第13話 みんな、死ぬのに

文字数 794文字

 まるで、死なないみたいに生きている。
 不思議なことだ、不思議なことだ。

 みんな、動く心臓と考える頭を持っているのに
 生と死が与えられ(なにものかに!)、その束の間のあいだと生きているだけなのに

 平安、安穏、やすらぎ、和らいだ世界と無援のようだ
 みんな、自分のことでいそがしい
 わたしも、そのひとりだ

 何を焦っているのか 何を恨んでいるのか

 正体不明
 見えないものに、手に取れないものに動かされている
 それがこの世の真相なのだ

 なぜ笑い なぜ怒り なぜ悲しむのか
 わからないのに、わからないものに動かされているのが真相なのだ

 みんな死ぬのに
 みんな死ぬのに
 どうして自分のことだけ考えられるだろう
 みんな、同じ
 わけのわからないものに突き動かされているだけなのに
 どうして、こいつはイイだの、あいつはワルイだの、善悪の判断ができるというのだろう

 自分はダメで、まわりはみんな立派だと思う
 くらべ、くらべて、くらべられ
 相対的なものでしか、判断はできないんだ

 自ずから、然り? 自然であれば、完璧だって?
 もう、ひとりで、完全だったって?

 そんなの、知ろうとする人、もういないよ
「身体障害者は害ではないから、

とひらがなで書きましょう」
 せいぜい、形だけ
 とりつくろうので精いっぱいだ
 空虚、空虚!

 イイ社会なんて、なかったねえ
 平等だの 嘘っぱちだったねえ

 みんな、知ろうともしないよ
 目に見えないもの
 わかりもしないものに
 生かされてること

 存在しないけど 存在してるものを
 振り向こうともしないよ

「きみの言うことは、理解できない」
 自分の言うことは、理解されると思ってるヤツが言う

 からっぽの虫め。

 さぁ、わたしは泳ぎに行こう
 ぽかんと浮かぶ舟になって 揺蕩う。

 海は、ここにあるよ、ほら
 ここにあるよ
 春の、やわらかい、きらきらしたやさしい海がここにあるよ
 すぐ、ここにあるんだよ
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