化したネスタエアインの中に意識を移している。
・メリアン
ディナ先輩が手配した護衛。ラビツとは傭兵仲間で婚約者。ものすごい筋肉と角と副乳とを持つ牛種 の半返りの女傭兵。知識も豊富で頼れる。二つ名は「噛み千切る壁」。現在はギルフォド第一傭兵大隊隊長代理。
・レム
爬虫種 。胸が大きい。バータフラ世代の五人目の生き残り。不本意ながら盗賊団に加担していた。
同じく仕方なく加担していたミンを殺したウォルラースを憎んでいる。トシテルの心の妹。現在、ルブルムに同行。
・ウォルラース
キカイーがディナたちに興味を示すよう唆した張本人。過去にディナを拉致しようとした。金のためならば平気で人を殺す。
ダイクの作った盗賊団に一枚噛んだが、逃走。海象種 の半返り。クラーリンとは旧知の仲であった。
・ナイト
初老の馬種 。地球では親の工場で働いていた日本人、喜多山 馬吉 。
2016年、四十五歳の誕生日にこちらへ転生してきた。今は発明家として過ごしているが、ナイト商会のトップである。
・モクタトル
スキンヘッドの精悍な中年男性魔術師。眉毛は赤い猿種 。呪詛解除の呪詛をカエルレウムより託されて来た。
ホムンクルスの材料となる精を提供したため、ルブルムを娘のように大切にしている。
・トリニティ
モクタトルと使い魔契約をしているグリュプス。人なら三人くらい乗せて飛べる。
・ファウン
ルージャグから逃げたクーラ村の子供たちを襲った山羊種 三人組といっとき行動を共にしていた山羊種 。
リテルを兄貴と呼び、ギルフォドまで追いかけてきた。傭兵部隊を一緒に勇気除隊した深夜、突如として姿を消した。
・プルマ
第一傭兵大隊の万年副長である羊種 の女性。全体的にがっしりとした筋肉体型で拳で会話する主義。
美人だが鼻梁には目につく一文字の傷がある。メリアンのファン。
・パリオロム
第一傭兵大隊第一小隊で同じ班の先輩。猫種 の先祖返り。
毛並みは真っ白いがアルバスではなく瞳が黒い。気さく。タールの『魔動人形』だった。
・フラマ
おっぱいで有名な娼婦。鳥種 の半返り。淡いピンク色の長髪はなめらかにウェーブ。瞳は黒で口元にホクロ。
胸の大きさや美しさが際立つ痴女っぽい服装だが、所作は綺麗。父親が地界 出身の魔人。
・オストレア
鳥種 の先祖返りで頭は白のメンフクロウ。スタイルはとてもいい。フラマの妹。
父の仇であるタールの部下として傭兵部隊に留まっていた。
・オストレアとフラマの父
地界 出身の魔人。種族はアモン。タールと一緒に魔法品の研究をしていたが、タールに殺された。
・エルーシ
ディナが管理する娼婦街の元締め、ロズの弟である羊種 。娼館で働くのが嫌で飛び出した。
共に盗賊団に入団した仲間を失い逃走中だった。使い魔にしたカッツァリーダ や『発火』で夜襲をかけてきたが、死亡。
・ギルフォド~ニュナム定期便の御者兼護衛
両生種 男性がリーブラザス、鹿種 女性がメロメン、猿種 男性がビグジョン。三人とも練度が高く信頼できそうな感じ。
・ギルフォド~ニュナム定期便の乗客たち
豚種 カップルは女性が半返り、河馬種 の母子、馬種 の老紳士、猫種 の痩せた兄妹、牛種 の中年男性商人はマイ寝藁じゃないと眠れない。
・コンウォル
スプリガン。河馬種 の男の子に偽装していた。タールの『魔動人形』の一体。
夜襲の際に正体を現して『虫の牙』を奪いに来た。そしてマドハトの首を刎 ねたが、リテルに叩き潰されて焼かれた。
・クラーリン
グリニーに惚れている魔術師。猫種 。目がギョロついているおじさん。グリニーを救うためにウォルラースに協力。
チェッシャーに魔法を教えた人。リテルやエルーシにも魔術師としての心構えや魔法を教えた。
・グリニー
チェッシャーの姉。猫種 。美人だが病気でやつれている。その病とは魔術特異症に起因するものらしい。
現在かなり弱っており、クラーリンが魔法で延命しなければ危険な状況。クラーリン、チェッシャーと共にウォルラースに同行。
・チェッシャー
姉の薬を買うための寿命売りでフォーリーへ向かう途中、野盗に襲われ街道脇に逃げ込んでいたのをリテルに救われた。
猫種 の半返りの女子。宵闇通りで娼婦をしているが魔法を使い貞操は守り抜いている。リテルに告白した。
・レムール
レムールは単数形で、複数形はレムルースとなる。地界 に生息する、肉体を持たず精神だけの種族。
自身の能力を提供することにより肉体を持つ生命体と共生する。『虫の牙』による呪詛傷は、強制召喚されたレムールだった。
・ショゴウキ号
ナイト(キタヤマ)がリテルに貸し出した特別な馬車 。「ショゴちゃん」と呼ばれる。現在はルブルムが使用。
板バネのサスペンション、藁クッション付き椅子、つり革、床下隠し収納等々便利機能の他、魔法的機能まで搭載。
・ドラコ
古い表現ではドラコーン。魔術師や王侯貴族に大人気の、いわゆるドラゴン。その卵を現在、リテルが所持。
卵は手のひらよりちょっと大きいくらいで、孵化に必要な魔法代償 を与えられるまで、石のような状態を維持する。
・ナベリウス
苦痛を与えたり、未来を見ることができる能力を持つ勇猛な地界 の一種族。
鳥種 の先祖返りに似た外観で、頭部は烏。種族的にしわがれ声。魔法品の制作も得意。
・スプリガン
本来は地界 の住人。獣種の大人の膝ほどもない身長で非常に醜い容姿。
巨大な姿になれる魔法を持ち、風を操る。
■ はみ出しコラム【魔物デザイン ケルベロス】
今回の魔物デザインは、直接登場したわけではないですが物語的にはしっかり爪痕を残したケルベロスさんです。
・ホルトゥス、及び地界 におけるケルベロス
地界 の種族。頭が三つある巨大な犬に似ているが、稀にそれ以上の多頭となる個体もいる。
凄まじい吠え声と、毒を含む唾液には注意が必要。光は苦手。主人には忠実だが、大好物の甘いものには抗しきれない。
・地球におけるケルベロス
ギリシア神話に登場する犬の怪物。ハーデースが支配する冥界の番犬である。テューポーンとエキドナの子。その名は「底無し穴の霊」を意味する。
ケルベロスは冥府の入り口を守護する番犬である。ヘーシオドスは『神統記』の中で、50の首を持ち、青銅の声で吠える恐るべき猛犬として描いているが、普通は「三つの頭を持つ犬」というのがケルベロスの一般像であり、文献によって多少の差異はあるが、主に3つ首で、竜の尾と蛇で構成されたたてがみを持つ巨大な犬や獅子の姿で描かれる。
またハーデースに対して忠実で、ヘーシオドスは死者の魂が冥界にやって来る場合にはそのまま冥界へ通すが、冥界から逃げ出そうとする亡者は捕らえて貪り食うと述べている。これが地獄の番犬といわれる由来である。
神話におけるエピソードは多くないが、ヘーラクレースがケルベロスを捕えて地上に連れ出した話は有名である。この際にケルベロスは太陽の光に驚いて吠え、飛び散った唾液から猛毒植物であるトリカブトが発生したという話も残っている。
普段は3つの頭が1つずつ交代で眠り、残る2つの頭で常に見張りをしているが、竪琴の名手オルペウスが死んだ恋人エウリュディケーを追って冥界を訪れたとき、ケルベロスはオルペウスの奏でる竪琴の美しい音色によって全ての頭が眠らされている。
また、甘い物が大好きで、蜂蜜と芥子(小麦とも)の粉を練って焼いた菓子を与えれば、それを食べている間に目の前を通過することが出来る。アイネイアースを連れたクーマイのシビュレーや、ペルセポネーに美を分けて貰いに行ったプシューケーはこの方法でケルベロスをやり過ごした。その後この菓子はカローンへの渡し賃にもなっている。ただし、プシューケーが冥界にやってきた際、カローンに渡したのはオボロス銅貨、ケルベロスに食べさせたのは堅パン、シビュレーが食べさせたのは睡眠薬入りの酒に浸したパン(ソップ)だともいわれる。そして、後にこのことから厄介な相手を懐柔する賄賂の意で「ケルベロスにパンを与える」という言葉が生まれた。
(Wikipedia より)
ケルベロス(別名ナベルス)は、ヨーロッパでは魔神とされている。たとえば、ヴァイヤーはこれを地獄の侯爵の一人に数えている。ケルベロスは強靭で、三つ頭の犬もしくはカラスの姿で現れる。しわがれ声だが雄弁にして慇懃 、美術を教えるかたわら、十九の軍団を統治する。
だがこれは、古代人の言うケルベロスとはもはや別物である。古代のケルベロスは地獄の門を頑なに守り抜く恐るべき番犬で、その三つ頭を無数の蛇が飾っていたことから、百頭獣とも呼ばれた。ヘシオドスは頭の数を五十と言ったが、一般には三つとされている。その黒く鋭い歯で噛まれると即死するという。
(コラン・ド・プランシー:著 床鍋剛彦:訳 吉田八岑:協力 『地獄の辞典』より)
・ケルベロスのデザイン
この凶悪な魔物は、現段階では本編に登場させるつもりはなかった。
ただ、ナベリウスについてのデザインを考えているときに、ナベリウスとケルベロスとの繋がりを示す記述があったため、言及することになった。
そのため、デザイン的には地球におけるケルベロスそのまんまである。
甘いもの大好っきなの、可愛いですよね。
必死に体を動かし弓を構える。
子どもの姿をしてようが飛んでようが『虫の牙』を奪った時点で明確な敵――それもタール絡みの恐らく『魔動人形』。
矢をつがえた途端、その飛んでいる敵から嫌な
とっさに
向こうが魔法を『魔法転移』する可能性に対しては細かな位置の移動が有効――これがまた油断だったのか、それとも完全に向こうが
最初の術者か? エルーシ以外の。
だが
直後に風を感じる。こっちは例の飛んでいる奴の方から。
弓の弦が切れ、自分の腕や首にも何か冷たいものが当たった感覚。
矢も
『カマイタチ』という単語が頭をよぎる。
切れた弦と矢、首までを結んだ直線上にあった腕部分の服が裂けている。
だが傷はあるものの出血した感じはない――つまり最初のは『皮膚硬化』か。
タールの『魔動人形』を含めた熟練の魔術師が二人にエルーシ。マジか。
対タール戦の逆じゃないか。
あのときはタール相手にメリアンとオストレアと俺の三対一だった、なんて余計な思考が多い。
戦闘に集中しろ。
これはかつてウォルラースと戦ったときに『皮膚硬化』を防御ではなく相手への拘束手段として使われたことへの対策として考えた魔法。
『遠回りの掟』は物理的運動の時間を「遠回り」させるという思考だったが、これを逆に応用して、自分にかけられた魔法ついて効果時間を『近道』させるという思考で試しに作ってみたらうまくいったもの。
『皮膚硬化』が終了し、皮膚の硬化がなくなったのを感じる。
だがしかし。人数的に不利な状況は変わらない――ただ『皮膚硬化』をかけたってことは生け捕りが目的ってことだよな。
なら多少の無茶はできるということだ。
少なくともあの『魔動人形』だけは叩き壊す。
『魔力感知』ではエルーシはまだつるつるしてて、マドハトはこちらへ向かっている。
チェッシャーの幻影はまだ残っているが、あれは俺の中の記憶を映しているのか、さもなくば――いや『魔動人形』に集中するべきだ。
その『魔動人形』と決めつけた
「飛ぶ」という魔法自体、必要とされる
それに対してこいつが飛んでくる前に集中された
ディナ先輩のお母さんがディナ先輩を逃すときに使った精霊魔法は精霊との契約が大前提で、使用者の死とともに契約が解除されるはずだから、タールがディナ母の死体を『魔動人形』化している時点で違う可能性が高い。
となるとやはり種族魔法の可能性が高まる。
マドハトが『大笑いのぬかるみ』をこいつの居る場所へかけ、こいつが足を滑らしかける。
向こうの方が早い――滑らせかけた足を踏ん張りやがる。ぬかるみの範囲外へ、巨大化した足で。
大きくなったのは足だけじゃない。男の子くらいの大きさだった体全体が、森の樹々の間で窮屈さを感じるほどに。
間違いない。子どもくらいの大きさ、醜悪な容姿、風を使い、いま予想通りに巨大化した。
こいつは
タールは珍しい種族を『魔動人形』化してたって聞いてるから、スプリガンでもおかしくはない。
新たなる
即座に強力な『発火』を『遠回りの秘密』した鏃を『超見えざる銃』で発射する。
『超見えざる銃』は『見えざる銃』よりも威力が高い。『遠回りの秘密』は、『遠回りの掟』をもとに一時停止する時間を最小0.1秒から最大12.0秒までの間で刻み0.1で自由に設定できるようにしたもの。しかも対象には魔法も選べる。今のは0.5秒。
巨大化したスプリガンなどいい的だ。
鏃は見事命中し、いいタイミングで大きな炎が燃え上がる。
スプリガンの体は風を溜め込んで膨らんでいるだけ。火傷も伴えば傷を治すまでに時間が――って、跳んだ?
傷口から吹き出る風を移動に利用したのか?
しかもマドハトの方へ――そうか。『虫の牙』を持っているからか。
「ハトッ! 逃げろッ!」
小さな
集中できないのはしんどい。
だが対処できないわけじゃない。
さっきかけた『熱の瞳』の効果はまだ切れていない。
飛び回る熱源が見える。
スピードは早くないが、これ、指先か?
再び別の
そうだな。三対一なんかじゃない。
マドハトも居ればポーも居てくれる。
こちらも
体が軽い。
短剣を抜いてその飛行する指先へ切りつける。
魔法を使えるということで繋がっているのであれば、この短剣に塗っておいたカウダ毒は回るのか?
それが無理だとしても一瞬の隙が作れたならいい。
今のうちにマドハトと一緒にスプリガンを。
マドハトがさっきかけたぬかるみの範囲をかわし、マドハトたちを追う。
スプリガンは『虫の牙』を持ってこまめに跳んでいる、というか地面から「発射」されているようにも感じる。
巨大化が解けた本体は『虫の牙』の刀身よりも小さな体。よく持てるな。
だがそれらの謎解きよりも重要なのは、マドハトが追い込まれている先が、エルーシがつるつるしている方向だということ。
今の俺はもうエルーシを格下扱いはしていない。
むしろその覚悟に敬意すら覚えている。だから。
「ハトッ! エルーシに近寄るなッ!」
なんて言うだけじゃダメだよな。
スプリガンがマドハトを追い込もうとしているのならば逆にそこからスプリガンの動きも予測できる。
追うものを追えばいい。
移動中に見つけた手頃な小石を拾い、『遠回りの秘密』1.0秒で強力『発火』を『超見えざる銃』で発射する。
この速度で全部
しかしそれをまるで見えていたかのようにスプリガンはいったん立ち止まる。
動きの先を追って発射した『発火』は、スプリガンとマドハトの間で発動。
今の動き、間違いなくタールだろ。こいつはパリオロムの予備で間違いない。
しかもメリアンたちと戦ったタールよりも明らかに劣化している。
ナベリウス特有の「並列思考」も、一つ一つの『魔動人形』操作にあてるために分割したから、今は動きながら未来を見るのが難しいってことか?
なら次は――スピード勝負で『発火』の明るさが消える前に『見えざる弓』でまた別の小石を発射。
スプリガンは今度は避けずにガード。
その間にこちらは小石――さっき拾ったのはこれで最後――に『ぶっ飛ばす』を『接触発動』。もちろん
マドハトも空気を読んで再び『大笑いのぬかるみ』をスプリガンへ――
軽く跳んで距離を少しだけ取ったのは、エルーシの放ったカッツァリーダだとわかったから。
見下しはしないが、その技量と
こちらに被害ない程度の距離で激しく燃え上がる火は、俺にとっては単なる灯りに他ならない。
明るさが発動条件に含まれる『見えざる弓』にとっては敵に塩同然。そのままさっきの『ぶっ飛ばす』小石を、ぬかるんでいるスプリガンへ向けて発射。
避けて飛び上がったところ仕留めるつもりでダッシュした直後、凄まじい突風に一瞬、目を閉じた。
目を開けた時、宙にマドハトの首が飛んでいた。
思考が一瞬止まった。
目を閉じたのと合わせれば二瞬だ――いやそうじゃない。動揺している俺。
そうだよ。ここは戦場なのに。集中しろ。
「ざまぁみろ犬っころ!」
エルーシの声で冷静さを取り戻す。状況を把握する。
スプリガンの
スプリガンが『虫の牙』を使ったのであればアレが効いているはず。
チャンスは今しかない。
怒りも悲しみも絶望も全て原動力に換えて!
走りながら長めの枝を拾い『同じ皮膚・改』をかける。
これはディナ先輩からポーを引き取ったときの魔法『同じ皮膚』を、ポーとの連携の中で気がついた可能性とかけ合わせた新魔法。
手に持った単一素材の品一つを自分の皮膚の延長だと思うための魔法。
枝自体に触覚や痛覚も伴うから諸刃の剣でもあるのだが、その反面、俺の体の一部だと錯覚できるということは――
マドハトの首からそう遠くない場所で『虫の牙』を見つめ呆然としているスプリガンへ、枝の先を叩きつけた。
思ったよりも渇いた音だったのは、スプリガンが風を体に取り込むことができるという特殊な種族だったからかもしれない。
枝の先に集中した『倍ぶっ飛ばす』は、スプリガンをまるでマンガみたいに脳天から潰したが、その体液はほとんど飛び散らなかった。
まだだ――マドハトに近寄りたい気持ちをぐっと押さえて、もう一度
スプリガンだった辺りに転がる幾つかの
『同じ皮膚・改』は、一度手放すと効果時間が経過せずとも効果が途切れる。
「……なんだよ……その火力……俺の命がけより全然デカいじゃねぇか……」
まだぬかるみの上で起き上がれないでいるエルーシが悲痛な声を出す。
「……せいぜい、調子に乗ってやがれよリテル。世の中、上には上がいる。俺よりもお前が強いように、お前よりも」
「知ってる。俺なんかまだまだだ」
「くそっ! その余裕がムカつくんだよッ!」
会話しながらも手頃な小石を幾つか拾い、その一つに高火力の『発火』を『接触発動』する。
「くそッ! 俺はッ! もう誰にも奪われねぇッ!」
俺が小石をエルーシへと投げるよりも早く、エルーシは
凄まじい形相で、自身の身体に火力多めの『発火』を途切れることなく発動し続ける。
その意識が途切れたであろう、最期の瞬間まで、自身を燃やし続けた。
その炎を見つめながら『魔力感知』を詳細モードで索敵する。さっき居た辺りを念入りに。
もう一人残っているから。
しかもこちらへ近寄ってきている。
というか、ここでマドハトの亡骸に駆け寄ったら、俺自身の何もかもも途切れてしまいそうだから。
だって残っているもう一人は間違いなく強敵だろ?
なんとなく見当もついている。
どうしてそんなことになっているのかは分からないが、その実力やら諸々の魔法の使いっぷりを考えると、そうとしか思えない。
「改めて、すごいな、君は」
背後からの声は、予想通り――でも、どうしてこんな。
「どうしてですかッ! クラーリンさんッ!」
振り返ると、そこにクラーリンさんが居た。
「『指飛ばし』で飛ばした指先に毒が入った場合、それが本体にまで影響を及ぼすとは考えが至らなかった。魔法効果は時として生物としての肉体の限界を超越するのだな。魔法は奥が深いことは、わかっていたはずなのに」
クラーリンさんは降参のポーズをしている。
どういうことだ?
油断させるつもりか――というか、ディナ母『魔動人形』を動かしている方のタールがまだ近くに居るはずだよな?
「最初に弁解しておくが、僕が受けた依頼内容と、彼ら……コンウォルたちが実際に起こした行動とは大きく乖離している。僕個人は君と争うつもりはない。彼らは君の命まで奪おうとしたが、僕は君を守った。『皮膚硬化』をかけられたことは、直後に自身で解除していたから理解しているだろう? アレがなければ君の首は半分ほど千切れていた」
自然と拳に力が入る。
『魔力感知』で索敵した結果、とんでもないことがわかったからだ。
「ああ、そうだな。それは僕も怒りを感じている。一人の死者も出さない約束だったから。それをコンウォルたちが一方的に破った。だから僕は彼らに力を貸すのをやめたのだ」
「どういうことですか」
『魔力感知』には、さっきの夜営地付近に何の
というか、離れたここからでもわかる。燃え盛っている。
タールとの戦いを思い出す。
夜営地の方をあんな惨劇の舞台へと変えたのは、炎を扱うのに長けたタールの『魔動人形』に違いない。
「信じてくれといっても難しいだろう。だが君には僕の、僕には君の力が必要なんだ。グリニーとチェッシャーを助けるためには」
グリニーとチェッシャーって?
「なんでその名前が出てくるんです?」
まさか、人質に?
「時間はそうない。恐らくネスタエアインは逃げただろう。ウォルラースと合流するために」
「ウォルラースだと?」
コンウォルとかネスタエアインとか誰だよ。先に説明しろよ。
「恥を承知でお願いする。僕は自身の命よりもグリニーが大事なのだ。グリニーの笑顔のためにはチェッシャーも守りたい。君だってチェッシャーを助けたいと思ってくれるだろう? 頼む。力を貸してくれないか?」
あまりにも身勝手な言葉。
なんでそんな状況がことになるのか想像もしたくない。
クラーリンさん――いや、クラーリンの「依頼」とやらを受けたその背景にどうしてグリニーさんやチェッシャーがリスクを負うような状況が発生するのか。
見通しが甘いとしか言いようがない。
そう言いながらも夜営地付近を念入りに『魔力探知機』で確認する。
コンウォルとネスタエアインという名前のどちらかがディナ母『魔動人形』のタールのことかもしれないから。
逃げたと思わせてまだ近くに忍んでいるのだろうか。
タールが俺を生け捕りにしようとしているのであれば、この協力要請は罠としか思えない。
チェッシャーは確かにいい子だ。俺を好きだと言ってくれた。だが、ここでリテルの体を危険にさらしてまで守るべき相手かと言われれば、申し訳ないが答えはノーだ。
ディナ先輩にも優先順位について口酸っぱく言われた。
ルブルムにも、レムにも、そしてリテル自身やケティにも、チェッシャーを助けるために俺が犠牲になったりしたら、謝っても謝りきれない。
「僕がウォルラースと最初に出会ったのは、もうずっとずっと昔のことだ。僕は魔術の才能はあったのだがね、人付き合いが苦手でね。まともな仕事に就けなかった。その頃なんだ」
クラーリンさんは急に語り始めた。
自分で自分に才能があるなんて言える神経――だが実際その才能とやらをアイシスで俺も感じたのは確かだ。
「ウォルラースは商人でね。金になることならなんでもやっていた……というのを当時は噂程度にしか聞いてなかったし、第一、人を怒らせてばかりだった僕を正当に評価し、笑って受け入れてくれたのは彼だけだったから、僕は彼に心を許していた。とはいえ彼のその悪事を手伝ったわけじゃない。主にやっていたのは彼の持つ魔法品の解析と、その効果の説明だ。彼は発想が面白くてね。『皮膚硬化』を拘束に使えないかとか言い出したのは彼なんだ。僕の魔術研究にもかなり役立つ発想をもらったよ」
ウォルラースは魔法品を使いこなしていた。
その陰にまさかクラーリンが居たなんて。
「ただ、危険なことをするということは敵も多いということだ。ウォルラースの仕事をすることで手にしたお金で娼館通いをするうちに僕は病弱なグリニーに出逢った。一目惚れだった。それにグリニーも、ウォルラース以上に僕を評価してくれた。僕がグリニーに逢うためにお金を稼ぐとウォルラースの敵対勢力に目をつけられる。その魔の手はグリニーに及びかねない。だから僕はウォルラースと手を切った。彼はそれを機にウォーリント王国へと旅立ったようだ。あそこは当時、内乱中でね。争いがあるところには商機があるって、別れの間際まで笑っていたよ」
そういや名無し森で出会ったウォルラースもやたらと笑顔だったな。
油断させて人を騙すんだろうな、としか思わないが。
「つい最近のことだよ。ウォルラースの使いってのが尋ねてきたのは。君がグリニーの部屋に遊びに来た翌日だったかな。あそこで燃えたエルーシ君からね、伝言を頼まれたのだ。そのときはまだウォルラースが指名手配されていることは知らなかったから、その伝言を受け取った。『分かれし止まり木』という二本一組の魔法品の片方でね。もう一つの魔法品である足輪を付けた伝書鳩を、一方の止まり木からもう一方へ導くというものだ。これで僕とウォルラースはやり取りをした。エルーシ君もウォルラース同様に指名手配されて、すぐに町に入ってこれなくなったからね。それを見越していたのだろう」
伝書鳩か。なるほど。それなら町の内外で連絡を取り合うことができるのか。
「始めは無視するつもりだった。グリニーを危険にさらすわけにはいかなかったから。グリニーはもうだいぶ弱ってきていてね。チェッシャーに『愛しの夢見』を教えて、体を売らずにお金を稼ぐ方法を教えたのも、グリニーの病気を止めるために研究し続ける僕を見かねてチェッシャーの方から申し出てくれたんだよ。僕も時間にゆとりができたときには日雇いで魔術師組合の仕事を手伝っていた。苦手とか言ってられなくてね。でも、それじゃ全然足りなかったんだ。グリニーの病気は、薬で治るようなものじゃないからだ」
薬で治らないというのは、呪詛とか魔法の類いだろうか。
話を聞きながらも、警戒は怠らずに続ける。
というかこの話、聞き続ける必要あるのかよと思った矢先。
「君にだから言うよ。グリニーは魔術特異症なんだ。魂と肉体とを繋ぐべき
魔術特異症。なんでここで、その単語を。
俺を動揺させるつもりか、そうでないとしたら、グリニーさんも
「そのときにウォルラースの持ち出した条件が、ギルフォドまでウォルラースとエルーシ君が移動するのを手伝ってくれたなら、魔術特異症に詳しいタールという魔術師を紹介してくれる、というものだった。タールは魂を別の肉体に移す研究をしているから、グリニーを助けるために必要な魔術知識を持っているかもしれない、と」
まさかそんな繋がりが。
「グリニーはもうかなり弱っている。
遠ざかる? イメージしにくい表現。
「ウォルラースとエルーシ君は指名手配のせいでもう都市へは入れないからね。僕が代わりに伝令役となり、タールに会った時に直接魔術知識を交換する、そういう契約だった」
「それでどうしてグリニーさんが人質になるんですか?」
「今のグリニーはね、僕が毎日魔法で治療しなければもたないほど弱っている。その魔法を強化しても最大で二日しかもたない。アイシスとギルフォドは離れすぎている。だから連れてこざるを得なかったんだ。チェッシャーが同行してくれたのもグリニーの世話のためだ」
「そんな状態で」
「魔術特異症は病気とは違うんだよ。弱っているのは
対タール戦の後ってことか?
「タールは悪党ではあった。それでも僕にとっては、グリニーを救うために必要な踏み台だったんだ。ここの近くにあるウォルラースの隠しアジトへグリニーとチェッシャーとを残して僕がギルフォドへと入ったのは一昨日の夕方。その屋敷を訪れたときにはもう、逆賊としてタールが殺された後だった。あのときの絶望たらない。タールはグリニーを助けるための希望だったから……本当は、僕一人の研究で救えれば良かったのだけど、僕の能力が足りなかった。そして時間もなかった。言っただろう。どんなことをしてもグリニーを救いたいと」
魔術特異症で衰弱というケースは聞いたことなかったけど、キタヤマさんの逆ケースかな。
キタヤマさんのは、ちょうどこちらの魂が亡くなられたタイミングで転生したから、一見すると普通の獣種にしか見えない
「ただ、さすがタールというべきか。彼は自身の魂を、ネスタエアインというアールヴ女性の『魔動人形』へと移していた。それだけじゃない。保存してあったもう一体の『魔動人形』であるスプリガン男性のコンウォルの中へも、魂を分けて移したのだ。その移動を僕に触れさせてくれた。だから理解できたのだ。魂と
ネスタエアイン――ディナ先輩のお母さんのことっぽい。
で、さっきのスプリガンがコンウォルか。
タールが自分の身体を破裂させたように見せかけて
「『魔動人形』を作成するには、移る魂が本来繋がっていた肉体を利用するそうだ。一般的なのは血液でね、輸血し、魂と繋がりがある肉体として成立させることで、ようやく
それにしてもウォルラースやタールを
クラーリンは敵認定で問題ない――とは思うのだけど、どうしてこう、
油断はしない。警戒も怠らない。だけど話を聞きたい気持ちが、俺をためらわせる。
● 主な登場者
・
レムールのポーとも契約。傭兵部隊を勇気除隊して、ルブルムたちとの合流を目指すなか、夜襲を受けた。
・ケティ
リテルの幼馴染の女子。
リテルとは両想い。フォーリーから合流したがリテルたちの足を引っ張りたくないと引き返した。ディナ先輩への荷物を託してある。
・ラビツ
イケメンではないが大人の色気があり強者感を出している
高名な傭兵集団「ヴォールパール自警団」に所属する傭兵。二つ名は「胸漁り」。現在は謝罪行脚中。
・マドハト
ゴブリン魔法『取り替え子』の被害者。ゴド村の住人。取り戻した
地球で飼っていたコーギーのハッタに似ている。ゴブリン魔法を使える。傭兵部隊を勇気除隊して、夜襲で大変なことに。
・ルブルム
魔女様の弟子である赤髪の少女。整った顔立ちのクールビューティー。華奢な
魔法も戦闘もレベルが高く、知的好奇心も旺盛。親しい人を傷つけてしまっていると自分を責めがち。
・アルブム
魔女様の弟子である白髪に銀の瞳の少女。
外見はリテルよりも二、三歳若い。知的好奇心が旺盛。
・カエルレウム
寄らずの森の魔女様。深い青のストレートロングの髪が膝くらいまである
ルブルムとアルブムをホムンクルスとして生み出し、リテルの魔法の師匠となった。
・ディナ
カエルレウムの弟子。ルブルムの先輩にあたる。重度で極度の男嫌い。壮絶な過去がある。
アールヴを母に持ち、
・ディナの母
アールヴという閉鎖的な種族ながら、
キカイー
・ウェス
ディナに仕えており、御者の他、幅広く仕事をこなす。肌は浅黒く、ショートカットのお姉さん。
魔法を使えないときのためにと麻痺毒の入った金属製の筒をくれた。
・タール
元ギルフォド第一傭兵大隊隊長。『虫の牙』でディナに呪詛の傷を付け、フラマとオストレアの父の仇でもある。
・メリアン
ディナ先輩が手配した護衛。ラビツとは傭兵仲間で婚約者。ものすごい筋肉と角と副乳とを持つ
・レム
同じく仕方なく加担していたミンを殺したウォルラースを憎んでいる。トシテルの心の妹。現在、ルブルムに同行。
・ウォルラース
キカイーがディナたちに興味を示すよう唆した張本人。過去にディナを拉致しようとした。金のためならば平気で人を殺す。
ダイクの作った盗賊団に一枚噛んだが、逃走。
・ナイト
初老の
2016年、四十五歳の誕生日にこちらへ転生してきた。今は発明家として過ごしているが、ナイト商会のトップである。
・モクタトル
スキンヘッドの精悍な中年男性魔術師。眉毛は赤い
ホムンクルスの材料となる精を提供したため、ルブルムを娘のように大切にしている。
・トリニティ
モクタトルと使い魔契約をしているグリュプス。人なら三人くらい乗せて飛べる。
・ファウン
ルージャグから逃げたクーラ村の子供たちを襲った
リテルを兄貴と呼び、ギルフォドまで追いかけてきた。傭兵部隊を一緒に勇気除隊した深夜、突如として姿を消した。
・プルマ
第一傭兵大隊の万年副長である
美人だが鼻梁には目につく一文字の傷がある。メリアンのファン。
・パリオロム
第一傭兵大隊第一小隊で同じ班の先輩。
毛並みは真っ白いがアルバスではなく瞳が黒い。気さく。タールの『魔動人形』だった。
・フラマ
おっぱいで有名な娼婦。
胸の大きさや美しさが際立つ痴女っぽい服装だが、所作は綺麗。父親が
・オストレア
父の仇であるタールの部下として傭兵部隊に留まっていた。
・オストレアとフラマの父
・エルーシ
ディナが管理する娼婦街の元締め、ロズの弟である
共に盗賊団に入団した仲間を失い逃走中だった。使い魔にした
・ギルフォド~ニュナム定期便の御者兼護衛
・ギルフォド~ニュナム定期便の乗客たち
・コンウォル
スプリガン。
夜襲の際に正体を現して『虫の牙』を奪いに来た。そしてマドハトの首を
・クラーリン
グリニーに惚れている魔術師。
チェッシャーに魔法を教えた人。リテルやエルーシにも魔術師としての心構えや魔法を教えた。
・グリニー
チェッシャーの姉。
現在かなり弱っており、クラーリンが魔法で延命しなければ危険な状況。クラーリン、チェッシャーと共にウォルラースに同行。
・チェッシャー
姉の薬を買うための寿命売りでフォーリーへ向かう途中、野盗に襲われ街道脇に逃げ込んでいたのをリテルに救われた。
・レムール
レムールは単数形で、複数形はレムルースとなる。
自身の能力を提供することにより肉体を持つ生命体と共生する。『虫の牙』による呪詛傷は、強制召喚されたレムールだった。
・ショゴウキ号
ナイト(キタヤマ)がリテルに貸し出した特別な
板バネのサスペンション、藁クッション付き椅子、つり革、床下隠し収納等々便利機能の他、魔法的機能まで搭載。
・ドラコ
古い表現ではドラコーン。魔術師や王侯貴族に大人気の、いわゆるドラゴン。その卵を現在、リテルが所持。
卵は手のひらよりちょっと大きいくらいで、孵化に必要な
・ナベリウス
苦痛を与えたり、未来を見ることができる能力を持つ勇猛な
・スプリガン
本来は
巨大な姿になれる魔法を持ち、風を操る。
■ はみ出しコラム【魔物デザイン ケルベロス】
今回の魔物デザインは、直接登場したわけではないですが物語的にはしっかり爪痕を残したケルベロスさんです。
・ホルトゥス、及び
凄まじい吠え声と、毒を含む唾液には注意が必要。光は苦手。主人には忠実だが、大好物の甘いものには抗しきれない。
・地球におけるケルベロス
ギリシア神話に登場する犬の怪物。ハーデースが支配する冥界の番犬である。テューポーンとエキドナの子。その名は「底無し穴の霊」を意味する。
ケルベロスは冥府の入り口を守護する番犬である。ヘーシオドスは『神統記』の中で、50の首を持ち、青銅の声で吠える恐るべき猛犬として描いているが、普通は「三つの頭を持つ犬」というのがケルベロスの一般像であり、文献によって多少の差異はあるが、主に3つ首で、竜の尾と蛇で構成されたたてがみを持つ巨大な犬や獅子の姿で描かれる。
またハーデースに対して忠実で、ヘーシオドスは死者の魂が冥界にやって来る場合にはそのまま冥界へ通すが、冥界から逃げ出そうとする亡者は捕らえて貪り食うと述べている。これが地獄の番犬といわれる由来である。
神話におけるエピソードは多くないが、ヘーラクレースがケルベロスを捕えて地上に連れ出した話は有名である。この際にケルベロスは太陽の光に驚いて吠え、飛び散った唾液から猛毒植物であるトリカブトが発生したという話も残っている。
普段は3つの頭が1つずつ交代で眠り、残る2つの頭で常に見張りをしているが、竪琴の名手オルペウスが死んだ恋人エウリュディケーを追って冥界を訪れたとき、ケルベロスはオルペウスの奏でる竪琴の美しい音色によって全ての頭が眠らされている。
また、甘い物が大好きで、蜂蜜と芥子(小麦とも)の粉を練って焼いた菓子を与えれば、それを食べている間に目の前を通過することが出来る。アイネイアースを連れたクーマイのシビュレーや、ペルセポネーに美を分けて貰いに行ったプシューケーはこの方法でケルベロスをやり過ごした。その後この菓子はカローンへの渡し賃にもなっている。ただし、プシューケーが冥界にやってきた際、カローンに渡したのはオボロス銅貨、ケルベロスに食べさせたのは堅パン、シビュレーが食べさせたのは睡眠薬入りの酒に浸したパン(ソップ)だともいわれる。そして、後にこのことから厄介な相手を懐柔する賄賂の意で「ケルベロスにパンを与える」という言葉が生まれた。
(Wikipedia より)
ケルベロス(別名ナベルス)は、ヨーロッパでは魔神とされている。たとえば、ヴァイヤーはこれを地獄の侯爵の一人に数えている。ケルベロスは強靭で、三つ頭の犬もしくはカラスの姿で現れる。しわがれ声だが雄弁にして
だがこれは、古代人の言うケルベロスとはもはや別物である。古代のケルベロスは地獄の門を頑なに守り抜く恐るべき番犬で、その三つ頭を無数の蛇が飾っていたことから、百頭獣とも呼ばれた。ヘシオドスは頭の数を五十と言ったが、一般には三つとされている。その黒く鋭い歯で噛まれると即死するという。
(コラン・ド・プランシー:著 床鍋剛彦:訳 吉田八岑:協力 『地獄の辞典』より)
・ケルベロスのデザイン
この凶悪な魔物は、現段階では本編に登場させるつもりはなかった。
ただ、ナベリウスについてのデザインを考えているときに、ナベリウスとケルベロスとの繋がりを示す記述があったため、言及することになった。
そのため、デザイン的には地球におけるケルベロスそのまんまである。
甘いもの大好っきなの、可愛いですよね。