第5話

文字数 1,410文字

 詩織は莉音が笑顔を見せて幸せや喜びを感じる為に何をしたら良いかを考えた。
 先ずは楽しく美味しく食べてほしい…。飛んだら跳ねたり遊んでほしい…。莉音としたい事が次々と出て来た。
 もうどれが一番して欲しいか等どうでも良くなって来て、兎に角やる事にした。
「莉音ちゃん、ホットケーキ一緒に作る?」
「ホットケーキ? 」
「そう、ホットケーキ」
「莉音下手だからこぼしちゃいそう…」
「おばさんも下手だったよ。いつもこぼしてた」
「そうなの? 」
「うん」
詩織が笑うと莉音も緊張を残しつつも笑った。詩織は
「じゃあ」
と言いながらボールと泡立て器と、ホットケーキミックス、卵、牛乳を用意した。
 ボールにホットケーキミックスを入れて卵と牛乳を更に入れてかき混ぜ始めると、莉音は興味有り気に覗き込んだ。詩織は更に興味を持たせようと 泡立て器からこぼれ落ちる生地で
「莉音ちゃん見て、ハート」
とハートを描いて見せた。
「うわぁ、ハートだぁ! 」
歓声を上げた莉音に
「莉音ちゃんも描いてみる? 」
と聞くと、こぼして叱られるのでは?との緊張が解けない様だった。
 今やらせても無理強いになってしまうのでは?と今日は一緒に作る段階では無いと詩織は察した。ならば作る工程を見て楽しんで、お腹いっぱい食べてもらおう。とプランを変更した。
「じゃあフライパンにこの生地を流すから見ててね」
莉音は瞬きもせずにじっとオタマから落ちる生地を見つめた。フライパンに着いたきじは生地は音を立てた。
「ジュワー…って言ったね」
詩織が言うと
「うん!ジュワー! 」
莉音はと万歳をして喜んだ。
 数枚焼き上がったホットケーキを詩織は更に盛り付け、バターを乗せるとホットケーキの熱でゆっくり解け始めた。そこにメープルシロップを垂らすと、甘い香りとバターの香りが湯気と一緒に上がって来た。
「良い匂い…」
 食べたいのを必死で堪えてる莉音を見て
「さて、頂きますしていっぱい食べよ」
と詩織が声を掛けて二人で手を合わせて
「頂きます」と頭を下げた。
詩織がホットケーキにフォークを入れ湯気が立ち上るのを莉音は見つめた。食べて良いのか緊張がある様だ。そんなに急に今迄の生活の緊張は解れないだろうと、詩織は一口大にしたホットケーキを
「莉音ちゃん、アーンして」
と莉音の口元に運んだ。上目使いで見ている莉音に
「一緒に笑いながら食べるの、おばさん大好き」
と笑顔で声を掛けた。莉音は恐る恐るパクッッと口に入れた。
 フンワリとした食感とメープルの甘さとバターの風味に目を細めた莉音を見て
「美味しい? 」と聞くと莉音は頷いた。
 一緒に食べ進めて居て、莉音のホットケーキからメープルシロップがテーブルに数滴こぼれ落ちた。莉音は青ざめて硬直し
「ごめんなさい、ごめんなさい」
と繰り返した。詩織は笑顔で
「こう云う時は、ジャジャーン。テーブル布巾を濡らして絞って…。拭いたら元通り!ね、心配無いでしょう。また溢れたら莉音ちゃん拭いてくれる? 」
「うん! 」
 そんな事を食事の度に繰り返して、莉音は
『私も食べても良い』『こぼしても大丈夫』と云う感覚を養った。
 詩織が台所に立つと楽しそうに様子を見に来る様に少しずつなって来た。
 不思議と幽霊と言いつつも、毎日食事を楽しんでいる内に浮き出て居た肋骨が普通の子供の背中の様になった。
 そんな背中を見て亮平と詩織は、莉音のお腹と心が満たされている部分がで出来ているのでは…と嬉しい思いを抱いた。
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