第14話

文字数 1,301文字

 風呂から上がってバスタオルで莉音の背中を詩織が拭いていた。その時に背中の火傷の傷が消えて居る事に気づいた。
「莉音ちゃん、背中の痛い痛いが治ってる! 」
莉音も
「うん、もう痛く無いよ」
と驚きもせずに返事をした。
 さっき背中を洗った時も、湯船に浸かってた時も傷はあった。お風呂が気持ち良い物だと知って恐怖を克服したという事なのか…。アザも傷も綺麗に無くなり、普通の可愛らしい幼児となって居た。莉音の身体の健康と心穏やかな事が、こんなにも嬉しくて堪らない。亮平と詩織のケアだけでは無く莉音の成長する力が全ての傷を癒したのだろうと感じた。
「莉音ちゃん良かった!痛い痛い無くなって良かった! 」
詩織は莉音をバスタオルごと抱きしめた。
「お母さん大好き」
莉音も詩織に抱きついた。
「お母さんも莉音ちゃん大好き」
詩織は愛おしく我が子に頬擦りした。
「莉音ちゃん、お風呂上がりにアイス食べよう」
「食べる食べる! 」
 詩織は冷凍庫から箱に入った一口大のチョココーティングされたバニラアイスを皿に盛ってフォークを付けて出した。
 莉音は小さな口を大きく開けてアイスを頬張って居る。
 詩織はその間に莉音の髪をドライヤーで乾かして髪をとかした。
「綺麗な髪ね」
「シャンプーの良い匂いするの」
莉音は詩織と同じ香りがするのが嬉しくて、自分の髪の匂いを何度も嗅いだ。
 夕方になり、亮平が帰宅する車の音が聞こえた。詩織は晩御飯の一品のポテトサラダを盛る手を止めて莉音と一緒に玄関に出迎えに向かった。
「ただいま」
莉音は亮平が玄関ドアを締めるのも待たず
「お帰りなさいお父さん!あのね、あのね」
と言いながら抱っこを求める様に手を広げた。
「ん?なぁに? 」
亮平は莉音を抱き上げながら聞いた。
「莉音ね、お母さんとお風呂入ったんだよ! 」
「えっ?莉音ちゃんお風呂入ったの⁉︎」
「うん! 」
「怖くなかった? 」
恐る恐る、心配した亮平は聞いた。
「怖くないよ!すーっごく気持ち良くてモコモコの雲をいっぱい作ったの。髪もお母さんと同じ匂いだよ」
嬉しい気持ちが溢れてる莉音を見て、亮平は莉音の髪に鼻をうずめた。幼児らしい柔らかい髪の感触が頬を撫でた。
「本当だ、莉音ちゃんの髪はいつもお日様の匂いだけど、今日はお母さんと同じ匂いだね!お風呂入れて莉音ちゃんお利口さんだね」
莉音は亮平の抱っこから降りてジャングルジムを登り始めた。
 夕飯の盛り付けを再開した詩織に亮平は
「莉音ちゃんお風呂入れたんだ」
と驚きから抜けきれずに話し掛けた。
「うん、莉音ちゃんはシッカリ成長してるね」
と、詩織は今日の公園での友達の事や健吾の事そして傷が全て無くなった事を亮平に話した。
「健吾⁉︎健吾が⁉︎ 」
「そう、健吾が天国で健やかに暮らしてるって。健吾が私達の元に数日間居てくれたのよ。私のお腹に。そして莉音ちゃんの友達になってくれたの。私達には健吾と莉音ちゃんと言う子供が居るのよ」
「そうか、健吾が…。良い子にしてるんだ…。健吾が…」
亮平と詩織は愛おしく莉音を見つめた。そして近くに居るかも知れない健吾も見つめて居る様な思いだった。
 無邪気に遊んで居る莉音と見えない健吾を二人で見つめた。
 
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