#47 死体

文字数 9,544文字

 森の中に居た猿種(マンッ)鼠種(ラタトスクッ)は途中で追い抜いてしまったからか、慌てて引き返して来ている。
 それを待つ時間ができてしまったことで心の中に迷いが浮かぶ。
 俺が、人を殺せるのか、という。
 そりゃさっきはイメージトレーニングはした。
 相手は恐らく野盗で、こちらが殺らなきゃ殺られるかもしれないという状況も理解している。
 俺が迎撃に失敗すれば、ケティやルブルム、マドハト、それにリテル自身の体だって危険な目に遭いかねない。
 動物を何匹も殺したリテルの記憶だって何度も見た。
 ただ、それでも、殺人という行為に対する抵抗や恐怖感がまだある。
 ディナ先輩の顔を思い出す。
 マクミラ師匠の顔もだ。
 そうだ。
 覚悟を決めろ、俺――呼吸を思い出そう。
 狩りをするときの。
 リテルがマクミラ師匠から教わった、獲物を仕留めるときの。
 そうだ。あいつらを獣だと思うんだ。
 大きな猿と鼠だと。
 森の中を近づいてきているその二匹は、木の陰に隠れつつ音を出さないように移動しているようだ。
 確実に当てなければ反撃を食らう恐れのある獣――その覚悟で、矢をつがえた弓を引き絞る。

「わわわっ」

 突然、御者さんが足元にしがみついてきた。

「旦那ぁ、あっちの茂みが今、動いて……」

 まさかそっち側も?
 森の中を近づいてくる二人とは逆サイド。
 見逃したのか?
 さっきの『魔力探知機』も今の『魔力感知』にも引っかかっていないし、茂みの音も俺は聞いていない。
 だけどこの世界には魔法がある。
 安易に常識の範囲内だけで考えるのは危険だ。
 そうだ、リテルは矢を命中させることに集中し過ぎて周囲の音が聞こえてないときがあるとマクミラ師匠に注意されてたっけ。
 ここは安全の確保を優先しよう。

「御者さん、危険です。早く中へ」

 馬はもう向きを戻して繋ぎ直しているっぽいし。

「わ、わかりやしたぁ」

 御者さんを中へと戻して御者席へ立ち、『魔力感知』をより丁寧に発動する――把握できるのはあの二人だけ。
 だがそれ以外への注意もちゃんと払いつつ、弓を構え直す。

 二人が弓の射程内へと入る――が、そこで止まった。
 まだけっこう距離はある。
 機会をうかがっているのだろうか。
 さっき御者さんが気にしてた辺りからは特に何も感じないまま。
 『死んだふり』みたいな寿命の渦(コスモス)の欠落もない。
 メリアンの方は激しくやり合っているようだが、落ち着いている寿命の渦(コスモス)なメリアンに対し、相手の二人はかなり動揺している感じ。
 特に羊種(クヌムッ)の方は戦意喪失とまではいかないけど動きも悪いし、ただ逃げ回っているだけのようにも。
 まあ、『魔力感知』で感じる限りでは、だけど。

 しかしこの襲ってきた連中は、裕福な商人ってのをさらった連中とは違う連中なのか?
 商人をさらったのならば、危険を冒してまで新しい馬車(ゥラエダ)を襲う必要なんてないだろうに。
 まさか商人の定期便が通り過ぎたのも向こうで捕まったのも知らずに、街道を封鎖しているとか?
 いや、商人の情報を得た上で封鎖しているのなら、バリケードの向きに違和感を覚える。
 そうでないとしたら。
 狙いは、そもそもこの馬車(ゥラエダ)だったら?
 追われているラビツが足止めを依頼した?
 ――いや、それは考えにくい。
 多分、追われていることにさえ気付いてないだろうし。
 だとしたら――ディナ先輩の関係者として?
 急に鳥肌が立つ。
 ディナ先輩から聞かされた話。
 ウォルラースがこの国に潜んでいるという噂を。
 もしも奴がディナ先輩に気付いていて、俺たちとのつながりにも気付いていて――怖い考えが勝手に浮かぶ。
 ウォルラースは一時的に魔法の使用を邪魔する魔法品を所持していた。
 そんな連中にルブルムが捕まったら――自分の中に殺意が湧く。
 大丈夫だ。
 ケティやルブルムを守るためならば、俺は殺せる。

 二人が動いた!
 すぐさま弓を引く――が、なんだ?
 樹々の隙間からチラチラと見えるのは。
 大きな板のようなものを持っている?
 何をするつもりだ?
 考えろ――連中が何をしようとしているのかを。
 時間稼ぎか、何かの罠か、もしくは他に仲間が居るのか。

「リテルさま!」

 突然、マドハトが御者席へと飛び出してきた。

「マドハト! どうして出てきた?」

「リテルさまが、呼んでるって!」

「呼んでないぞ?」

 誰が――その答えはすぐに出た。

「動くな! 旦那、武器を捨てろ! おいっ! 犬っころ! そいつの弓を持って、馬よりも向こうまで行け!」

 ドスのきいた声に驚いて振り返ると、御者さんがケティの首元にナイフを当てていた。
 こいつ――待ち伏せ連中の仲間?
 しかもロズさんが手配した馬車(ゥラエダ)の御者なのに?

「おい! 早くしろ!」

 俺は弓とつがえていた矢とをマドハトへと渡す。

「マドハト、言う通りにするんだ」

「はいです!」

 マドハトは弓矢を受け取り、素直に馬よりも向こうへと歩いてゆく。

「馬より向こうだ! 旦那は幌を閉めな!」

 森の中の二人が弓を持っていたらマドハトが危ない――と思いつつも、ケティの方がもっと危ない。
 俺は言われた通り幌を閉める。
 くそ。
 どうして気づけなかった。
 疑いすぎて細かいところまで注意し過ぎて、もっと肝心な、基本的なことが見えてなかった。

「おっと旦那ぁ、あんたは動くなよ……それから……馬車の中のお嬢ちゃん、ルブルムちゃんだっけ? あんたは……そうだな、馬車の外から顔出しな。向こうで戦っているおっぱい四つの半牛女に降伏しろって伝えるんだ」

 ルブルムは素直に従い、馬車(ゥラエダ)後部の幌から顔だけ出した。
 その瞬間、御者は右手のナイフをケティの喉に当てたまま、左手でルブルムが腰に装備していた小剣へと手を延ばす――そうはさせるかよっ。
 俺は消費命(パー)を集中して魔術を発動する――『皮膚硬化』と『魔法転移』を組み合わせた。
 場所はケティの首。
 硬化させてナイフを防げば。

「リ、リテルぅ、気持ち悪いのが、くる」

 ケティが、俺の魔術にまさかの抵抗。
 激痛が俺の左腕を蝕んだだけ――マジかよ?

「な、なんだ、ま、まさか魔法か? 旦那ぁ、あっしになにかするつもりかいっ!」

 その景色は、やけにゆっくりと見えた。
 だから俺は間に合うと思ったんだ。
 でも俺の体は反応できなくて、これはほんのわずかな、一瞬の間の出来事だと気付いた時には、御者の持つナイフの切っ先は、ケティの喉を真横に滑っていた。
 驚くほどの勢いで飛び散る血も、やけにゆっくりと見えた。

「ケティィぃぃぃっ!」

 俺はケティの首から飛び散る血へ手を伸ばしていた――思わず血を拾おうとしたんだ。
 でも、そんなことできるわけもなく。
 宙へ突き出した俺の赤く染まった両手の隙間に、膝から崩れ落ちるケティが見えた。
 慌ててケティを抱きかかえようと前へ出た、けれど、足に力がうまく入らなくて、俺の膝も馬車の床へとぶつかった。
 あれ、なにやってんだろう。
 しなきゃしなきゃしなきゃと強迫観念みたいなのは俺の背中を必死に押すのに、何をって部分が、自分の中から何ひとつ取り出せない。
 目の前にはケティが倒れていて、そのすぐ先で、御者が――ルブルムの小剣に喉を貫かれた。
 ルブルムはすぐにケティを仰向けにして、何度も『生命回復』を使っている――首を縦に振っている?
 縦は同意じゃなく、否定。
 何を否定――。

「トシテルっ! ケティが、『生命回復』に抵抗する!」

 ルブルムの声が、周囲の音が、急に耳に戻ってきて、俺は思考だけじゃなく自分の何もかもが滞っていたのだと気付く。
 両手で自分の頬を叩く。
 何をやっているんだ俺は――消費命(パー)を集中しながらケティの喉に触れ、俺も『生命回復』を使う――本当だ。
 魔法がケティの中へ入って行かないのを感じる。
 ケティの吹き出る血は止まらず、左手に凄まじい激痛が走っただけ。

「ケティ! 俺だ! リテルだっ! ケティを助けたいんだっ! 俺を信じて! 魔法を受け入れてくれっ!」

 叫びながら、祈りながら、俺は左手でケティの手を握りしめる。
 右手をケティの喉に当て、もう一度叫ぶ。

「ケティィィっ!」

 『虫の牙』の激痛が暴れまわる俺の左手に、ケティの指が弱々しく絡むのを、やけにはっきりと感じた。
 まだ間に合う――間に合ってくれ!

「ケティ! 受け入れてくれっ! ケティの傷を治すから!」

 ケティは力なく俺の左手を握りしめようとする。
 ルブルムが俺に『脳内モルヒネ』をかけてくれる。
 痛みを集中力が超える。

「ケティ、いくよ!」

 何度目かの『生命回復』を、ケティがようやく受け入れてくれたのを感じた。
 思わず呼吸が震える。喜びで――でも安心なんか全くできない。
 ケティはこのわずかな間にどれほどの血を失った?
 まだ傷を塞いだだけに過ぎないんだ。

 『生命回復』は生物が本来持つ回復力を補助する効果を持つ反面、ゲームや漫画なんかでよく見るような万能さはない。
 ディナ先輩の表現を使うと「乱暴な回復魔法」。
 一度に大量の魔法代償(プレチウム)を必要とするような傷の治し方をしてしまうと、傷口より先にある部位の感覚が鈍ったり、動かすのに突っ張るようになることもあると教えていただいた。
 俺の世界の言葉に置き換えると、神経や筋肉がうまくつなげなかったり、傷口が癒着しちゃう、みたいな。
 『生命回復』が上手な魔術師は、怪我人に傷口の周囲の部位を動かしてもらいながら少しづつ時間をかけて治してゆく。
 だけど、今使ったのはそういう方法ではない。
 最初の『生命回復』は止血に特化した……ケティの「傷」ではなく、切られた「血管」に対してのみ魔法を使ったのだ。
 これは、ディナ先輩との勉強会で見つけたこと。
 『凍れ』の魔法を使ったとき、俺は触れている「水」に対して効果を及ぼそうとした。
 しかし結果的にはスープ皿の中ばかりか、周囲の空気中の水分まで凍った。
 ディナ先輩はこれについて、俺が対象として認識した「水」への理解が深いために、スープ皿の中の水を凍らせてもまだ残っていた余剰分の魔法代償(プレチウム)が、俺の認識する「水」に含まれる空気中の水分にまで範囲を及ばせたのではないかと考察された。
 同じ魔法でも認識を変えれば効果が異なるのではないかと、この『生命回復』についても同じことを――「体」という大きな対象ではなく皮膚だけとか血管だけとか、何度も実験させられた――ばかりか、その実験をするためにと何度も剣で切りつけられたっけ。
 あの時はしんどかったけど、今こうして実際に使ってみると、本当に練習して良かったと思う。

「ケティ、血は止まったけど、治療はまだ終わっていない。また受け入れて」

 ケティが力なく俺の手を握って答える。
 血管の次は神経だ。

「喉の下に二回、力を入れてみて」

 俺が触れた手のひらの下でケティは首に力を入れる――その意識をつなぐイメージで『生命回復』を実行する。

「ここ、触れたのわかる?」

 ケティがつかんだままの手を、ケティの鎖骨の辺りへと動かす。
 その手が静かに握られる。
 よし。
 次は筋肉――ゴホ、ゴホと、ケティが体を震わせた。
 ヤバい、今のでまた傷口が――落ち着け、俺。

「血が、喉に入ったのかも」

 ルブルムが布で傷口の周りを拭く。

「ケティ、急いで治すから、もう少しだけ我慢してくれ」

 俺はケティにも『脳内モルヒネ』をかけて痛みを消す。
 そして再び、血管と神経とをつなぐ。
 次は筋肉。
 そして――あとは――他に治すべきどんな部位が――俺には医者のような専門的な知識があるわけじゃない。
 時間はかけられない、見落としがあってもならない、だとしたらもう「首」そのものへ『生命回復』をかけるしかないか。
 ケティの回復力を信じて、消費命(パー)を費やした。

「……ケティ、どうだ?」

「……テル……リテル……」

 ケティが俺の手をぎゅっと握りしめながら、声を出した。
 聞き覚えのあるケティの声。
 全身の力が抜ける。
 そして『脳内モルヒネ』がかかっていることによる『虫の牙』の呪詛傷の(うず)きがぶり返してくる。
 最初の方、あれ本物の脳内物質が出てたなと、振り返った今ではわかる。

「……これ、魔法? リテルが助けてくれたの?」

 ケティが自分の首に触れている。
 ルブルムがさっきの布を水に浸して絞ってくれたので、ケティの首付近を拭くと、一筋の線みたいな傷が残ってしまっていた。

「ごめん、ケティ。こんな目立つ場所に……」

 ケティは指でそれをなぞって、それから嬉しそうに笑った。

「ううん。いま生きていられるだけでも十分だよ。それに……」

「それに?」

「リテルの助けてくれた痕跡が私の体に残るのって、嬉しいかも」

 ケティは俺を慰めてくれようとしているのだろうか。
 無理に笑顔を作っているのかもしれない。

「ごめんね、ケティ。俺がもっとしっかり」

 俺の謝罪は、馬のいななきに遮られた。
 馬車(ゥラエダ)がいつの間にか走り出している?
 慌てて御者席側から前を確認すると、進行方向にマドハトがうずくまっている――その左足の太もも付近には矢が刺さっている。
 右側の馬の背中にも、矢が。
 森の中から射られたのか?

「マドハトっ! 弓を森へ投げて伏せろっ!」

 言われた通りにして身を小さくしたマドハトへ向かってスピードを上げる馬車(ゥラエダ)
 森の中からまた二本の矢が飛んできて幌を突き抜ける。
 幸い誰にも当たっていない。

「ルブルム、ケティ、伏せてっ」

 馬はさらに速度を上げる。
 俺は車体後部へと移動し、身を乗り出して馬車(ゥラエダ)の床より下へと右手を垂らした――そんな俺のすぐ目の前を、うずくまるマドハトの背中が通り過ぎる。
 くっそ。つかめないか。
 『魔力感知』で位置はつかめていたが、車体の揺れのせいで届かなかった。
 せめてもの救いはマドハトが馬に踏まれたり馬車(ゥラエダ)()かれたりしていないこと。

「マドハトっ! 森の中へ逃げて隠れろ! メリアンと合流して」

「トシテルっ、体を戻してっ!」

 ルブルムが叫びながら俺の下半身をつかんだ。
 慌てて体を、なんとか馬車(ゥラエダ)の中へと戻――そうとしたタイミングで、馬が再びいななき、車体は大きく揺れた。
 馬車(ゥラエダ)後部の縁をつかみ、必死に幌の内側へと転がり込む。
 そこへ御者が、俺を待ち構えでもしていたかのように覆いかぶさってきた。

「くっそ!」

 反射的に殴りつけた御者の顎が、不自然な方向へと曲がる――やっぱり死んでいるよな?
 転がった御者がまた不自然に跳ねる。
 ああ、馬車(ゥラエダ)の揺れで偶然跳ねただけ、か。
 拳に残る嫌な感触――なんかに構っている暇はない。
 俺の脚にしがみついていたルブルムを、ケティと同じように水樽の向こう側へ隠れるよううながす。
 あとはこんな死体、さっさと馬車(ゥラエダ)の外へ投げてしまおうかとしたそのとき、幌を突き破って飛んできた矢が、御者の死体へと突き刺さった。
 こちらには弓もないし伏せて祈るしかないのか――しかし随分と揺れる。

「ト……リテル、道が違う」

 ふとルブルムが御者席側の幌の隙間から前を覗き、そう言った。
 俺も幌に空いた穴から後方を確認する。
 確かに道幅がものすごく狭まっている――あの小道か?
 しかも街道からこの小道への入り口を、板塀のようなものが二つ、塞いでいた。
 盾代わりにしても大きすぎる。畳くらいある。
 まさかあれで街道を塞いで、御者のいない馬を誘導したのか?
 ちょっと待て。
 誘導したってことは、こっちでも仲間が身構えている可能性があるよな。
 今度は急いで御者席側へと移動する。
 幌の向こう側、森の中の小道は、右へ左へまた右へとゆるやかなカーブをいくつも経て続くが、先は未だ見通せず。
 矢が刺さった方の馬はスピードが落ちてはいるが、それでもな馬車の勢いは衰えない。
 ガタンと大きく揺れ、前のめりになりながらもこらえた俺の足に何かがぶつかって止まる――御者の死体だ。
 くっそ。床が血まみれで滑りやがる。

馬車(ゥラエダ)を止めよう!」

 メリアン達と早く合流するためにも。
 御者席へと移る――が、靴底が血でべっとりしているせいか、御者席でも滑る。
 何かに捕まろうと伸ばした手が、金属の棒をつかんだ。
 確かこれブレーキだ――御者席横の金属製の棒をフックから外して横にスライドさせる。
 そして奥まで押し込めて――馬車(ゥラエダ)の車輪から革の擦れる音が甲高く響く。
 馬車の速度も落ち始める。
 運のいいことに、小道はところどころにゆるやかな上り坂が出現し始める。
 マンティコラの歯山脈へと続いているのだろうか。
 よし。もう少し速度が落ちたなら、地面に引きずられている手綱を拾って――そのとき、ルブルムが俺の横を駆け抜け、御者席から飛び降りた。





● 主な登場者

有主(ありす)利照(としてる)/リテル
 猿種(マンッ)、十五歳。リテルの体と記憶、利照(としてる)の自意識と記憶とを持つ。魔術師見習い。
 ラビツ一行をルブルム、マドハトと共に追いかけている。ゴブリン用呪詛と『虫の牙』の呪詛と二つの呪詛に感染している。

・ケティ
 リテルの幼馴染の女子。猿種(マンッ)、十六歳。黒い瞳に黒髪、肌は日焼けで薄い褐色の美人。胸も大きい。
 リテルとは両想い。熱を出したリテルを一晩中看病してくれていた。フォーリーから合流したが、死にかけた。

・ラビツ
 久々に南の山を越えてストウ村を訪れた傭兵四人組の一人。ケティの唇を奪った。
 フォーリーではやはり娼館街を訪れていたっぽい。

・マドハト
 ゴブリン魔法『取り替え子』の被害者。ゴド村の住人で、今は犬種(アヌビスッ)の体を取り戻している。
 リテルに恩を感じついてきている。元の世界で飼っていたコーギーのハッタに似ている。変な歌を知っている。

・ルブルム
 魔女様の弟子である赤髪の少女。整った顔立ちのクールビューティー。華奢な猿種(マンッ)
 槍を使った戦闘も得意で、知的好奇心も旺盛。ケティがリテルへキスをしたのを見てから微妙によそよそしい。

・アルブム
 魔女様の弟子である白髪に銀の瞳の少女。鼠種(ラタトスクッ)の兎亜種。
 外見はリテルよりも二、三歳若い。知的好奇心が旺盛。

・カエルレウム
 寄らずの森の魔女様。深い青のストレートロングの髪が膝くらいまである猿種(マンッ)
 ルブルムとアルブムをホムンクルスとして生み出し、リテルの魔法の師匠となった。『解呪の呪詛』を作成中。

・ディナ
 カエルレウムの弟子。ルブルムの先輩にあたる。重度で極度の男嫌い。壮絶な過去がある。
 アールヴを母に持ち、猿種(マンッ)を父に持つ。精霊と契約している。トシテルをようやく信用してくれた。

・ウェス
 ディナに仕えており、御者の他、幅広く仕事をこなす。肌は浅黒く、ショートカットのお姉さん。蝙蝠種(カマソッソッ)
 魔法を使えないときのためにと麻痺毒の入った金属製の筒をくれた。

・『虫の牙』所持者
 キカイー白爵(レウコン・クラティア)の館に居た警備兵と思われる人物。
 『虫の牙』と呼ばれる呪詛の傷を与える異世界の魔法の武器を所持し、ディナに呪詛の傷を付けた。

・メリアン
 ディナ先輩が手配した護衛。リテルたちを鍛える依頼も同時に受けている。
 ものすごい筋肉と角と副乳とを持つ牛種(モレクッ)の半返りの女傭兵。

・御者
 ディナが管理する娼婦街の元締め、ロズの用意してくれた馬車(ゥラエダ)の御者。ちょっと訛っている。野盗の仲間だった疑惑がある。

・襲撃者たち
 森の中を近づいてきたのは猿種(マンッ)鼠種(ラタトスクッ)
 横転馬車(ゥラエダ)の裏側辺りに待機しているのが羊種(クヌムッ)牛種(モレクッ)。他にもまだ仲間がいそう。



■ はみ出しコラム【魔物まとめ その一】
 現時点で登場済の各魔物たちについて、おさらいも含め「主な登場者」への記載内容に補足をつけて紹介する。

 異門(ポールタ)を通り、異界からホルトゥスへと出現した生命体を、魔物と呼ぶ。
 ホルトゥスへ来たばかりの魔物にはお客さん(ペルディタ)という呼称がある。
 また、魔物がホルトゥスに馴染んで居着き、繁殖した第二世代以降を移住者(イミグラチオ)とも呼ぶ。
 ただし、移住者(イミグラチオ)と呼ぶのは、ホルトゥスの住民に対して友好的・中立的な存在のみであり、獣種を常食とするような存在には用いられない。

・カリカンジャロス
 顔はゴブリンに似ているが、角も尻尾もある毛むくじゃらで獣種よりも大きな魔物。ゴブリンの亜種。
 ゴブリン同様悪戯好きだが、三以上数えられないため三つ以上の小石を数えさせれば足止めできる。陽の光も嫌い。

・ゴブリン
 小憎たらしい顔ではあるが、獣種の人間に似た外観でイタズラ好きな種族。慎重は獣種の子供くらい。
 誰かをからかい、歌を歌い、踊り、繁殖して楽しく生きていくのを好む。
 集団で過ごす中には魔術師がいる場合もある。『取り替え子』はゴブリン魔術師自体の丈夫さを増すためのようであるが、それ以外の魔法はほぼ悪戯のためだけに使われる。

・ゾンビー
 肉体を失った魂のうち、寿命のまだ残存する者が、本来の肉体ではないものを仮の肉体として使用しているものを「ゾンビー」と呼ぶことを、かつてとある魔術師が提唱し、一般化した。
 仮の肉体は、有機物である必要はなく、魂が生命体のものでありさえすれば、「ゾンビー」という表現が使用される。
 ちなみに、肉体と結びついていない魂(とそれに付随した寿命の渦(コスモス)のワンセット)は「アニマ」と呼ばれる。

・ゴーレム
 魂の代わりに魔法を宿らせた肉体のものを「ゴーレム」と呼ぶことを、かつてとある魔術師が提唱し、一般化した。
 魔法を宿らせた肉体が有機物であろう無機物であろうとも、「ゴーレム」という表現が使用される。

・イミタティオ
 本来とは異なる魂と肉体の不自然な結びつきの存在について「魔術特異症」という表現が使用されるが、「ゾンビー」や「ゴーレム」を「魔術特異症」というカテゴリに加えたくない魔術師たちが、「イミタティオ」というカテゴリでくくっている。

・アルティバティラエ
 半裸に申し訳程度に白い布をまとい、怪我をした髪の長い獣種の姿に擬態して近づいてきた魔物。
 獣種を捕食する。

・モルモリュケー
 ゴブリンの死体に群がる狼に混じり血をすすっていた、一見すると犬種(アヌビスッ)の狼亜種の女性。
 狼の乙女。ストウ村でも狩人はその名を知っており、移住者(イミグラチオ)として扱われている。

・パイア
 猪のような外観の地界(クリープタ)の魔物。育児嚢の中で、獲物となる人型の女性に似た疑似性器を作成する。
 甘い匂いを出し体を麻痺させる毒を持つ。獲物の男から精を貪り妊娠すると、村を一つ滅ぼすほど人を喰らう。
 パイアは必ずメスしか産まない。

・ホムンクルス
 一般的なホムンクルスは魔男(マグス)の精液を主な原材料とし、地球においてパラケルススの造ったホムンクルスと似ている。
 この単性生殖とも言えるべき原初のホムンクルスに対し、カエルレウムは自分の卵核を加え、予め用意した疑似子宮を用いてホムンクルスを育てたところ、獣種とほとんど変わらないホムンクルスが完成した。細胞分裂後、脳に相当する器官が分かれて発達し始めた頃に魂が宿ったと記録されている。

骨なし(フリテニン)
 異世界との境界に近い場所に生息する半分液状の生物。瘴気を喰らうため、お客さん(ペルディタ)を狩ることのある者の中にはガラス瓶に閉じ込めた骨なし(フリテニン)を持ち歩き、瘴気除去に使用することもある。

・マンティコラ
 猫種(バステトッ)獅子亜種の逆先祖返り――顔だけ人で、体は獅子という魔物。
 尾の先には毒針があり、歯は三列に並んでいて、獣種を好んで喰らうという。
 ラトウィヂ王国の東側をほぼ全て塞いでいる山脈は牙のように鋭い山々が幾重にも重なっている様子から、その危険性込みで「マンティコラの歯」と名付けられた。
 ストウ村では、小さな子が夜遅くまで起きているとマンティコラの歯山脈からマンティコラが飛んできて喰われてしまうぞ、などとしつけ用に用いられている。

ドラゴン(ドラコ)
 まだ本編には登場していないが、魔物の中でも特に恐ろしい存在としてホルトゥスの人々に認識されている。
 マンティコラの歯山脈に生息しているという噂がある。
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